2019.06.08
マツダ「新型MAZDA3」のデザインは何が売りか?
流れるような美しいデザインが話題のマツダ「新型MAZDA3(マツダ3)」。ファストバックとセダン、2つのボディタイプで異なるテーマを見事に実現した新型車の魅力に迫った。
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文・写真/森口 将之(モビリティジャーナリスト)

まず車名が変わった。マツダ3のルーツは1963年にデビューしたファミリアで、2003年から翌年にかけて、商用車登録のバンを除きアクセラにスイッチした。それがこの世代から、マツダ・ブランドであることを強調するために、欧米と同じマツダ3というネーミングで日本も売っていくことになった。
ボディが2種類であるのはアクセラ時代と同じだ。しかしセダンがそのままなのに対し、ハッチバックは従来のスポーツからファストバックに呼び名が変わっている。
ファストバックの歴史
近年はアウディやホンダがこのスタイルを多用しており、少し前に日本に導入されたプジョー「508」もこの言葉を使っていた。いずれも実用重視のセダンやハッチバックとの差別化を図りたいという目的があるようだ。マツダ3も似たような考えから、ファストバックと名乗ったのだろう。

しかもファストバックとセダンとではデザインが大きく異なる。共通なのは2725mmのホイールベースとボンネット、グリル、ヘッドランプ、ウインドスクリーンなどに留まり、ドアは前後ともに違うし、ルーフのカーブの具合も異なる。
ニュースリリースでも、ファストバックは「色気のある塊」、セダンは「凛とした伸びやかさ」という異なるテーマを掲げている。

2台のコンセプトカーは、世界で高く評価されている魂動(こどう)デザインをさらに深化させるべく、日本の美意識に基づく「引き算の美学」、つまり過剰をそぎ落とし、滑らかな面が表現する繊細な光の移ろいによって豊かな生命感を表現することに力感が置かれていた。
2つのマツダ3に見る方向性の違い
たしかに2つのマツダ3のエクステリアを見比べると、方向性が違う。ファストバックはボディサイドにキャラクターラインがなく、面で魅せる印象が強いのに対し、セダンは長い間クルマの基本形として認められてきた形であることから、水平基調を強め、前後フェンダーなどにラインを追加している。

それでもプロトタイプを生産現場の人たちに見せたときには驚かれたそうだが、嫌とは言われなかった。現行ロードスターのリヤフェンダーの深い絞りもそうだが、マツダの生産現場の人たちには、やってやろうという意気がある。同等の形を生み出すのに、欧州のプレミアムブランドでは5回のプレスが必要なところ、マツダは3回で済んだというエピソードも聞いた。
2つのボディは全長も大きく違う。先代に当たるアクセラのセダンはロングノーズ・ショートデッキを強調した結果、売り上げは伸び悩んだということから、80mm伸ばした4660mmとなった。一方のファストバックは逆に、4460mmとアクセラ・スポーツより10mm短い。
こうなるとフラッグシップセダンのアテンザとのバッティングが気になるところだが、マツダは5月9日に行った2019年3月期の決算発表で、直列6気筒エンジンと縦置きパワートレーンの投入を明らかにしており、これが次期アテンザ(マツダ6に改称される可能性もある)になりそうなので、差別化は自然に図れるだろう。
“ストイック”という言葉さえ思い浮かぶ

インテリアもまた引き算の美学を展開している。ただし最初に形ありきではなく、配置の適正化から考えた。運転席は左右対称とし、ドライバーが見たり触れたりする対象の焦点を等距離とした。ドアとセンターコンソールのアームレストの高さもそろえている。
インパネにガーニッシュと呼ばれる装飾パネルを使わないことも、引き算の美学の具現化の1つ。その代わり、シルバーの帯を全周に回して、バスタブに浸かっているような心地よさを出したそうだ。スイッチについては触感を0.01mmの単位で調節し、ボタンを押す際の心臓の動きまで計測したというのがマツダらしい。
夜間のイルミネーションをホワイトで統一したことも特徴だ。正確な色を見せるという目的もあるが、派手な色を用いた一部のプレミアムブランドへの対抗という意味も伝わってきた。

インテリアカラーはブラックを基調に、セダンはホワイト、ファストバックはバーガンディのレザーを用意した。バーガンディはブルゴーニュの英語読みであり、ワインレッドに近い落ち着いた色調だった。
遮音やオーディオへのこだわり
こうした空間に対応して、オーディオにもこだわった。「マツダ・ハーモニック・アコースティックス」と名付けたそれは、低音を担当するスピーカーは指向性が気にならないので、前輪とキャビンを離したスカイアクティブ・テクノロジーで余裕が生まれたドアの前に埋め込み、中高音を担当するスピーカーはドア上方とピラー根元に取り付け、反射音ではなく直接聞かせるようにした。サウンドデザインと呼んでいい取り組みだ。

走りについては、人が自分の足で歩いているかのような走りを目指したスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー、ディーゼルとガソリンの良さを兼ね備えたというスカイアクティブXエンジンなど、こちらも話題に事欠かないが、走り出す前からここまで語れるというのは、ベースモデルが210万円台のクルマとしてはすごい。あえてマツダ3と車名まで変えてきた理由が理解できた。