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戦前では、メーカーはシャシーとエンジンを販売し、買い手はそれを車体屋に持ちこんで、好みの仕上げにするのが常だった。スポーティなクルマが欲しいときには、ショートホイールベースにパワフルでコンパクトなエンジンを選び、クーペボディを得意とするボディメーカーに車体製作を依頼した。
フェラーリが2018年に発表した「イコーナ」というビジネスは、ワンオフの”伝統”を復活させるものだ。もちろんフェラーリのような高級ブランドは、ずっとワンオフを手がけてきてはいたが、今回はメーカー主導で台数限定のスポーツカーを製造し、選ばれた顧客に販売する。それを大きな柱の一つにしていきたい、と同社ではしているのである。
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2019年2月に東京にも持ちこまれたモンツァSP1は、50年代に活躍したレーシングフェラーリをイメージしたシングルシーターだ。低いオープンボディは、バルケッタ(小舟)と呼ばれる伝統的なスタイルで、そこに往年のクルマのような大きなヘッドレストを備えている。
サーキットで知られる北イタリアのモンツァを車名に使ったのも、50年代のレーシングモデル「750モンツァ」や「860モンツァ」を意識してのことという。だ。デザインを手がけたフェラーリのスタイリングセンターでは、前後タイヤの存在感を際立たせつつ、表面にはうまく抑揚をつけ、エレガントさも盛り込んでいる。
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810馬力という超強力な6.5リッターV型12気筒エンジンを搭載している。静止から時速100キロに加速するのに要する時間は2.9秒であり、最高速は時速300キロを超えるとフェラーリではする。
フェラーリが作るだけあって、雰囲気だけで終わっていないというのが商品的な価値なのだ。新しさでいうと、バーチャルウィンドシールドも特筆すべき技術だろう。通常のクルマのようにウィンドシールドを持たないSP1では、コクピット前に空力付加物を設けて、風がドライバーの頭上へと流れるように工夫されている。
50年代のレーシングカーはあまり有効な風防を持っていなかったことを前提に、フェラーリのエンジニアが採用した技術が、バーチャルウィンドシールドなのだ。
ヘルメットを被って乗るスタイルを重視するオーナーがいたときのために、フェラーリでは専用のヘルメットとウェアも提案している。これもまたユニークな試みといえよう。
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手がけたのはロロピアーナで、上下のスーツはユニセックスのデザインで、クラシックさとモダンさをバランスさせたものだ。これにベルルッティのシューズが合わせてある。ベルルッティが手がけているのはレーシングシューズではないが、履きやすそうな雰囲気だった。
ベルルッティでは炭素樹脂製のヘルメットに貼られたレザーも担当し、さらに今回東京に持ちこまれたモデルのシートのレザーも手がけていた。見た目はパティーヌの仕上げだろう、独特の色合いと艶が美しい。
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300万ドルとも言われるSP1とSP2は、合計で500台ていどが限定生産される。買えるのは、先着順ではないし、フェラーリの主要モデルを複数所有しているだけでは、まだ資格をクリアできない。フェラーリの担当者からの”招待”が必要なのだ。
全長4657ミリのボディはCFRP製で、重量1500キロに抑えられている
往年のレーシングモデルを彷彿させる大きなヘッドレストが特徴的だ(2018年9月のパリ自動車ショーにて)
東京に持ちこまれたSP1
レーシングマシンのようなコクピットにベルルッティのレザー張りシートが備わるショーモデル
SP2は2シーター
従来のようなウィンドシールドは持たずバーチャルウィンドシールドなる機構が備わる
ロロピアーナの服にベルルッティのシューズの組み合わせが「イコーナ」ルック
全長4657ミリのボディはCFRP製で、重量1500キロに抑えられている
往年のレーシングモデルを彷彿させる大きなヘッドレストが特徴的だ(2018年9月のパリ自動車ショーにて)
東京に持ちこまれたSP1
レーシングマシンのようなコクピットにベルルッティのレザー張りシートが備わるショーモデル
SP2は2シーター
従来のようなウィンドシールドは持たずバーチャルウィンドシールドなる機構が備わる
ロロピアーナの服にベルルッティのシューズの組み合わせが「イコーナ」ルック
● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト
慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。