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2023.11.19

ホンダの熱かった日々。N360、1300、バモス……カッコ良くて面白いクルマが次々誕生した!

筆者の人生に、常にワクワクを提供し続けてくれる特別なクルマメーカー、ホンダ。今回は60年代後半から快進撃が始まった4輪車の話。N360、Z360、ホンダ1300、バモスホンダ、シビック……カッコよくて個性的で面白いクルマが次々誕生して、筆者を夢中にさせたのでした。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第221回

「ワクワク時代のホンダ/2」

イラスト 溝呂木 陽 ホンダ
前回は1960年代前半まで、、初期「ワクワク時代のホンダ!」の話をした。続く今回は、60年代後半から始まった、「4輪への本格的チャレンジ」の話をする。

「エスロク」「エスハチ」でクルマ好きをワクワクさせたホンダ! だが、次に世に送り出した軽乗用車もまた、多くのクルマ好きを、、いや、そうでない人たちをもワクワクさせた。

そう、、ホンダは、1967年に初の軽乗用車「N360」をデビューさせたが、これがまた驚くようなクルマだったのだ。

軽乗用車は庶民の日々の足。だから、基本的には、実用本意の穏やかで実直な性能を目指すのが筋だろう。、、が、N360は違った。

いや、そんな考えも当然あったはず。だが、「走りに賭けるホンダの熱い想い」は、結果的に「元気よく、楽しく走る!」方へと、より力を注ぐことになったのだろう。

31ps/8500 rpmの最高出力を引き出す強制空冷4サイクル2気筒エンジンは、「気持ちよく9000rpmまで回った‼」。

まるで「バイクのよう」だったが、ドリームCB450のエンジンをベースにしているといえば、「なるほど!」と頷ける。
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同時代の軽のエンジンは2サイクルが主流で、出力は20ps台前半程度。N360の出力は突出していた。

それに、初期型ではオートバイの構造に近いノンシンクロの4速ドグミッションを採用していたのも楽しかった。

ドグミッションは回転数の同調(シンクロ)機構がない。だから、シフトアップ/シフトダウンする時は、回転合わせのためのアクセル操作が必要になる。

というと、運転技量のないドライバーには扱えないように思うかもしれない。、、が、そうでもない。オートバイ同様、誰でもがなんとなく扱えてしまう。時々ガリッといわせたりはするものの、大過なく運転できた。  

そのうえで、回転合わせが上手くできるような技量の持ち主なら、非常に素早い変速ができる。これは楽しい‼

加えて、9000rpmまで回るエンジンが相棒なのだから、必要もないのにやたら「変速操作」がしたくなる。僕も頻繁にシフトしまくって乗った。

空冷2気筒をオートバイ並みにブン回して走るのだから、N360は静かではない。でも、僕はいつもブン回していた。そうするのが、楽しくてしょうがなかったからだ。

パワーゾーンは6000rpm辺りからだったかと記憶しているが、そこから9000rpmのレッドゾーンまで引っ張り上げるのは、ほんとうに気持ちがいい。

こんな話をしていると、低中速がダメな、扱い難いエンジンと思われそうだが、それがそうではない。回すと気持ちいいが、ふつうの人がふつうの乗り方をしても、ストレスのないフレキシビリティをももっていた。
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ホンダN360はクルマ好きをワクワクさせたが、「初めての自家用車」として購入した人たちにもハッピーを届けたのだ。もし、そうでなければ、デビュー後数カ月で、軽自動車の販売台数首位になるわけがない。 

N360はカッコも良かったし、キャビン空間も広かった。BMC MINIのイメージに通じるところがあるが、ミニマムからマキシマムを生み出すには当然の共通項だろう。

カッコといえば、最近のいろいろなイベントで、きれいにレストアしたN360を度々見るが、改めてカッコいいなと思う。

さらには、洒落た2トーンにペイント、わずかに車高を下げ、ちょっと太めのタイヤを履いた、、そんな「オシャレした」N360を見ると、文句なしに「カッコいい!」と思う。  

