2020.03.08
トヨタも参入する超高性能車のニーズとは
1億円超の「ハイパーカー」が増えている理由
「スーパースポーツカー」と表現されることも多いハイパーカー。例えばブガッティ「ヴェイロン」やマクラーレン「セナ」など1億円超の価格が一般的な超高性能車市場に、いま、トヨタが参戦しようとしている。「GRスーパースポーツ」と命名されたそのクルマは、どんな意図のもとに開発されているのだろう?
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文/工藤 貴宏(自動車ライター)

その中でもひときわ盛り上がっていたのが、トヨタのブース。理由は、WRC(世界ラリー選手権)を戦うために開発され、この会場で正式発表された高性能車「GRヤリス」が大きな話題となったからだ。
発表のプレゼンテーションは、トヨタ自動車の副社長で、同社のスポーツカーやモータースポーツ事業を統括するGAZOO Racing(ガズーレーシング)カンパニーのプレジデントである友山茂樹氏が担当。
そのスピーチの冒頭では、スクリーンに偽装姿でサーキットをテスト走行する興味深いクルマが映し出され、同時にそのレーシングカーのようなクルマについて「市販を視野に入れている」ことが強調された。
それこそが、公道走行可能なレーシングカーであり、「ハイパーカー」というジャンルに属する「GRスーパースポーツ」と呼ばれるクルマだ。本物のレーシングカーの流れを汲みつつ、ナンバーを取得し公道走行ができるモデルである。
モビリティカンパニーである一方で
デビューは2022年とも2023年とも言われていて、世界最高峰のレーシングカーのテクノロジーが投入されているだけに、価格は少なく見積もっても“億”となるだろう。

ところで、「ハイパーカー」という言葉に、聞き馴染みのない人も多いかもしれない。はたしてどんなジャンルなのだろうか。
「スーパーカー」と聞けば、多くの人はどんなクルマかイメージできるだろう。ハイパーカーを一言でいえば、“スーパーカーを凌駕した存在”である。
ハイパーカーはあくまで概念なので「これを満たせば認められる」という数値上の基準はないが、最高出力がおおむね1000馬力程度もしくはそれ以上あり、最高速度は350km/h以上。
さらに“億超え”の価格であるのが一般的だ。もちろん、どれかが欠けていれば認められない、というものではない。生産台数が10台未満というモデルもある。
また、スタイリングはレーシングカーをイメージさせるのが通例だ。これは後述するモータースポーツとの関連もあってのことである。
では、具体的にどんなモデルがあるのだろうか。
筆頭は「ブガッティ」や「マクラーレン」

価格は当初、1億6300万円だったが、上位タイプは2億円を超えるなど、それまでのクルマの概念を覆すものだった。400km/hという速度領域では、100Lの燃料タンクが12分で空になるという。
ヴェイロンは2015年に生産を終了したが、ブガッティはその後継となる「シロン」も登場させている。こちらは1500psで最高速度は420km/h(リミッター作動)、邦貨換算で3億円オーバーと、あらゆる点でヴェイロンを超えていた。

「マクラーレンのラインナップでもっともサーキット走行を重視したモデル」として2018年にデビューし、エンジンにモーターを加えたトータル出力は最大916ps。世界で500台だけが作られ、価格は67万5000ポント(日本発表当時のレートで約1億2500万円)だった。
多くのハイパーカーは、超高性能車を専門とするメーカーが手掛けることが多いが、量産車メーカーが手掛ける場合もある。
その代表格がドイツのメルセデス・ベンツが開発している「メルセデスAMG プロジェクトONE」だ。

エンジンもF1と同じ形式で、排気量1.5Lの4気筒ターボながら超高回転型としてパワーを稼ぎ、電気モーターと組み合わせてトータルで1000psを発生。最高速度は350km/hと同社は説明する。
開発の遅れにより市販は当初の計画より遅れているようだが、3億円を超えるといわれる価格にもかかわらず、生産予定台数の275台はすでにオーナーが決まっているという。
主要パーツは「TS050 HYBRID」と同じ
トヨタが開発しているの「GRスーパースポーツ」に関して、公開されている情報は多くない。

コンセプトモデルにナンバープレートを装着する場所が確保されていたのも、公道走行を可能にするという強い意気込みと言っていいだろう。
では、なぜトヨタはそんな未知の領域に踏み出そうとしているだろうか。
トヨタがハイパーカーに進出する理由のひとつは、世界最高峰のレースのレギュレーションの見直しだ。日本でも有名な「ル・マン24時間耐久レース」でトヨタは2018年と2019年に総合優勝し、今年は3連覇を目指している。
そのレースでのトップ争いが、今後はハイパーカーをベースにレース仕様へ仕立てたモデルへと移行する予定となっているのだ。トヨタのハイパーカーは、そこへ参戦しようというのである。
しかし、それ以上に大きな理由はトヨタにはある。「次の100年も自動車産業を面白いものとする」という壮大なテーマだ。

「『自分の意志で自由に移動したい、どこまでも遠くに、誰よりも早く、美しく移動したい』という人間の欲求は、不変的なものであり、それを実現してくれるクルマに対する人々の感情は、豊かで、心ときめくものがあります。次の100年も、クルマを徹底的に面白くするというTOYOTA GAZOO Racingの挑戦は、まだ始まったばかりですが、お客様の笑顔のために、自動車産業の未来のために、心ときめくクルマづくりに拘(こだわ)り続けていきたいと思います」
トヨタのチャレンジを見守りたい
良品廉価のモノづくりを得意としてきたトヨタには、高額なスーパーカーを得意とする欧州メーカーとは異なり、1億円を超えるような市販車作りのノウハウはない。それはすなわち、ハイパーカーの開発と市販化が驚くほどハードルの高いプロジェクトだということを意味している。
しかし、クルマ好きの1人として、そして日本人として、日本を代表するメーカーのそんな無謀とも思えるチャレンジの成功を、大きな期待とともに見守りたい。