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2023.04.16

モナカ公国をご存知? それは美しい過去と現在を繋ぐ不思議な国

千葉県鴨川市にある「モナカ公国」、それはアルピーヌ好きのご主人が住む広大な個人邸宅。素晴らしいクルマと美しい景色に囲まれて、筆者は過去の印象的な体験を次々と思い出すのでした。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第207回

「モナカ公国」訪問記

Alpine A110 Renoult 5 Turbo1 イラスト illustration
読み間違えないでほしい。「モナコ公国」ではない。「モナ“カ”公国」である。

「モナコ公国」には1970年台の終わり頃を初めに、仕事で、プライベートで何度も行っている。F1も2度見に行っている。

でも「モナ“カ”公国」を訪問したのはこの3月が初めて。公国の領主、藤井照久さんも、名前は存じ上げていたが、お会いするのは初めてだった。ちなみに、藤井さん曰く「領主は猫で僕は使用人」とのこと!

藤井さんは東京に住まれていたが、「どこか地方へ移住しよう」との思いから探し当てたのが千葉県鴨川。地形上、空気がきれいで気候は温暖。そして東京にも近いし人口が少ない、、といった点に惹かれて決めたという。

新たな定住の地(藤井さんの個人宅)に「モナカ公国」と名付けた経緯は聞いていないが、藤井さんのスケールの大きな遊び心から生まれたものと僕は勝手に想像している。

友人に誘われての初訪問だったが、藤井さんは温かく迎えて下さった。そして、広大な公国に点在する施設を案内していただいたのだが、僕の心は弾みっぱなしだった。

「モナカ公国」の所在地は千葉県鴨川市。横浜のわが家からは2時間と少しで着いた。

よく晴れた日だったが、公国の空は、横浜より明らかに澄んでいて、優しく温暖な空気と陽射しに包まれていることをまず実感した。

6000坪ほどという面積は、それだけでも「広大」だ。しかし、隣接する土地との境目など訪問者にはわからない。遥か遠くに見える山並みまで、視界を遮るものは何もない。

そう、、訪問者にとっては、遥か遠くの山並みまで、、視界に入るすべてが、「モナカ公国」の領地なのだ。

建物は、環境に優しく、景観を損ねないことを第一に考えられていると聞くが、ガレージとゲストハウスにはため息が出た。

ガレージには新旧のアルピーヌが5台置かれている。そう、モナカ公国の領主は「アルピーヌが大好き」な方なのだ。

確かめなかったが、現行モデル以外の4台は、それぞれが、素晴らしい物語を綴ってきた個体であるに違いない。
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僕もアルピーヌが好き。なかでも、1970年頃のメチャメチャ熱かった1300S ゴルディーニが、たまらなく好きだ。

それを箱根で走らせた時のことをチラッと話したら、、藤井さんは、「木全さん(当時の三菱のワークスドライバー)とご一緒でしたね」と、、。当時の雑誌に載った記事をご存知だったのだ。うれしかった!

高い天井の木造りのガレージは、気の利いたデザインの家具を入れて住んだらカッコいいかも、、と思えるような佇まいだった。

すごいガレージはいろいろ見てきた。でも、こんな温かなガレージは見たことがない。「アルピーヌは藤井さんの家族なんだなぁ!」、、そんな思いが頭を過った。

隣のガレージには、スーパーバイク、オフロードバイク、電動バイク、アルピーヌのホイール、、そして突き当たりの壁面には、CG(カーグラフィック)誌が創刊号から全冊置かれている。それも市松模様に、、。ここもまた、とても温かい。

スリーピングバッグと灯油ランプを持ち込み、昔のCGに目を通しながらバイクと共に一夜を過ごしたら、、きっといい夢が見られるに違いない、、そんな妄想が膨らんだ。

ゲストハウスは、緩やかな坂を登った、、公国ではいちばん高く、見晴らしのいい場所に建つ。これがまた素晴らしい。

天井が高く前面が一枚ガラスで覆われた広い部屋から見えるのは、公国のすべてだけではない。遥か遠くの山並みまで続く広大な景色は、すべて「我のものなり」だ。

藤井さんは、「ここから見る夕景と朝景はいいですよ。次の機会にはぜひ!」と、有難い言葉をかけて下さった。
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部屋の前には広いテラスがあるが、ここに出て寝そべって見る、あるいはデッキチェアに身を委ねて見る夕景と朝景は、さらに心を揺さぶるだろう。

