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2022.12.11

初代プリウス、何が凄かったか? 新型プリウス、どこが進化したか?

7年ぶりにモデルチェンジし5代目となったプリウス。その初代は1997年に世界初の本格的かつ実用的なHV車として誕生した。異次元レベルの高燃費と戦略的な価格は当時も衝撃だったという。初代をすぐに購入した筆者が、当時の思い出を振り返った。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第199回

プリウスを振り返る!

VW T-Roc イラスト
プリウスが7年ぶりにモデルチェンジ。5代目が誕生した。とてもスタイリッシュだし、新たに加わったPHEVモデルのパフォーマンスも「なかなかのもの」のようだ。

低く伸びやかなルックスを眺めながら、新たな次元に引き上げられたスペックを頭に巡らせていると、否応なく期待は高まる。

そして、「広く、世界で人気を獲得するだろう!」、、そんな予感が、いや確信に近いものが頭を過ってゆく。

世界初の本格的かつ実用的なHV車、、初代プリウスが誕生したのは1997年。

あれから25年の歳月が経っているが、トヨタは、世界で延べ2030万台のHV車を販売。そして、累計で1億6200万トンもの二酸化炭素排出を削減している。

これは大いに注目すべきデータであり、「トヨタの偉業!」と言っていいもの、、僕はそう考えている。

トヨタは、かねてから「多くの人々に手が届くエコカーが必要」「エコカーは広く普及してこそ意味がある」と言い続けてきた。まさに正論であり、非常に重要なポイントだ。
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もちろん、EVの進化と普及が進むことを多くが期待している。だが、価格ひとつとっても、インフラひとつとっても、克服しなければならない問題課題は山積している。

EVが世界の幅広いニーズに応えられるようになるまでには、巨額の投資と多くの時間が必要だ。

ゆえに、内燃機関の省エネ化、高効率化、クリーン化には、今後も当面、全力で取り組み続ける必要がある。

加えて、HV技術は、世界の多くの人たちへの「現実的解」として、まだまだ期待され続けるはずだし、期待に応えなければならない。

ちなみに、新型プリウスのWLTCモード燃費は、1.8Lモデルで32.6km/L。2.0Lモデルで31.5km/Lと発表されている。その上で、パフォーマンスは従来車よりもかなり向上しているという。

それは「走り始めてすぐ、違いがわかる!」レベルのもののようだ。発表直後、トヨタの偉い方から、その旨のコメントが僕のSNSに寄せられたことからも自信のほどが伺える。

さて、本題に移る。1997年にデビューした「初代プリウス」はどんなクルマだったのだろうか、、その記憶を辿ってみよう。

僕は世界初の実用HV車、あるいは量産HV車であるプリウスを発売直後に買った。

わざわざ「実用/量産」との但し書きを添えたのは、単にHV車というだけなら、過去にも多くの存在例があるからだ。

しかし、大衆に手の届く価格であり、特別な知識もテクニックも求められず、耐久性/信頼性もあり、維持費もかからないHV車、、となると、プリウスが世界初ということになる。
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ちなみに、初代プリウスの燃費だが、、当時の同水準の性能を持つガソリン車のざっと半分。有害排気ガス排出量はほぼ10分の1、、そんな異次元のレベルだった。

価格が安いか高いかの判断は受け手の価値観次第だが、僕は、215万円の価格を安いと思った。他メーカーの技術者の多くも「トヨタにしかできない価格」だと声を揃えていた。

で、トヨタ内部から漏れ出てくる声はどうだったのかというと、、「トヨタにしかできないという意味は、大きな赤字を負担できる体力があるから」とか、「1台売る度に200万円の赤字が出る」、、といった声だった。

こうした情報は正しいものだったと思う。「新しい技術は、多くの人たちに受け入れられてこそ、初めて世の役に立つ」という基本的な考え方の下、トヨタHV、、初代プリウスは、膨大な赤字をも覚悟の上で誕生したということになる。

発売当初のプリウスは文字通りの「値引きゼロ」だった。「値引きしてもらった」という話は、1度も聞いたことがない。

知り合いのセールスマンに問い合わせてみても、「お客様には初めから、値引きはまったくありませんとお伝えしている」との答えが返ってきた。

新型車の発売当初にはよくあること。しかし、プリウスの場合、1年経ってもそれは変わらなかった。

発売後1年での販売台数は1万7千台だが、そのすべてが標準価格で販売されたという。

そして、ほぼ10カ月後からは「残価設定販売」が開始された。それも3年後に補償される残価は50%! と非常に高いものだった。
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新技術は、市場で確実な信頼を得るまでに時間がかかる。もしかしたら、何かのきっかけで「NO」を突きつけられるかもしれない。さらに、新技術はどんどん進化するので、短期間で陳腐化してしまうかもしれない。

こうした点に不安を抱くユーザーにとって、「3年後の残価50%」という保証が、大きな安心感をもたらしたのは間違いない。

単純な計算では「売れば売るほど赤字は膨らむ」、、のは事実だっただろう。だが、長期的、戦略的視点での計算では、逆の答えがでていたということになる。

中でも、いちばん大きな利益は1万7千台/年のプリウスから、そしてそのユーザーからもたらされる膨大な「生きた実験結果」だ。

果たして、トヨタはHV車という分野で、今に至るまで他をまったく寄せ付けない地位を築き上げた。

その結果、初めにも書いたが、2030万台ものHV車を販売し、1億6200万トンもの二酸化炭素排出を削減しているのだ。

くりかえしになるが、この「巨大な成果」がもたらされたのは、「エコカーは広く普及してこそ意味がある」というトヨタの基本的考え方がもたらしたものに他ならない。

初代プリウスがわが家に納車されたのは、1997年のクリスマスの日。つまり、暮れも押し詰まった12月25日だ。もっとも早期に納車された中の1台だろう。

そして1年で1.4万kmほど走ったが、その間のトラブルは1件だけ。

ブレーキのワーニングランプが点灯し、回生ブレーキが効かなくなる現象だが、イグニッションキーをオフして再始動すれば治った。

この症状は5~6千km辺りで数回出たが、1度整備に入れた後は発生しなかった。
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「理由はわからない。とりあえず制御ユニットを交換した」とのことだったが、こうした市場からのフィードバックの積み重ねが、トヨタのHV技術をどんどん押し上げていったのは間違いない。

1年/1万4千kmの平均燃費は14.4km/ℓ。トヨタに聞いたら「ほぼ全国の平均値」といった答えが返ってきた。

同程度の性能のカローラ1500ATの全国平均値が9.5km/ℓだったので、「さすがHV !」と言える好燃費だったことになる。

それでいて、走りも悪くなかった。とくに電動モーターのアシストを受ける出足はかなり力強く、中でも80km/h辺りまでは「とても気持ちのいい加速」を楽しませてくれた。

少なくとも、日常的な走行環境での走りに不満はなかった。ただし、「スポーツ性やエンタテインメント性を走りに求める人には勧められない」との但し書きは必要だった。

その後のプリウスの進化ぶりは、知っての通りの目覚ましいもの。とくに燃費の向上には目を見張らせられた。

ちなみに、3~4代目プリウスの燃費は、種々の情報の平均値で、22km/ℓくらいといったところになろうか。

そして、新型プリウスはどれほどの進化を遂げているのだろうか。「スポーツカーのようにさえ見えるルックス」に相応しい走りをするのではないか。燃費面でも新しい地平を切り拓いているのではないか、、。

新型プリウスの流麗な姿を眺めながら、その進化の過程を振り返ってみると、、否応なく期待は膨らんでゆく。試乗するのが楽しみでならない。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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