真鍋大度率いるライゾマティクスのインスタレーションが象徴した、今年のテーマとは?
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レクサスでは、毎年、ミラノを舞台に「レクサス・デザインアワード」の展示とグランプリの発表、それにユニークなインスタレーション(一時的な展示)を見せてくれる。
2019年のインスタレーションは、コラボレーションデザイナーに、あのライゾマティクスが起用された。そう書くと、”あ、光がテーマ?”とピンとくるひともいるかもしれない。
アーティスト集団ライゾマティクスは「LEADING WITH LIGHT」をテーマに、真っ暗な空間の中で光線とダンサーがからむステージ仕立てのインスタレーションを作りあげて大いに楽しませてくれた。
256灯というLEDのシャープなライトが、時としてダンサーを追いかけるように、また時としてダンサーの相手がそこにいるかのように床を丸く照らし出す。眼に見えない二人目のダンサーがいるかのようなパフォーマンスだ。
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ライゾマティクスのアーティスト、真鍋大度氏はミラノのトルトーナ地区に設置された会場で、そう話してくれた。初日オープン前からレクサスの会場前は入場待ちの長い行列が出来ていたほどの人気である。
同時に同じ会場で、「レクサス・デザインアワード」のグランプリ発表が行われた。2019年度は65カ国から1548にのぼる応募作品があったそうで、そこからファイナリスト(優勝候補作)は6つに絞られた。
2019年度は、社会や個人のニーズを「予見」し、「革新的」なソリューションで、観衆や審査員の心を「魅了」するアイディアを募集した、というレクサスの説明のとおり、骨太の作品が集まった。
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タイトルに入っているアルゴリムとは物事を進めるための手順などを意味する。レース産業などでは作業を段取りよく進めるため19世紀から採用されていた考えだという。
「デザインとは使用者とテクノロジーを美しくつなげることだと思っています。しかも人間中心でなくてはいけない。その考えかたにぴったりくる作品を選びたかったのです」
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ファイナリストは5つ。アイディアがおもしろいので、ここで紹介しておこうと思う。
フィリピンのジェフリー・デラ・クルス氏は、地洪水被害が大きな懸念である低地のために、水位が上昇しても居住し続けることができる住宅システム「Baluto」を提案した。現地で手に入りやすい竹などの素材でパーツを作り、ユーザーが自力で組み立てられる点も特徴だ。
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ロシアのディミトリー・バラショフ氏は、航空機が離陸する際に噴射する膨大な風力を収集する風力発電機のような機械「グリーンブラストジェットエナジー」を考えた。1機が離陸するだけでスマートフォンを1200回充電できるとか。
中国は広州出身のシュージャン・ユアン氏は重油流出事故の後始末に着目した。「Hydrus」と名づけたソーセージ状の個体(長さ2.4メートルで、30センチ径を想定)を航空機から現場に投下。各個体は自動的に接続しつつ、内蔵されたスキマーや分解菌を用いて迅速に海上の油を回収・分解する。
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2019年にレクサスはミラノで、美しいだけではない、感動から社会問題解決まで、デザインの持つさまざまな力を見せつけてくれた。それは特筆に値すべきことだ。
コラボレーションデザイナーにアーティスト集団Rhizomatiksを迎えたインスタレーション「LEADING WITH LIGHT」
暗闇に動く無数の光線が、人間の動きに呼応するようプログラムされたロボットやパフォーマーと一体に
会場におけるRhizomatiksの真鍋大度氏(中央)と石橋素氏(左)
来場者が手にするボールを光線が追いかけるのもRhizomatiksの仕掛け
「テクノロジーを創造的に活用し、未来とイノベーションを予見させながらも人に寄り添う、Human-Centered(人間中心)なプロダクト」と評価された米のプロダクトデザイナー、リサ・マークス氏の「Algorithmic Lace」
中国の若手プロダクトデザイナー、シュージャン・ユアン氏の「Hydrus」は沖合の重油流出事故に対する応急回収装置
社会的空間と空間テクノロジーに焦点を当てている豪州の設計会社Prevalentの経営者であるベン・バーウィック氏が提案する、効率よく太陽光を使うための「Solgami」
グランプリのリサ・マークス氏を中央に、レクサス・インターナショナルの澤良宏プレジデント(左)をはじめ4人の審査員と、5人のファイナリスト(1名欠席)と、建築家の重松象平氏(上段右から2人め)やハイメ・アジョン氏(上段・左から2人め)ら4人のメンターで記念写真
LEDのセグメント数によらずより細かい遮光制御を可能とするブレードスキャン方式採用のハイビーム可変ヘッドランプ(レクサス車に搭載予定)も会場に展示され、ペンライトを持つ来場者は遊び感覚で機能を確認できた
ミラノ・デザインウィーク初日には朝10時の開場を待つ長い列が出来た
コラボレーションデザイナーにアーティスト集団Rhizomatiksを迎えたインスタレーション「LEADING WITH LIGHT」
暗闇に動く無数の光線が、人間の動きに呼応するようプログラムされたロボットやパフォーマーと一体に
会場におけるRhizomatiksの真鍋大度氏(中央)と石橋素氏(左)
来場者が手にするボールを光線が追いかけるのもRhizomatiksの仕掛け
「テクノロジーを創造的に活用し、未来とイノベーションを予見させながらも人に寄り添う、Human-Centered(人間中心)なプロダクト」と評価された米のプロダクトデザイナー、リサ・マークス氏の「Algorithmic Lace」
中国の若手プロダクトデザイナー、シュージャン・ユアン氏の「Hydrus」は沖合の重油流出事故に対する応急回収装置
社会的空間と空間テクノロジーに焦点を当てている豪州の設計会社Prevalentの経営者であるベン・バーウィック氏が提案する、効率よく太陽光を使うための「Solgami」
グランプリのリサ・マークス氏を中央に、レクサス・インターナショナルの澤良宏プレジデント(左)をはじめ4人の審査員と、5人のファイナリスト(1名欠席)と、建築家の重松象平氏(上段右から2人め)やハイメ・アジョン氏(上段・左から2人め)ら4人のメンターで記念写真
LEDのセグメント数によらずより細かい遮光制御を可能とするブレードスキャン方式採用のハイビーム可変ヘッドランプ(レクサス車に搭載予定)も会場に展示され、ペンライトを持つ来場者は遊び感覚で機能を確認できた
ミラノ・デザインウィーク初日には朝10時の開場を待つ長い列が出来た
● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト
慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。