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2020.08.01

コロナがもたらした自動運転開発の行く末

「新型レクサスLS」冬発売でも7月に発表した訳

2020年7月7日に発表された新型「レクサスLS」。マイナーチェンジではあるが、その最大の注目点と言えるのが、先進運転支援システムの進化だ。実際の販売は2020年初冬。つまり、数カ月も先の話であるのに、なぜトヨタはそんな先のクルマの発表を行ったのか。

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文/鈴木ケンイチ(モータージャーナリスト)

記事提供/東洋経済ONLINE
▲フロントグリルやボディサイドに運転支援機能のためのセンサーが見える新型レクサス「LS」(写真:トヨタ自動車)
2020年7月7日、トヨタは新型「レクサスLS」を発表。日本での発売は2020年初冬を予定するとアナウンスした。ただし、“新型”とはいえ、世代が変わるわけではなく、実質的にはマイナーチェンジとなる。現行モデルは2017年にデビューした第5世代で、クーペライクな若々しいルックスが特徴だ。
今回のマイナーチェンジの内容は、内外装の変更から、走行系、運転支援系まで幅広いものとなっている。エクステリアでは「銀影(ぎんえい)ラスター」と呼ぶ、新しいシルバーのボディカラーを採用。またヘッドライトとリヤコンビネーションランプ、フロントバンパーのデザインが一部変更となっている。

インテリアでは「月の道」という情景をモチーフに、西陣織の銀糸やプラチナ箔を採用。日本ならではの美意識を感じさせるものとした。
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▲「月の道」という情景をモチーフにしたインテリア(写真:トヨタ自動車)
走行関係では、サスペンションのダンパーやスタビライザーバー、タイヤ、エンジンマウントを見直し、乗り心地と快適性を改善。ANC(アクティブノイズコントロール)やESE(エンジンサウンドエンハンスメント)も見直され、静粛性が向上している。パワートレインでは、ハイブリッドシステムのモーターアシストを増加。ガソリン車は、加速のシフトダウン頻度を低減した。これらの改良も、快適性アップに貢献する。
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マイナーチェンジの目玉は「Lexus Teammate」

この現行LS、デビューから3年で、すでに2回の一部改良が施されている。最初は、デビュー翌年の2018年10月、そして2回目が2019年10月。最初の改良では、先進運転支援システムの進化が含まれていたが、それ以外はどちらも足回りの改良による「快適性の向上」が主な内容となっていた。継続的に乗り心地と快適性の改良が続けられているのは面白いところだ。

今回のマイナーチェンジの最大の注目点と言えるのが、先進運転支援システムの進化だ。トヨタが熱心に開発していた自動運転技術を活用した、最新の高度運転支援技術「Lexus Teammate(レクサス・チームメイト)」が採用されたのだ。

リリースには、「(自動車専用道路において)ドライバーはアクセル、ブレーキそしてハンドル操作からも解放され、長時間の運転における疲労の軽減が可能となり、より周囲に注意を払った安全な運転が可能になりました」とある。
Lexus Teammateはドライバーの監視が必要であるため、いわゆる自動運転レベル3ではないが、それでもハンドルから手を離す、いわゆる“ハンズ・オフ”が可能であることを意味する。具体的な技術などの詳細は公表されていないが、先行する日産「スカイライン」の「プロパイロット2.0」と同等の機能だろう。

運転支援システムの進化という大きな話題を提供するLSのマイナーチェンジだが、実際に販売されるのは2020年冬。つまり、数カ月も先の話だ。では、なぜトヨタはそんな先のマイナーチェンジを7月に行ったのだろうか。ここから先は憶測となるが、筆者による考えはこうだ。

7月の発表は「トヨタの生真面目さの結果」である。

そもそも、2020年7月は、「東京2020オリンピック」が開催される月であった。それにあわせて、自動車業界はさまざまな提案を予定していた。端的に言えば、最新の「自動運転技術」の披露だ。
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東京オリンピックで盛り上がるはずだったが……

トヨタは、レベル4(システムが完全に運転を代行する)自動運転車の一般向け同乗試乗会を7月から9月にかけて東京都内で開催する予定であった。また、オリンピック選手村などに自動運転システムを搭載した新型EV「e-Palette(東京2020仕様)」を走らせる計画もあった。
▲Autono-MaaS専用EVとして発表された「e-Palette(東京2020仕様)」(写真:トヨタ自動車)
さらに言えば、夏ごろにはライバルであるホンダから世界初のレベル3(走行中にシステムが一時的にでも完全に運転を代行する)の量産車を発表するという噂もある。つまり、この夏は、オリンピックに合わせて自動運転の話題で盛り上がる予定だったのだ。LSのマイナーチェンジも、その一助となるはずだったのだろう。

ところが、年初からのコロナ禍によって状況が一変。オリンピック関連の話題は、すべておじゃんとなった。それ以外の自動運転の話題も、すっかりトーンダウンしてしまったのだ。そんな中、レクサスLSの発表だけが、予定通りに粛々と行われた。これが今回のレクサスLSの時期外れにも見える発表のあらましではないだろうか。

オリンピックに合わせての日本における自動運転ブームに冷や水をかけたコロナ禍。そうした現象は日本だけでなく、世界でも同様と言える。6月下旬には、ダイムラーとBMWによる自動運転の共同開発の一時中断が発表された。2019年7月に締結された2社の計画は約1年でご破算となったのだ。これもコロナ禍の影響がなかったとは言えないだろう。
▲BMWとの提携解消を発表した5日後、ダイムラーはNVIDIAとの提携を発表した(写真:ダイムラー)
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また、世界各地で実施されていた自動運転の実証実験も同様だ。外出禁止令が開発のブレーキになったことは、間違いない。今年のコロナ禍によって、世界の自動運転関連の開発計画は、どこもスローダウンしたと言えるだろう。

しかし、これは一概に「悪かった」と言えないのではないだろうか。なぜなら、コロナ禍によって自動運転技術の開発にかける猶予が生まれたからだ。「コロナ禍だから予定通りに進まなくても仕方ない」というわけだ。
ここ数年の自動車業界は、自動運転の実用化に向けて邁進していた。冷静になって考えてみれば、自動運転は待望の技術ではあるが、今すぐ実用化できなくても困る人はそれほど存在しない。あくまで、次世代に向けての技術なのだ。

だが、あまりの注目の高さに、いつの間にか技術や法制度の整備を追い抜き、「○○年までの実用化」という目標が先行。技術的な目処が立つ前にゴールが設定されていたように見えた。そして、そのゴールの1つとして設定されたのが2020年。今年中に「レベル3の量産車を発売する」というのが、日本メーカーの目標となっていたのだ。

夢のある技術だからこそ着実な計画を

自動運転の実用化は甘くはない。開発の現場は、相当苦しそうに見える。コロナ禍がなかったら無事に目標をクリアできたのかというと、かなり怪しかっただろう。逆にコロナ禍のおかげで「貴重な時間を手に入れられた」と見えるのだ。

ここで立ち止まり、現在の技術や法制度などを吟味して、もう一度無理のない計画や目標を設定すると良いのではないだろうか。コロナ禍によって、これまでの計画通りには進まないのだから。自動運転は、夢のある話ではあるが、やはり技術的にも法的、社会感情的にも、まだまだ煮詰めが必要だ。慌てずに、それでいて着実に進める計画ができることを期待したい。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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