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2020.12.08

リシャール・ミルはなぜ高い? “億越え”も納得なその理由

いまや"億超えモデル"も珍しくはなくなったリシャール・ミル。高級時計のなかでも群を抜く高価格帯にもかかわらず、数多くのファンを魅了するプロダクトには、納得の理由がありました。

CREDIT :

文/川上康介

"億ウォッチ"がなぜ飛ぶように売れる?

21世紀の時計マーケットにもっとも大きな影響を与えたブランドがリシャール・ミルだというのは、間違いないだろう。

機械式をメインとする高級時計業界がミレニアムブームに湧いた2000年前後。当時、価格が1000万円を超える時計は、年に2~3本発表される程度だった。ゴールドかプラチナのケースにトゥールビヨンにミニッツリピーターやパーペチュアルカレンダーなどを組み合わせたスーパーコンプリケーションか、もしくは文字盤にびっしりとダイヤモンドを敷きつめたようなジュエリーウォッチ。

そんな時計を見ては、「腕時計にこんな金を払う人がいるんだろうか?」と疑問に思ったものだった。

2001年に誕生したリシャール・ミルは、そんな時計マーケットに革命を起こした。記念すべきファーストモデル「RM 001」は、チタンケースのトゥールビヨンで、日本円にして1900万円。もし誰もが知る老舗ブランドから発売されたとしても、当時の“相場”でいえば、せいぜい500〜600万円というところだろうか。
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ブランドのファーストモデル。「RM 001 トゥールビヨン」手巻き、TIケース(45×38.30mm)、カーフストラップ、生産終了。/リシャール・ミル(リシャールミルジャパン)
あまりにも脆弱で実用性の低かったトゥールビヨンの耐衝撃性を極限まで高めたとはいえ、無名ブランドのデビューモデルとしては、荒唐無稽ともいえるプライシングだった。しかしこの「RM 001」は、限定生産の17本がすぐに完売。以降、同ブランドはニューモデルを2000万円、3000万円、5000万円、そして1億円と次々と“見えない壁”を突破することになる。
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2005年くらいからだろうか。リシャール・ミルの常識破りの成功は時計業界でも話題になり、このビジネスモデルを追従するブランドが現れはじめた。コンプリケーションをてんこ盛りにして、生産本数を限定。100万円の時計を30本売るよりも3000万円の時計を1本売ったほうがはるかに利益率は高い。

元来、限られたマーケットでビジネスを行なっている高級機械式時計の業界がいっせいに超高価格化したのは、自然の流れだったと言っていいだろう。いまやジュネーヴやバーゼルで行われているウォッチフェアで数千万円、1億円、2億円といった時計が発表されるのは、珍しいことではない。このトレンドを作ったのは、間違いなくリシャール・ミルだった。
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他ブランドと全く異なる、リシャール・ミルの価格の理由

では、なぜリシャール・ミルの時計は、高価なのか。過激=“エクストリーム”と評されるほど驚異的な機構を有し、高価な素材を使っているから。もちろんそれも正解だ。だが、それだけが理由ではない。
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そもそも追従して価格をあげたブランドとリシャール・ミルとは、プライシングのロジックがまるで異なる。追従ブランドのプライシングは、リシャール・ミルが築いたマーケットに向けたものだ。つまり「5000万円の時計を買う人が10人いるなら、5000万円の時計を10本作ろう」というもの。5000万円という価格がまず決定し、その価格で販売するための機能や素材、限定本数が決まっていく。非常に常識的で正攻法のマーケティングロジックだ。一方、リシャール・ミルのプライシングは、もっとシンプルで、ある意味原始的だ。

リシャール・ミルの時計作りは、稀代のウォッチコンセプターであるリシャール・ミル氏の理想の時計の追求から始まる。その原点は、非常に明確だ。

正確で、堅牢で、軽く、使いやすい腕時計。そこから「日常生活で使えるトゥールビヨン」、「ゴルフのスイングスピードを測定できる機械式時計」、「わずか20g。テニスの試合でも使えるトゥールビヨン」、「クオーツを超えた正確性をもつ機械式時計」など、驚異的な時計が次々と生み出される。

理想を実現するためのアイデアがあり、そのためのムーブメントを開発し、それを実現する素材やパーツを集め、時にはそれを作るための機械作りから取り組み、完璧なまでの作り込みとテストを行う。ひとつのアイデアがカタチになるまで、数年の時間を有し、実現できないこともしばしばあるという。
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スイスにあるリシャール・ミルの工房を訪ねたことがある。最新式の工作機械が並ぶ工房内は、ファクトリーというよりラボラトリーといった雰囲気。撮影禁止といわれた機械は、某国の軍事工場と同じもので、世界に数台しか存在しない特注品だという。

その隣りでは、大きなゴルフクラブのような金属ハンマーで組み上げられた時計を弾き飛ばすテストが行われていた。このテストをクリアしなければ、製品として出荷されることはない。極小のネジを作る機械の横では、厳しいチェックが行われ、出来上がったネジのほとんどがハジかれていた。残るのはごくわずか。それらだけがパーツとして採用されていく。

「このネジは1本100ドル以上するんだ」と職人は笑いながら語っていたが、決してジョークではなかったと思う。それくらいひとつひとつのパーツ作りにこだわっていた。リシャール・ミルの理想の追求には、一切の妥協がないのだ。
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こういったひとつひとつの積み重ねが、リシャール・ミルの価格を決めていく。作りはじめるときは、価格は決まっていない。希少な工作機械を購入し、他にはないパーツを作り上げ、それを何度も組み直し、入念なテストを繰り返す。スイスでも高度の技術を持った職人たちだけを集め、彼らが時間をかけてひとつの時計を作り上げていく。

そういった費用・経費が積み上げられ、しかも生産本数が限られているだから、価格が上がるのは当然だ。5億円投資しても、5000本つくれば1本あたり10万円だが、せいぜい50本しかつくらないのだから、その制作経費は1000万円となる。単純な割り算だ。
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ちなみにリシャール・ミルが本数を限定しているのは、希少価値を高めるためではない。時間的にも技術的にも限られた本数しか作れないのだ。なぜならリシャール氏の頭のなかには、まだまだカタチになっていない理想の時計があるから。限られたリソースを彼は、過去のために費やすことをしない。彼は常に未来を目指しているのだ。

リシャール・ミルの腕時計は、確かに高い。だが、知れば知るほど、その価格に納得せざるを得なくなっている。リシャール・ミルが作っているのは、プロダクトのなりをしたアートだ。ひとつひとつの時計には、リシャール・ミルという人間だけが持つ類まれなる知識とセンス、哲学と情熱が詰め込まれている。もし財布(というより金庫)に余裕があるなら、ぜひ一度触れてみることをおすすめしたい。そこには常識をくつがえし、時代を変えるとてつもないパワーが秘められている。

■ お問い合わせ

リシャールミルジャパン  03-5511-1555

● 川上康介(ジャーナリスト)

1971年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『週刊文春』『Title』などの編集部に所属。その後、『GQJAPAN』ディレクターを経て、2006年、フリーランスのライター、ジャーナリストとして独立。著書に『五感で学べ』『プロフェッショナル・コンセプター』など。

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