2022.07.24
日産「サクラ」はカッコいい大人のEVだった
日産からデビューした軽EV「サクラ」はベースこそ「デイズ」であるけれど、クルマとしての存在感はまるで違うと筆者。欧州の富裕層にスマートが日々の足として愛されたように、「サクラ」は日本のアッパークラスの足として認められるのか⁉
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第189回
軽EV、日産「サクラ」に注目!
というと、サクラとeKクロスEVは共に、バッジを替え、顔をちょっと変えただけ、、と、イメージするだろうが、違う。
eKクロスは「ガソリンとEVのどちらをお選びになりますか?」といった違いだが、サクラは、さらに、「容姿をも含めたキャラクターの違い」も大きな選択肢になっている。
そう、日産「サクラ」は、単なる日産「デイズ」のEV版ではない。もちろんデイズをベースにしてはいる。、、が、車名も変えているし、内外装も大幅に変えている。
ノート、アリアに続いて、「EVの日産」の一翼を担わせる、、との強い思いが映し込まれているように思える。
繰り返すが、サクラは、デイズのパワートレインを電動化しただけでない。クルマの基本的キャラクター、、雰囲気、佇まい、、をも新たにし、従来の軽とは異なった顧客層をもターゲットにしている。僕にはそう思える。
例えば、贅沢な邸宅が立ち並ぶ昔からの高級住宅地、、でも、道路は狭い、、そんな条件にもサクラは馴染むのではないか。
そうした場所に住む人たちの多くは、メルセデスベンツやBMWを愛用している。、、が、日々の足として、コンパクトで使い勝手の良いクルマをも欲しがっている、、といった話もよく聞く。
インテリジェンスというか、プライドというか、そうした類の条件をも満たさなければ受け容れられない、、ということだ。ファッショナブルであったり、クールであったりといったこともその中に入る。
ミラノやパリの裕福な人たちに愛されたスマートがその好例だろう。
僕は、日産サクラを見て、スマートのあれこれを思い出した。シックな2トーンカラーを纏ったサクラは実用度の高い4ドア車でありながら、遊び心もあるし、軽らしからぬ高品質感も存在感もある。
スマートは2シーターのミニながら、際立ったインテリジェンスとクールさをもち、裕福な人たちの心をも惹きつけた。
混雑した街で使いやすいという実用性だけではなく、知的ステイタスをアピールするファッションツールとしても支持された。
僕は、日産サクラにも同じような可能性があるのでは、、と思う。
「BEV」であることが、クールな価値観を与え、ファッションツールとしての存在感をも高めるだろう、、という解釈だ。
古くから続く贅沢な邸宅街に住み、メルセデスベンツやBMWに乗るような人たちの心にも訴えるものを持っているかもしれない、、という思いに至った発端もそこにある。
サクラは乗り降りし易いし、食料品や牛乳の詰まった重い買い物袋も楽々後席に積める。もちろん、狭い道路やパーキング等での扱い勝手にも優れている。
しかし、ちょっと自慢もできそうな「BEV」という新しい価値観が引き金になり、軽ながら、サクラに目を向ける人たちの間口は広がるのではないか。その可能性は大だと思う。
走り味/乗り味については後で触れるが、ディーラーで一度でも試乗すれば、「その気になる」確率は大いに高まると僕は思っている。
すでに触れたように、サクラの外観、、姿佇まいには、上級のEVモデル、アリアにつながる類のプレミアム感がある。
試乗したのは、「294万300円」のプライスタグがつく最上位モデル。なので、プレミアム感は当たり前かもしれない。、、が、それでも、「軽」という括りで見ると、「えっ⁉」といった感覚を抱いてしまう。
とくに、「SEASONS COLOR」と名付けられた特別塗装色を纏ったモデルには惹かれる。「大人っぽい華やかさ」といった感覚で僕は受け止めている。
軽らしからぬデザインと品質感のアルミホイールも、そんな印象を押し上げている要素の一つだろう。
「えっ⁉」といった感覚は、外観だけに止まらない。内装にもまた同様なインパクトを受けた。
ガソリンモデル、デイズの面影はまったくなく、「新たに生を受けたサクラ」専用の内装が与えられている。
モダンなデザインテイストと高い品質感をもつダッシュボード周り/ドア周り、スッキリした2スポークのステアリングホイール、見た目も座り心地もいいシート、、、ここでも、プレミアム感はしっかり出ている。
とにかく、サクラのエクステリア/インテリアには、「従来の軽とは、スッパリ袂を分かった」といった印象を受ける。
ひとつ残念だったのはドアの開閉音。バシャっといった低級音と感触にはガッカリした。
走り出すとサクラの魅力はさらに加速する。モーターの出力は規制に則って、ガソリン車と同じ47kWh(64ps)に抑えられている。だが、トルクは、2ℓガソリン車にも匹敵する195Nmと強力そのもの。
そして、電気モーターならではのレスポンス/静粛性が加わる。といえば、サクラの走りがどんなものか、想像はつくだろう。
軽は、日常的な走行にはなんの支障もない動力性能を持つ。、、が、加速の瞬発力ということになると、ターボ車であっても、楽しい、気持ちがいい、、とはならない。
しかし、サクラのそれは、「楽しいし、気持ちがいい!」。赤信号からの発進などでも、上級車を尻目に頭ひとつ抜け出す、、そんな心地よさが日常的に味わえる。
しかも、静かに滑らかに、、。そう、静かで滑らかで力強い加速の瞬発力は、EVならではの特徴だが、大きな魅力のポイントだ。
上り坂を、平坦路と同じようにスイッと駆け上がってしまうのもEVならではの魅力。
試乗コースには、上り坂とUターン状のきついコーナーが組み合わさった場所があった。軽が苦手とするパターンだが、サクラは力強く軽やかにクリアした。気持ちよかった。
エンジン音がない分、相対的にロードノイズや風音が耳に付くということはある。でも、それは、意識しなければスルーできる範囲と僕は捉えている。
とにかく、静かさと加速時の瞬発力は、従来の軽には絶対に求めれられなかったものであり、EVにしか求められないものだ。
回生ブレーキのコントロールも、勘のいい人なら、短時間で要領をつかめるだろう。
ステアリングは、切り始めと小舵角域の正確さにやや欠ける。走っていて、ほぼ唯一、気になった点として指摘しておこう。
現在、EVには国や地方自治体の補助金がつく。例えば、東京都民がサクラを買うとすれば、最大100万円(国が55万円、都が45万円)の補助金が受けられる。そうなれば200万円を切り、ガソリン車最上位モデル並みの支払いで済むということだ。
とにかく、サクラに乗っていると、「これが軽なの⁉」と思ってしまう。ぜひ、その辺を体験してみてほしい。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。
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AAF(オートモビルアート連盟)第9回作品展
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開催日/7月21日(木)〜7/31(日)月曜休館
在廊日/7/30(土)、31(日) ※午後より在廊
時間/10〜18時(最終日は14時まで)
入場無料
住所/目黒区美術館区民ギャラリー
※市ヶ谷山脇ギャラリーではありません