2023.12.17
クリスマスシーズンのウィーン、大人ならではの怠惰な楽しみ方とは?
コロナ禍を経て、ようやく大好きなウィーンを訪れたのは4年ぶり8度目のこと。歳を重ねるごとに街の楽しみ方も変わってきたと筆者。ウィーンは怠惰な時間の過ごし方でも十分に楽しい街なのだと言います。今回はクルマを離れて海外経験豊富な筆者ならではの旅エピソードをお届け致します。
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第223回
クリスマスシーズンのウィーンが好き!
仕事柄、海外に出ることは多かったが、加えて、年に1~2度、プライベートな旅も続けてきた。僕も家内も旅が好きだから。
そんな旅好きなわれわれが、4年も足止めを食らったのは辛かった。しかも、1年1年が大切な後期高齢者なのだからなおさらだ。
そんなことで、コロナが落ち着き、海外旅行の面倒な手続きが一切不要になったタイミングで、すぐ飛行機とホテルの予約を入れた。
行く先はウィーン。時期はクリスマスシーズン、、これは最近のわが家での決まり事のようになっている。ちなみに、クリスマスシーズン以外ならハワイでキマリだ。
若くて元気な頃は、LA、サンフランシスコ、ロンドン、パリ、ミュンヘン、ミラノ、、といった街を巡っていた。
そして、行く先では、レンタカー、バス、列車、地下鉄等々を利用。あちこち飛び回っていた。魅力的な街が近郊にあれば、すぐレンタカーを飛ばすか、列車に飛び乗るかした。
美術館やコンサートにもよく行ったし、アンティークマーケットにもよく行った。
マーケットでは、気に入ったものがあればすぐ買った。ほとんど小物ばかりだが、、そんな戦利品がわが家のあちこちに置いてあり、見る度に懐かしい思い出が蘇る。
食事にしても、ミシュランガイドを見たり、ホテルのコンシェルジュに聞いたりしながら、いろいろなレストランに行った。
そう、、好奇心に溢れ、元気いっぱいな頃は、時間を惜しんで動き回っていた。だが、最近は極度に行動範囲が狭くなっている。
食事にしても、ホテルで軽く済ませるか、気軽なカフェで、、といったことが多くなっている。とにかく、歳を重ねるごとに怠惰の度合いはグングン高まっているということだ。
ウィーンがお気に入りになったのも、ホテル ザッハーがお気に入りになったのも、「怠惰な時間の過ごし方」と大いに関係がある。
ホテル ザッハーは、ウィーンのいちばんの繁華街であるケルントナー通りに接し、オペラ座の裏手に位置する絶好の場所にある。
シュテファン大聖堂のある広場にも、普通に歩いて10~15分くらい。通りの両側を埋めるいろいろな店に立ち寄りながら、ダラダラ歩いても小1時間程度しかかからない。
加えて、道幅は広く、歩行者専用道路なので、リラックスもできる。
つまり、ホテル ザッハーに泊り、ケルントナー通りを散策するだけで、しごく楽に快適にウィーンを楽しめるということになる。
最近のイルミネーションは、キラキラと青白い光を放つものが増えてきているが、僕はウィーンのような暖かな電球色が好きだ。
そして、シュテファン大聖堂とその前の広場も、ハッピーな幻覚を見ているかのような装いになる。450余年を経た大聖堂の壁面、、今年はショッキングピンクのような照明に彩られていたが、ワクワクさせられた。
シュテファン広場ではクリスマスマーケットが開かれるが、マーケットと、マーケットを訪れた人たちの織りなす風情がまたいい。
マーケットの規模としては「市庁舎前広場」の方が断然上だが、雰囲気的にはシュテファン大聖堂広場の方が僕は好きだ。
どこでも同じだが、クリスマスマーケットでいちばん人が多いのは、ホットワインを売る店の前。
ホットワインとは、赤ワインにシナモンやグローブなどの香辛料と、オレンジビールなどのフルーツや砂糖等々を加えて温めたもので、これを飲むと体がホカホカと温まるらしい。
