2022.05.01
輸入車好きにも刺さる!? 日産アリアのカッコ良さについて
EVに関しては世界でもっとも経験あるメーカー、日産が作った最新プレミアムSUVアリア。その魅力的なデザインと乗り味、走り味に筆者は衝撃を受けたという。日本のEV車の明るい未来を感じさせるアリアの魅力を徹底分析です。
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第183回
文句なくプレミアムな日産の最新EV
小さいけれど、なんとなく愛嬌のある姿は、戦後の街でけっこう目立っていた。タクシーとしても走っていた。
カタログ値の航続距離は96km、最高速度は35km/h。今の常識では完全に「✕」だが、75年前には「よくできました!」との評価だったらしい。
今回のアリアの試乗会で、久しぶりに「たま」に出会ったが、「愛嬌あるなぁー」、「一度見たら忘れないよなー」といった印象を新たにした。
話はいきなり2000年に飛ぶが、、日産は、スタイリッシュな超小型EV「ハイパーミニ」(二人乗り)を開発、販売した。日本初の型式指定取得EVということになる。
航続距離は115km、最高速度は100km/h。ふつうに街を走るのにはなんの問題もなかった。グッドデザイン賞を獲得したルックスも文句無しで、多くの人目を引いた。
とはいえ、実用的には50~60kmといった航続距離では、近所の用足し以上のものは望めない。結局、ハイパーミニは短命に終わらざるを得なかった。
そして2010年、世界初の量産EVとなった初代リーフが誕生。これは世界市場での販売を見据えたもので、航続距離は200km(実用的には100~120km)と、最低限の実用に耐えるところまで引き上げられた。
その後改良進化を続け、2017年に誕生した2代目リーフは航続距離400kmを達成。実用度を大幅に引き上げている。同時に、走り味、乗り味、安全性等々も大きく進化。EVの可能性をみせてくれた。
日産EVの歴史を駆け足で振り返ったが、EVに関しては世界でもっとも経験あるメーカーであるということだ。
まず、言いたいのは「アリアはカッコいい!」ということ。いろいろな人に「いいよね!」と投げかけてみたが、「そうだね!」と同意してくれる人が圧倒的に多かった。
日産は、アリアを「プレミアムSUV」と称しているが、異論はない。僕の目にも文句なくプレミアムに映る。
リーフの兄貴分、、といった捉え方をする人もいるかもしれない、、が、それは違う。
単にサイズが大きいといったことではなく、存在感も輝きも「異種の領域」にある。
全高は1655mm。近づけば、乗り込めば、全高が高いのはわかる、、が、少し離れて全体を見ているときは、背の高さを意識させられることはほとんどない。
ちなみに、ここで言う"SUV"とは、当然ながら、「スペースユーティリティ」ではなく、「スポーツユーティリティ」を指す。
くり返しになるが、アリアのルックスは魅力的。プロポーションにも、フロントにもリアにも、面にも線にも、、僕は惹かれている。
SUVには、多少なりとも土の匂いがする、、そんなイメージを持つ人も少なくないと思うが、アリアにそれはない。まったく、、。
アリアには都会の匂いがプンプンする。
モダンでシャープ、、この種のデザインはとかく「カッコいいけど棘がある」といった印象を生みがちだが、それもない。
また、未来のあれこれを想起させるデザインは、とかく冷ややかさを伴いがち。でも、アリアの未来感に、僕は優しさを感じている。
ボディカラーは断然2トーンがいい。とくに、イメージカラーになっている、「サンライズカッパー&ミッドナイトブラック」はいい。
輸入車好きは、輝かしい歴史や、その上に乗って磨き上げられてきた「ブランド」の魅力、、つまりは、それらがもたらす「プレミアム感」に惹かれるのだろう。
僕も輸入車好きのひとり。歴史あるブランドが語りかけてくる「物語」には強く惹かれるし、それが購入動機にも繋がってきた。
それともうひとつ、輸入車に惹かれるのはデザイン面。単純に言えば、輸入車のデザインには「個性とセンス」がある。たとえ、多くを対象にした大衆車でも、だ。
もちろん、すべてが、、とはいわないが、「デザインがもたらす魅力」が購入動機になっているケースは少なくないだろう。
僕はアウディ大好き人間だが、その決定的なキッカケになったのが「初代TT」。イタリアで行われた試乗会で目の前にした瞬間、「買う」ことを決めた。
走りには問題課題もあったが、「ほしい!」という気持ちをどうしても抑えられないほど惹きつけられてしまった。そして、その瞬間から、僕の中で、アウディは「プレミアムな存在!」になった。
アリアが正式発表されたのは2020年7月。すでに2年近くの時が流れている。ふつうだったら「もう飽きている」かもしれない。
でも、ナンバーの付いたアリアを目の前にして、僕は、ストレートに「カッコいい!!」と思った。と同時に、「輸入車好きにも刺さるかも!」とも思ったのだ。
唯一気になったのは、小柄なドライバーにとっての運転姿勢が少しタイトな点。これはステアリングホイールの角度が理由と考えられるが、残念な点だ。
アリアは走り味も乗り味もいい。EVならではの心地よさが存分に味わえる。
EVの走りの強みといえば、静かで、スムースで、レスポンスが良くて、、といった辺りだが、そんな強みが高水準で仕上がっている。
今回試乗したのは「B6バッテリー 2WD」モデル。66kWhのバッテリーを積み、470kmの航続距離(WLTCモード)をもつ。
実用的には250~300kmといったところになろうかと思うが、「これならいいだろう!」と判断する人は少なくないはずだ。
ちなみに、今後、より強力なバッテリー、4WDモデル等の投入も予定されるが、最長航続距離640kmというモデルもある。
EVとは静かなものだが、アリアの静かさはその水準を超える。EVだから静かというだけではなく、クルマ全体で静粛性を高めている。
平滑な路面なら、それこそ「シンとした」といった表現さえ当てはまるような静かさで、聴こえるのはタイヤノイズくらいだ。
乗り心地もいい。、、ただ、荒れた路面では、リアに起因すると思われるヒョコヒョコした動きと、ときに音を伴った粗さがでることもある。ここが改善されれば、「超一級の乗り味」になる。
とはいえ、日常領域 / 常識領域?での加速はいい。むろんレスポンスもいい。、、が、その所作はあくまでも滑らか。わかりやすく言えば「すごい加速!!」ではなく、「気持ちのいい加速!!」ということになる。
ひとつ残念だったのはステアリング。操作は重めでステアリングホイールも太め。スポーツライクなテイストを狙っている。これを気に入る人もむろんいるだろう。
でも、アリアには、デザインも操作感も「モダンでエレガントな」ステアリングがほしかったというのが僕の考え方。
スポーティなドライビングを楽しむにしても、力で操るのではなく、繊細な感覚で操りたい、、。未来感たっぷりのアリアに、僕はそんな思いを重ねているということだ。
ちなみに、運転支援システムのレベルも高い。最新のプレミアムなEVに相応しいものだと報告しておこう。
最後にもう一度くり返すが、、カッコよくて、プレミアム感十分で、気持ちよく走って、EVであることも含めて未来感たっぷりで、、アリアは、「輸入車好きにも刺さる!」だろうと僕は思っている。
この予想が当たるか外れるか、、アリアの販売動向に注目していきたい。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。