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オープン化での重量増はたったの49キロ
2019年2月に、私は米アリゾナ州で最新モデル「マクラーレン600LTスパイダー」に試乗した。本来は、日本でも1月に発表された新型「720Sスパイダー」に乗りに行ったのだが(その話は後日)、600LTスパイダーに乗れたのは現地でのサプライズだった。
600LT(ロングテールの略)は、2018年夏にクーペ版が発表された。既存の570Sのより高性能版として開発された。後車軸前に搭載されたエンジンは3.8リッターV型8気筒ツインターボで、それに7段ツインクラッチ変速機の組み合わせという基本は共通だ。
出力は車名に表されているとおり、570psから600psへと上がっている。かつ、ボディの剛性アップ、軽量化、サスペンションやブレーキの高性能化と、2車のキャラクターのちがいは明確だ。
570Sは、マクラーレンのラインナップにおいて「スポーツシリーズ」に属し、サーキットでも楽しめるいっぽう、旅行にも行けるグランドツアラーとして開発されている。570Sスパイダーも同様なのだが、今回の600LTスパイダーはクーペにならって、サーキット志向が強まっている。
フェラーリ488スパイダーやランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテ・スパイダーに興味を持っているひとを視野に入れて開発されたのが600LTスパイダーだ。マクラーレンがなにより強調しているのは軽量(による高性能)である。
通常、クーペからオープンモデルを作ると、ルーフや開閉装置やボディの補強により重量は大きく増えるのが常である。オープンエアの雰囲気を楽しむために、その”犠牲”はしようがないと考えるユーザーは少なくない。
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エンジン出力の数値では劣っていても、車重は200から300キログラムも軽いのが600LTスパイダーの強みである。軽さに勝る性能はなし、というのが、50年代からレースカーの常識だ。別部門でF1を手がけてきたマクラーレンだけあって、それを証明してくれている。
私が600LTスパイダーに乗ったのは、まずフェニックス東部の一般道だ。スタート地点はリゾートとして人気のフォーシーズンズ・リゾート・スコッツデール。背の高いサボテンばかりが目につく、岩がごろごろした荒涼とした風景のなかを走った。
荒涼といっても路面は整備されている。ボディ剛性がうんとあがったいっぽう、足まわりは570Sスパイダーよりだいぶ硬めになって乗り心地は多少犠牲になっている、というのが、事前にマクラーレン・オートモーティブの開発者からの説明だった。しかし矢のように飛び出す加速力に一瞬で心を奪われてしまった私は、それを気にもしなかった。
620Nmの大トルクは5700rpmで得られる高回転型のエンジンであるが、低回転域でも力強い。もっともドライバーにとっては、せっかくのドライブの機会である。私は、よりダイレクトにアクセルペダルへのするどい反応が得られる、上の回転域を維持するように走った。
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風を感じる英国らしいオープンスポーツ
足まわりはたしかに硬めだが、突き上げはそれほど強くなく、路面の影響は受けにくい。ステアリングホイールやフロアへのバイブレーションも抑えられている。スーパースポーツだが、走りがよければそれでいいというのでない。高品質なのだ。
風の巻き込みはない、とはいえない。頭の背後には電動で上下する風巻き込み防止のスクリーンが備わっているが、速度が上がるとあまり役に立たない。
「風の巻き込み、けっこうあるね」と技術者に感想を述べたら、「そうですか?」と意外そうな顔をされた。オープンこそスポーツカーといまだに信じる英国人の作るスポーツカーである。風を浴びてこそナンボ、という価値観はおそらく健在なのだろう。
200キロほど一般道を走ったあと、アリゾナ・モータースポーツパークというクローズドのサーキットでの走行というおまけ(いや、こちらがメインだろう)がついていた。
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適度な速度で走行を楽しむにはスポーツモードでも充分かもしれない。なにしろステアリングホイールの背後にあるロッカーシフトパドルを操作しての変速の際、シフトタイミングの速いこと。トルクバンドの最もパワフルなところをしっかり使えるからだ。
ストレートではどこまで加速するのだろうとやや怖くなりながら、アクセルペダルに載せた足の力を少しゆるめてはシフトアップを何回かし、ブレーキングポイントでシフトダウンのパドルを引くと、車両が回転を合わせて瞬時にギアを落とす。
言うまでもなく、コーナリング能力は抜群で、車体のロールはほとんどせずに、連続するコーナーをこなしていくのに圧倒される。軽量化の恩恵だろう。すばやい加速と減速、それに操舵と繰り返すと、もう、600LTスパイダーのとりこである。
ごくわずかにステアリングを切るだけで、そのとおりに車体が動く。ボディの剛性と、570Sスパイダーよりレートが高められたスプリングのおかげで、レールの上を走るよう、という昔からのスポーツカーのほめ言葉をそのまま使いたくなる。
全長4604ミリ、全幅2095ミリ、全高1196ミリのボディに、いわゆるディヒドラルドアを採用しているので、乗降性がよい。何度見ても、前へと跳ね上がるマクラーレン車独特のドアはカッコよい。
内装は、軽量化に寄与する薄い炭素繊維を使ったうえ、滑りにくい人工スウェードを張ったシートをはじめレーシングカー的だ。エレガンスさえ感じさせる570Sスパイダーとは、内装のデザインでも一線を画している。新しくマクラーレンに加わった600Tスパイダーの日本での価格は3226万8000円とされている。
オープンエアモータリングの醍醐味を味わいながらアリゾナを走る
快適志向の強い570Sスパイダーよりぐっとサーキット志向に振っている
超軽量モノコックのセンターシャシーは基本的に570Sスパイダーと共有し、ディヒドラルドアも同様
薄く軽量のシートに人工スウェードが貼られレーシングカーそのもの
「ACTIVE」をボタンで選択するとサスペンションセッティングなどを任意で選べる
トップエグゾーストは熱すると300度Cになるそうだ
600LTスパイダーの外板色はさまざま用意されている
オープンエアモータリングの醍醐味を味わいながらアリゾナを走る
快適志向の強い570Sスパイダーよりぐっとサーキット志向に振っている
超軽量モノコックのセンターシャシーは基本的に570Sスパイダーと共有し、ディヒドラルドアも同様
薄く軽量のシートに人工スウェードが貼られレーシングカーそのもの
「ACTIVE」をボタンで選択するとサスペンションセッティングなどを任意で選べる
トップエグゾーストは熱すると300度Cになるそうだ
600LTスパイダーの外板色はさまざま用意されている
● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト
慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。