2019.11.17
ファッションの先端を行く街で見えてくる、クルマのトレンドとは?
本業は自動車ジャーナリスト。しかし、ファッションの仕事も多かった筆者。ファッションの先端を行く街で見えてくるクルマとの関係性とは?
- CREDIT :
文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第119回
世界の街角でトレンドウォッチ
それは確かだし、24才の時から今に至るまでクルマを中心にした仕事をしてきたことも間違いない。
、、が、30代半ばを過ぎた頃から、直接クルマとは関係ない仕事も増えてきた。
とくに、旅とかファッション等に関係する仕事があちこちから舞い込むようになった。
僕が旅好きでファッションも好きらしい、、と、 多くの方々が思っていたということなのだろうが、嬉しいことだった。
かつてはクルマ業界でも、PR誌に手間もお金もかけていたが、その関係の仕事も多かった。
画期的メカを組み込んだ新型車の耐久試験とPRを兼ねた「世界1周の旅」の打診もあった。
もちろん「やります!」と返事したのだが、折から、貿易摩擦による関係悪化から、オーストラリアを走ることが問題視され、企画はキャンセルされた。残念だった。
PR関係だけではなく、純粋に雑誌等の企画としての旅の仕事も多かった。
旅の仕事は当然時間がかかる。1週間で終わるものもあれば、1ヶ月を要するものもある。だから、スケジュール調整が一仕事。でも、好きな仕事だから、なんとかやりくりして時間を作った。
そんなことを続けている内に、エッセイというか、散文詩というか、、同行のカメラマンが撮った写真に、僕が短い文章を付けたカレンダーや単行本がでるようにもなった。
で、その次が「写真と文 岡崎宏司」という展開になる。元々写真は好きだったので、この流れは嬉しかったが、当然緊張もした。
だから、楽しかった。あるメーカーのカタログの「写真と文」を受けたこともあるが、その時も依頼先に「その旨」を伝え、了承して頂けたので引き受けた。
カタログともなれば、当然、広告代理店のサポートチームも出てくるし、スタッフ7~8人と各種サポート機材を積んだ大型バンも来た。
僕が描いたシナリオは、若い女性の朝から夜までの1日をストーリー化するといったもの。当時売り出し中の若い女性モデルが選ばれたが、可哀想だった。
「プロのモデルさんはプロのカメラマンが撮る」のが当然。なのに、モデルさんなど一度も撮ったことのないド素人の僕が撮るのだから、さぞかし戸惑っただろう。
しかも、大げさな仕掛けなど一切ないし、僕が持っているのはふつうの35mmカメラ2台と数本の交換レンズだけ。僕が使えないから、レフ板一枚さえ使うこともない。
でも、彼女はプロだった。僕が考えていた大雑把なストーリーを撮影前に話しただけで、動き、ポーズをとり、表情をつくってくれた。
それがまた素敵だった。僕はシャッターを押すだけでよかった。彼女のお陰で、僕が想像していたよりはるかに素敵な写真が撮れた。
依頼先の担当者も喜んでくれた。
素人カメラマンには「あり得ない体験!」をしたことになる。関係者の方々にはただただ感謝のみだった。
そんなあれこれの次に来たのが、表題の「トレンドウォッチ」なる仕事。
有名ファッション誌編集長からの直々の依頼。ざっくり言えば、「世界のファッションの先端を行く街で、最新のクルマのトレンドがどうなっているか、、岡崎さんの目と感覚で掴んできてほしい」といった依頼だ。
僕はすぐ引き受けた。「こんな楽しそうな仕事なんて、そうそうあるもんじゃない!」というのが引き受けた理由。
ウォッチングする街をどこにするかを決めるのが最初の仕事だが、ミラノ、パリ、ミュンヘン、ロンドンをメインにするという提案はすぐOKがでた。
で、なにをするのかというと、、「ここ!」と決めた定点に立って、前を通り過ぎるクルマを注意深く「ウォッチング=品定め」するのだ。
トレンドウォッチだから、むろん新しいクルマが中心になる。そして、車種、ボディカラー、内装、乗っている人の人と形、装い、
等々に目を向ける。
短いときで2~3時間、長いときは5~6時間同じ場所に立ち続ける。時には時間帯を変えて2回立つことも、、。
それも「集中」して。集中しないと、とくに、乗っている人の観察が散漫になってしまう。
顔立ちや装い、ちょっとした振る舞い辺りから、年齢、職業、社会的地位、裕福さ、インテリジェンス等々を勝手に推測。それを僕の経験則に則ってあれこれ分析し、トレンドに結びつけてゆく。
クルマはボディカラーによって大きくイメージが変わる。だから、新たなトレンドになりそうなボディカラーを見つけ出すことも重要なポイントのひとつだった。
僕が持ち帰った情報は、クルマのページだけではなく、雑誌全体の編集の方向を左右することも少なくなかった。そんなことだったから、楽しくてしかたがなかった。
僕は「気づき」という言葉をよく使うが、クルマを見て、人を見て、 街を見て、、どれだけの気づきが得られるかを常に意識している。
「気づき意識」の有無で、ものの見え方は大きく変わる。気づきが気づきを産み、いろいろなものが見えてくるのは、とても楽しいことだし、生産的なことだとも思う。
僕は「自動車ジャーナリスト」だから、クルマを激しく走らせ、限界領域の挙動をチェックするのも好き。でも、街角に長時間突っ立って、いろいろな想いを描き、考えを膨らませてゆくのも好き、、。
これからもまだまだ、こうした変則二刀流で楽しんでゆこうと思っている。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。