初期型N360の車重は540kgと軽く、これも軽らしからぬパフォーマンスを生み出していた理由のひとつになる。

そう、力づくで引っ張るだけでなく、軽量という武器によって、気持ちのいい身のこなしをも引き出していた。 

なにはともあれ、N360は、「安価で、使いやすくて、楽しくて、カッコいい」といった多くの魅力で、黎明期の日本のモータリゼーションを強力に牽引した。  

そんなN360をベースにしたスペシャルティカー「Z360」がデビューしたのは1970年。これにもワクワクさせられた。

いわば、N360の2ドア クーペ版だが、斜めにカットされ、太く黒い枠のガラスハッチをもつルックスは個性的で印象的だった。

デビューの翌年に追加された「GS」は、36psエンジン、ドグミッションの5速MT、前輪ディスクブレーキを搭載。カッコよさと走りの楽しさを併せ持っていた。
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ワインディングロードでのヤンチャ走りが、とても楽しかったことをよく覚えている。

Z360より少し早い1969年に送り出された、FFの「ホンダ 1300」も、強烈な個性の持ち主だった。4ドア セダンと2ドア クーペがあったが、最大の特徴はエンジン。

詳細は省くが、「DDAC=一体式二重空冷」と名付けられたエンジンは、世界初にして世界最後のエンジン。ホンダらしいアイデアと個性、そして強力なパワーを持っていた。

オールアルミ製の1298cc 4気筒エンジンはドライサンプ機構を持ち、上位の4キャブレター仕様では115ps/7500rpmを発揮。当時の1.8〜2.0ℓ並みの出力を誇った。
 
パワフルでスムース、空冷ながら音も静か。エンジン単体としては非常に魅力的だった。

だが、、一般の空冷エンジンは、構造がシンプルで、軽量で、コストが安いことを利点としていたが、ホンダのそれはすべて逆。複雑で、重くて、高コストだった。

FWDだったこともあり、とくに前輪荷重の大きさがもたらす、ハンドリング面でのマイナスは大きかった。アンダーステアは強く、迂闊にアクセルを戻すと、強烈なタックインに見舞われた。
  
そんな性癖というか悪癖を上手くコントロールして、ワインディングロードをいかに速く走らせるか、、仲間内で競ったりしたものだが、けっこう楽しかったことを覚えている。

ホンダ 1300 は決して成功作とは言えない。いや、間違いなく失敗作だ。弱点欠点はいくつも挙げられた。

でも、不思議なことに「妙に惹かれる、、妙に気になる!?」クルマでもあった。それは、「本田宗一郎という人物のカリスマ性と魅力(魔力と言い換えてもいい)」に引き寄せられていたからなのだろうか、、。いや、きっとそうだ。
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1970年にデビューした「バモスホンダ」も楽しかった。定員2名と4名の2種があったが、幌は座席部分のみと「フルホロ」が用意された。ドアはなく、転落防止用のガードパイプが設けられているだけ。

車体前面にマウントされたスペアタイヤは「衝突時のショック吸収のため」と説明された。、、だが、ルックス面での魅力を引き上げるポイントのひとつでもあった。

バモスのシンプルさはストレートにカッコよさに結びつくもので、50年以上経った今でも旧さを感じさせない。「理屈抜きでカッコいい!」。

今、バモスで青山通りを走ったら、きっと大注目を浴びるだろう。ファッション誌の小道具としても「いい仕事」をするはず。LEONでも試してみればいい。

ワクワク時代のホンダを締めくくるのはシビック。1972年に登場したコンパクトHBだ。

シンプルでバランスのいいデザインは世界的にも拍手で迎えられ、ホンダ1300の失敗で窮地に立たされたホンダの救世主になった。
 
デザインとともに、成功の牽引役を果たしたのがCVCCエンジン。厳しい排気ガス規制「マスキー法」を、後処理装置なしでクリアした世界初のエンジンでもある。

第4次中東戦争によって引き起こされた第1次オイルショック。その影響で、燃費のいいコンパクトカーの世界的需要は一気に高まったが、CVCCシビックのデビューは、そのタイミングにもピタリと合った。

そんな時代背景もあって、CVCCシビックは世界的な大ヒット車になった。中型車や大型車に乗っていた人たちからの乗り換えも少なくなかった。

その理由は、単に「燃費がいい」という経済的理由だけでは説明できない。コンパクトでクリーンなシビックに乗っていると、「インテリに見られる」といった知的側面も、人気を後押ししたとされる。

そう、、ホンダはこうして、、クルマ好きはもちろん、そうでない人たちをもワクワクさせながら、4輪メーカーへの基盤を着々と固めていったのだ。  

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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