僕らはアルコール類が一切ダメ。なので、「らしい」としか言えないのだが、ホットワインが飲めたら、どんなにか楽しいだろうと、いつも家内と話している。
ホットワインを飲みながら、多くの人たちが楽しそうに立ち話をしている、、あちこちから笑い声が聞こえてくる、、クリスマスマーケットでいちばん好きな光景だ。
ウィーンに行くのは、今回で8度目だったかと思うが、雪に出会ったのは2度目。だが、ともにドカ雪ではなく、交通の混乱もまったく起こらなかった。美しいウィーンをより一層美しく見せてくれただけだった。
雪化粧した美しいウィーンを楽しみながら、完全に除雪されたケルントナー通りを散策する、、なんと心地よいことか。
人通りの少ない路地裏へ入ると雪は残っていたが、それもまたいい眺めだ。特に、夜になり、暖かな色合いの街路灯が照らし出す路地裏の表情には惹かれるし、いろいろな想いをかき立てさせられる。
シュテファン大聖堂はウィーンのシンボルだが、何度行っても心惹かれる。ミラノのドゥオーモ共々、行けば必ず足を運ぶポイントのひとつだ。
今回は、そのシュテファン大聖堂で、思いもかけない出来事に巡り合った。
ショパンコンクールで2位入賞という偉業を成し遂げたピアニスト、、反田恭平さんが指揮する合唱団の練習現場に立ち会うことができたのだ。
「ウィーン シュテファン大聖堂で歌うモーツアルト レクイエム合唱団」は、200名が公募されたもので、参加者は日本人の女性がほとんどを占めていた。
この合唱団は何者なのか、、初めは首を傾げるばかりだった。、、だが、とりあえずFBに写真を投稿したところ、FB仲間から届いたコメントで上記のことがわかった。
演目はモーツアルト「レクイエム」K.626だが、大聖堂に響き渡る合唱団の歌声には、そして、シュテファン大聖堂オーケストラの演奏には、大いに楽しませてもらった。いい思い出を作ってもらった。
ホテルにしても、楽友協会のチケットを手に入れた時は直近のインペリアル ホテルを、国立歌劇場の時はブリストル ホテルの「歌劇場が見える部屋」を選んだ。予感を楽しみ、余韻を楽しむためだ。
しかし、怠惰そのものになった最近は、コンサートにも行かず、「ウィーンにいる」という実感を味わうだけで満足している。
だから、いい雰囲気の店が軒を連ねるケルントナー通りを散策し、多くを惹きつけて止まないシュテファン大聖堂に身を置き、ヒーターの下の席なら寒くないオープンカフェを楽しむ、、そんなことだけで満足している。
食事にしても同じ。とくに家内の食が細くなっているので、真っ当なレストランのメニューはこなせない。
少し前までは、一皿ごとの量を減らしてもらって、コースメニューを頼んだりもしていた。でも、最近はそれも無理。だから、一皿の料理と飲み物の注文だけで済むカフェなどでの食事が多くなっている。
今回も、行く前は「ウィンナーシュニッツェルは絶対食べる!」などと言っていたが、結局は「無理」ということになり、カフェの軽いメニューで済ませた。
こうなることはほぼ予測できていたし、カフェの気楽さと軽い食事は僕も好きなので、結果オーライということになる。
僕もチキンサラダとカフェラテだけで済ませたが、この晩餐のメニューは、ずっと記憶に残るだろう。、、ま、そんなことで、今回の旅の食事代はメチャメチャ安く上がった。
ちなみに、ホテルでのビュッフェスタイルの朝食だけはしっかり食べた。ザッハーの朝食は、僕も家内も大好きだ。
3泊5日の旅は「短いね!」と言われることが多い。、、だが、怠惰な今の僕たちにはピッタリだし、心地よいものでもある。
気軽に数千キロのドライブ旅行に出かけていた若い頃とは対照的だが、楽しさは同じだ。
3日間の滞在を終え、空港に向かう車中から見た雪景色も印象的だった。「またいらっしゃい!」と言われているかのようだった。「ウィーンわが街」の調べが頭を過っていった。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。