広いテラスには囲いも手すりもない。テラスに身を置く自分と、目の前に広がる広大な自然との境界線がない。開放感は無限大だ。

隣に並ぶ風呂場も同様、パノラミックな自然と共に、身体を心を温めてくれるだろう。

今回は短時間の滞在でしかなかったが、、もし、気候のいい季節、空が澄み切った夜に一泊ということにでもなったら、、僕は、多くの時間をテラスで、空の下で過ごすだろう。

「僕は砂漠が好き」ということは、前にも書いた。アリゾナの砂漠がいちばん多いが、オーストラリア、中東、アフリカの砂漠にも行っている。

砂漠をクルマで走るのももちろん好きだが、いちばん好きなのは夜。澄み切った空が浮かび上がらせる深遠な蒼さと無数の星、、、。

1964年、初めてアリゾナの砂漠を体験した時から、砂漠の星空に病みつきになった。

星空といえば、よく思い出すことがある。三宅島の知人宅で過ごした一夜のことだ。

子供がまだ小さい時、兄弟の子供たちも連れて行ったのだが、彼らがいちばん喜んだのは星空だった。

島の夜は出かけるところもない。晩御飯が終わった後はカードゲームをしたりしていたのだが、それも長くは続かない。結局はTVの前でなんとなく、、といったことになってしまった。

そんな時、一人の子供が庭に出たのだが、すぐ、「みんなおいでよー。お星さまがすごくきれいだからー!」と大声を上げた。
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退屈していた子供たちは、そんな声を待っていたかのように庭に飛び出した。そして歓声をあげた。

「わーっ、きれいー」「お星さまって、こんなにいっぱいあるのー」「あそこのキラキラしているのが金星かなー」、、、と大騒ぎ。

しかし、大騒ぎはすぐ終わり、みんな黙って星空を見上げていた。夢中だった。子供達を三宅島に連れて行ったいちばん大きな収穫だったかもしれない。

モナカ公国での一夜をテントで過ごしたという人がいるが、「すごく星がきれいだった」と言っていた。

星空の思い出に話が傾いてしまったが、もちろん、朝景、夕景の思い出もいろいろある。

街、とくに大都会で美しい星空を楽しむのは難しい。でも、朝景、夕景なら楽しめる。

なかでも、パリのような美しい街の朝景、夕景には強く惹かれる。

そんなことをちょっと深く体験したいがために、朝4時起きで、独りパリの夜明けを待ったことがある。

取材の早朝ロケで知った眺望の場所は、オルセー美術館直近の橋の上。もちろんセーヌ河に架けられた橋だ。

時は6月半ば、、6月半ばの日の出は、1年でもっとも早い6時前。だが、大好きな冬になると8時半近くになる。

そう、6月半ばの日の出なら、まだパリは静かな時間帯だが、クリスマスシーズンの日の出は喧騒の只中になる。

だから、、冬が好きな僕だが、セーヌの橋の上からパリの夜明けを見るのは6月にした。

その日は少し朝靄がかかっていた。優しく滲んだような日の出は、かえって物語の奥行きを深くしたような感覚を抱かせてくれた。日の出の気配から日の出まで、スローモーションフィルムを見るような感覚だった。
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セーヌ河が、パリの街が、日の出と共に目覚めてゆく様は幻想的だった。

モナカ公国のゲストハウスで見る、あるいは感じる、夕景、朝景、星空も、きっと素晴らしいもの、幻想的なものに違いない。

だから、僕は、ゲストハウスの心地よさよりも、その環境がもたらす自然の営みの心地よさに、より心を奪われるかもしれない。

夜はテラスで長い時を過ごし、朝は目覚ましをかけて日の出前に起きる、、きっとそんな過ごし方をすることになりそうだ。

若い頃、LAでレンタルしたダットサントラックの荷台で、独り、アリゾナの砂漠の星空を見上げながら眠ったことを思い出す。

モナカ公国には、こうした過去のあれこれを現実感を伴って引き戻す不思議な力がある。

そんな素晴らしい時を過ごさせてくださったモナカ公国領主、藤井照久さんには、ここで改めてお礼を申し上げたい。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

フィアットカフェ松濤溝呂木陽水彩展2023春

溝呂木先生の春の個展開催!

本連載のイラストを手がけている溝呂木陽先生の個展が開催されます。ルマンクラシックとパリの女性たちの水彩画、模型、個人模型雑誌や画集などを展示販売。在廊日は水彩画実演も行うそう。ぜひチェックを!

「フィアットカフェ松濤溝呂木陽水彩展2023春」
会期/2023年4月15日(土)〜30日(日) 10〜18時
   入場無料 火曜金曜定休
在廊日/4月22日、29日、30日(水彩画実演あり)
場所/フィアットカフェ松濤
住所/東京都渋谷区松濤2丁目3-13
お問い合わせ/03-6804-9992
HP/https://www.instagram.com/fiatcaffe_shoto/

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