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2024.03.24

なぜ単なる「クルマ好き」が売れっ子自動車ジャーナリストになれたのか?

クルマのメカやデザインを専門に勉強したわけでもない筆者が、なぜ、多くのメーカーに信頼される売れっ子自動車ジャーナリストになれたのか? その秘密は筆者ならではの試乗記にあった⁉

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第229回

多くのクルマの開発に関わり、多くの人と出会った。楽しくも刺激的な仕事だった! 

イラスト 溝呂木 陽 岡崎宏司の「クルマ備忘録」
僕が自動車ジャーナリストとしてスタートしたのは1964年。日本のモータリゼーションが大きく動き出した時期だ。

日本の自動車産業は急速に力を強め、国内市場は凄まじい勢いで拡大。同時に海外市場での日本車の存在感も急上昇していた。

そんな絶好のタイミングで、僕は自動車ジャーナリストとしてのスタートを切った。ラッキーだった。
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初めの3年半は、自動車専門誌の編集者として基礎を学んだ。と同時に業界に多くの知己を得たが、これが大きな財産になり、フリーランスへの転向を後押しすることになった。

フリーランス転向後の仕事は順調に、、いや急ピッチで増え続け、自動車専門誌だけでなく、一般誌紙にまで拡がっていった。

すごい量の仕事が舞い込んできたことには戸惑いもしたが、若さというエネルギーでクリアした。ほんとうに忙しい日々だったが、同時に、楽しくもあり、充実していた。

メーカーとの距離が近くなったことも、フリーランス転向後の大きな変化だった。こちらからの取材依頼という一方通行ではなく、メーカーからもあれこれ依頼や相談事が入るようになったのだ。

初めは間口の広い世間話的なやり取りといったこともあったが、回を重ねるごとに専門的なやり取りに変わっていった。どこのメーカーも、だいたい同じような流れだった。

専門的とはいっても、僕は理系の人間ではないし、理系の勉強もしていない。デザインの勉強もしたことはない。単純に言えば、単なる「クルマ好き」でしかない。
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だから、メーカーのエンジニアやデザイナーと「専門的なやりとり」などできない。「クルマを見て、触れて、走らせて、感じたこと」を話すしかない。

ただ、僕には、年齢の割にはけっこうな「クルマとの付き合いの経験」があった。これは貴重なことだった。

16歳から19歳までの3年間、僕は2輪に狂っていた。学校から帰ればすぐバイクに飛び乗り仲間の元へ。そして、深夜までバイクの話に夢中になっていた。

週末はほとんどバイク仲間と遠出した。少数のグループだったが、みんな上手くて速かった。振り返ると、よくあんな走りをしていて無事だったと思う。

飛ばしはしても、無理 / 無茶はしなかったということになるのだろうか。誰も事故は起こさなかったし、怪我もしなかった。そんな仲間に鍛えられた「メリハリある飛ばし方」は、4輪に乗り換えても役に立った。

日本のモータリゼーションの大きな節目になった第1回 / 第2回日本GPに刺激され、週末には鈴鹿通いを重ねて腕を磨いたことも貴重な経験になった。
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自動車雑誌のいちばんの売り物は試乗記だが、僕の書く試乗記は「走りの限界領域をしっかり評価し、わかりやすい言葉で記述する」のが特徴だったかと思う。そのために、タイヤなども懸命に勉強した。

その結果として、スカイラインGT-Rの産みの親である櫻井眞一郎さんからは、「限界に生きる男」などという、照れ臭くもありがたいニックネームをいただいたりもした。

ちなみに、「わかりやすい言葉」とは、専門用語ではなく、一般読者でも理解できる言葉で表現するということになる。

当時は、日本車が欧米先進国のクルマを必死に追いかける時代でもあったわけだが、そのためにも限界領域での評価をしっかりしたものにすることは重要だった。

しかし、当時の日本メーカーは、テストコースも貧弱だったし、人材育成も遅れていた。それに、社員ドライバーが限界領域のテストをするためには、高い安全性の確保も絶対に欠かせない。ここも高い壁になっていた。

