アメリカのセダンはかくも先進的になっていた
プレスティッジセダンというと、ドイツとか日本という印象を持っているひとが多いだろうが、最新のキャデラックは、走りの面でも、装備の面でも、試してみる価値がある出来だ。
2016年に発売されたCT6は、キャデラックのセダンにおけるフラッグシップだ。5メートルを超えるサイズの車体に、3.6リッターエンジンと、オンデマンド型4WDシステムを搭載。さらに、安全装備および運転支援システムも充実と、独・日のお株を奪うようなフル装備である。
ドライブ中に前をCT6が走っていたことがある。私のクルマの同乗者が、「あれはなんていうクルマだろう」と言うので、車名を教えたところ、自分の中にあるキャデラックのイメージとまったく合わないと驚いていた。
日本にいるひとの多くが抱くキャデラックへのイメージは、ひょっとしたら大きなテールフィンを生やした1959年のエルドラドだろうか。よくても80年代のフリートウッドのような四角くて長い車体のクルマ、というあたりで先に進んでいないかもしれない。
2016年登場のCT6は、(ご覧のとおり)エッジのたったスタイリングから、エレガンスのほうへコンセプトを振っている。実際のマーケットは米国と(これまでは中国)がメインだが、日本でも好かれるいい意味でインターナショナルテイストをそなえていると思う。
今回のフェイスリフトでCT6のデザインは、さらに新しい世代へと進んだという。このクルマが発表された年の夏、米西海岸ペブルビーチで開催された「コンコースデレガンス」でお披露目されたスタイリングコンセプト「エスカーラ」で試した要素を、フロントとリア部分に採用しているのだ。
デザインの独自性はキャデラックならでは
250kWのエンジンと、従来モデルより100キロも軽量化されたボディの組合せで、かなりパワフルな印象だ。パワフルというより、スムーズ(セダンであるCT6ではこちらのほうがホメ言葉)。発進でも中間加速でも、アクセルペダルへの反応がよい。速度が乗ってからの加速の伸びはとてもよい。
4WDだが通常は後輪駆動であることに加え、高速時などは前輪と同じ方向に後輪に角度をつけるアクティブリアステアも装備することで仮想ホイールベースを長くし、操縦安定性を高めている。ようするに、ロングツアラーとして、楽しく、かつ、安心して運転していられるのだ。
後方の死角を減らすデジタルリアビューミラー(キャデラックでは「リアカメラミラー」と呼ぶ)や、赤外線を使い夜間に歩行者や動物を検知する「エンハンストナイトビジョン」も、実際にこのクルマを毎日使うようになったら、頼りになる装備といえる。
従来のCT6では、しかし、カーナビゲーションを搭載していなかった。米国のユーザーは、アップルカープレイやアンドロイドオートに接続してスマートデバイス経由でルートガイドを使うから(日本でも)、というのが説明だった。
新型CT6は、ついに、カーナビゲーションシステムを搭載したのがニュースだ。それがキャデラックらしいというか、世界初を謳うユニークなシステムである。車載通信システムによるストリーミング技術を使った「クラウドストリーミングナビ」なのだ。
キャデラックの日本法人を務めるGMジャパンが株式会社ゼンリンデータコムと共同開発したものである。GPS測位できない環境でも車両搭載センサーと連携して位置測位が可能というのがセリングポイントだ。
システム側に地図データをもたないのが特徴で、そのためデータ更新が必要なくなる。私が乗ったときはまだほぼテストが終了する(が完了していない)という段階だったので、目的地を設定するときちょっと時間がかかったが(いまは問題解決しているそうだ)、動きだすと快適な速度でルート案内を正確にしてくれた。
米国では、フリーウェイを中心に自動車専用道では、(法規的な問題からニューヨーク州を除いて)ほぼ完全に手放しの運転が可能な「スーパークルーズ」もCT6から導入されたし、CT6は意外なほど、技術的にも進歩したモデルなのである。
室内の作りはよく、レザー、ウッドパネル、クロームパーツなど複数の素材をうまく使い質感を出していて居心地がよい。運転席はタイトな作りで、操縦性に重きが置かれているいっぽう、後席は広々として、しかも左右にモニタースクリーンが設けられるなど、リムジンのようでもある。
足まわりは、磁性流体ダンパーを組み合わせた「マグネティックライドコントロール」が採用されている。乗り心地はややスポーティに振ってある印象で、ハンドリング重視の印象だ。ふわふわさはいっさいなく、ビシッとしていて、かつ快適さが犠牲になっていない。ドイツ車と真っ向からぶつかる印象だ。
全長5230ミリの車体に、3649ccV型6気筒エンジンを搭載したキャデラックCT6の価格は、1026万円(8パーセントの税込み)で、消費税が10パーセントだと1045万円となる。
メルセデス・ベンツだと270kWの3リッター6気筒を5125ミリのボディに搭載した「S450」(8パーセントの税込み1170万円)が思いつく。BMWでは5125ミリの車体に250kWの3リッター6気筒の「740i」(同1090万円〜)がある。レクサスは5235ミリに310kWの3.4リッター6気筒の「LS500」(同981万4000円)をラインナップに持つ。
走りも楽しめるプレスティジャスなセダンは、今回のCT6を含めて、おとなの男にとって、選ぶ楽しさがいろいろある。
縦長のデイタイムラニングライトがCT6を特徴づけている
3649ccV型6気筒エンジンに、今回あらたに10段オートマチック変速機の組合せ
6ライト(リアクォーターパネルにもウィンドウを開けたスタイル)のキャビンは後席の居心地もかなりよい
ドライバーズカーとして機能性の高いコクピット
見た目は余裕あるサイズだが後輪操舵システムの恩恵もあり運転を楽しめる
縦長のデイタイムラニングライトがCT6を特徴づけている
3649ccV型6気筒エンジンに、今回あらたに10段オートマチック変速機の組合せ
6ライト(リアクォーターパネルにもウィンドウを開けたスタイル)のキャビンは後席の居心地もかなりよい
ドライバーズカーとして機能性の高いコクピット
見た目は余裕あるサイズだが後輪操舵システムの恩恵もあり運転を楽しめる
● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト
慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。