そうした状況下で、社外の人間である岡崎なら、少々深追いしても目を瞑っていられる、、といったこともあったのだろう。どのメーカーも、基本的に、僕への「走りの縛り」は一切なかった。
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僕は輸入車にもほとんど乗っていたので、それとの比較評価もできた。

加えて、1980年代に入ると、海外での試乗機会が一気に増えた。多くの道を走り、海外メーカーのテストコースを走り、開発部門の腕利きドライバーの横乗りといった貴重な体験をも重ねるようになった。

そうした状況は、日本メーカーからのリクエストをより加速させることになった。

開発中の車両のテスト、デザインの評価、マーケティングに関するあれこれ、、リクエストの幅もどんどん拡がっていった。車両企画の初期段階からの参加を求められることも増えていった。

デザインの勉強をしていなくても、理系の勉強をしていなくても、「経験と感覚」から導き出した僕の意見は、メーカーの専門家たちの期待に適ったものだったのだろう。

海外メーカーの場合も、僕の「試乗記」は翻訳して本社へ送られた。そして、上層部にまで伝えられ、結果として、本社開発部との意見交換の場はどんどん増えていった。

日本市場向け車両のテスト依頼も度々あったが、テストの場として、僕は日本の道路で行うことを強く主張した。
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「クルマは道が創る」が僕の基本的な考え方だが、個々のクルマの個性を十分尊重しながら、日本仕様車は日本の道路との相性を確実に把握しておくことの大切さを強く主張したということだ。

結果、日本仕様車を日本でテストするケースは増え、僕もそこに参加することが増えた。1週間まるまる拘束されたこともあった。

それは「ロードノイズやこもり音」に関しての僕の意見が採り入れられ、それに対応するためのものだったが、「最高!」とも言っていい結果を引き出すことができた。

こうした過程で、僕は開発部門を中心にした多くの方々と出会ったが、中でも、「走行実験」関係の方々との相性はよかった。

もちろん、走行実験関係の方々は、クルマを基礎から学び、走りを基礎から学んだ方々であり、僕のような「走り屋の成れの果て」ではない。

僕は「コストのことなどあまり考えず、まずはベストな答を引き出すことに集中する」わけだが、実験部の方々はそうはいかない。
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でも、「走って、感じて、考える」という基本部分では共通する立場にあるので、お互い「気心は通じやすい」し「話はしやすい」。

なので、個人的にも「仲が良い」といった関係になりやすい。これはメーカーの違いに関わらず、国の違いに関わらず共通している。

「仲が良い」といえば、トップマネージメントといった地位にあるような方々でも、「クルマが好き」「運転が好き」な人とは仲良くなりやすい。仲良くなりやすいというより、自然に仲良くなってしまう。

となると、仕事の場だけでなく、プライベートな場での接触もでてくる。食事をするといったことはもちろん、「俺のクルマに乗ってみてよ!」といった誘いも出てくる。で、僕は海外にまで出かけていく。

こうしたことは記事にもできないし、一銭にもならないが、楽しいことこの上ない。

外観は既存の市販車だが、中身はまるで違うクルマを預けられ、あちこちを数日走り回って結果を報告する、、そんなことも何度もあった。特に欧州メーカーは多かった。
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同様な依頼はアメリカでもあった。なかでも、LAの大好きなホテルを拠点に4日間、「カリフォルニアを自由に走って、その印象を聞かせてほしい」という依頼は最高だった。しかも、預けられたのは大好きなスポーツ系クーペ。もう、いうことなしだった。

ほぼ60年間、、僕は多くのクルマと多くの人たちに出会い、多くの経験を重ね、多くの思い出を作ってきた。

もちろん、いい思い出ばかりではないが、いい思い出の方が断然多い。僕は楽観主義者かもしれないが、それを差し引いても、確実にハッピーな自動車人生を送ってきたと思う。

なかでも、「開発」という中枢的な仕事を通じて出会った「クルマ好き」「運転好き」の方々とのお付き合いは、僕の人生を楽しく豊かにしてくれた。ここで改めて感謝したい。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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