2024.03.10
新型ロードスター&MX-30ロータリー EV試乗記。何がどう進化したのか?
初代の開発段階から関わり、その歴史をずっと見続けてきた筆者が、昨年10月にマイナーチェンジした新型ロードスターに試乗。「走り出せばすぐ違いがわかる!」ほど明らかだったという進化のディテールとは?さらにMX-30ロータリー EVの試乗記もお届けする。
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第228回
ロードスターとMX-30ロータリー EVの2台持ちに惹かれる!
ロードスターとの初の出会いは1987年か88年。場所はマツダのテストコースだった。そう、初代ロードスターの開発段階から関わったということだが、すごく楽しい、そして大切な思い出になっている。
デビュー後には、山岳ワインディングロードに場を移して同じようなことをやった。どちらも、勝てばうれしさを、負ければ悔しさをストレートに表した。でも、最後は大笑いで終わった。
多くのクルマの開発に関係してきたが、こんなに明るく楽しい現場は他に思い出せない。
ロードスターには「人の心をワクワクさせ、笑顔にする」、、そんな何かがあるが、開発現場のあれこれを思い出すと、「そう、、そうなんだよな!」と頷いてしまう。
でも、だからといって、真剣さに欠けていたわけではない。すごく真剣だった。真剣に走り、真剣に考え、真剣に議論を戦わせた。でも、どこかで、必ず笑顔と笑いが重なった。
というより、謎は謎のままの方が楽しい。なので、僕はあえて真相を探るようなことはしなかった。話題に出すこともしなかった。
たぶん、正式に会議や書面で提案する前、好き者が集まりスポーツカー論議でもやっている時に、、誰かの口から出て、その場にいた人が「いいね‼ やろうよ‼」となったのが「ことの始まり」だったのではないか。
ちなみに、海外市場での名称は「Mazda MX-5」であり、北米市場では「Mazda MX-5 Miata」と呼ばれる。Miataとは、ドイツ語の古語で「贈り物」を意味するというが、いい名前だ。
新型ロードスターは、昨年10月にマイナーチェンジが行われ、いろいろな部分で進化を遂げた。しかし、それは、どこかを大きく変えたということではない。小さなものを積み重ね磨き上げて、大きなものを引き出したという表現が正しいだろう。
その進化ぶりは、従来のロードスターを知る人なら、「走り出せばすぐ違いがわかる!」ほど明らかなものだ。
ロードスターの本質はそのままに、「長所を伸ばし、弱点を封じ込める」といったところだが、乗り味、運転感覚、各部仕上げの上質感、、等々のほとんどすべてに磨きがかかっている。
エンジンサウンドもよりスポーツライクになり、耳に心により心地よく伝わってくる。
6速MTのシフト感覚もよく、クラッチのミート感覚もいい。速いシフト操作にも難なく追い着いてくる。だから、自然にリズミカルに走れるし、不必要にシフト操作を繰り返したくもなる。
僕も、今回の試乗中、、街中での流れに乗ったような走りでも、、いつの間にか、シフト操作を頻繁に繰り返す運転を楽しんでいた。
ドライビングポジションとシートがいいのは、ロードスターの良き伝統だが、これも運転を楽しくしているポイントのひとつだ。
コーナリングや安定性に大きく影響するLSDも進化している。
今までも、ロードスターの身のこなしは、多くを楽しませ夢中にさせてきた。新型は、そんな基本を受け継ぎながら、安定感というか「路面への張り付き感」を増している。
前輪からも後輪からも、今まで以上に、メリハリのある、つまり、しっかりした接地感のある挙動 / 感触が伝わってくるのだ。
言い方を変えるなら、「前輪が、後輪が、外輪が、内輪が、、」といった感覚ではなく、「常に4輪で“食いつくように” 路面を捉えている」、、そんな感覚といえばいいだろう。
そんなことだから、街を走っていても、ハイウェイを走っていても、、ステアリングを切る度に気持ちよさを感じる。インターチェンジのループなど、楽しくてしょうがない。
新型にはレーダー クルーズコントロールも組み込まれた。ハイウェイを淡々と走るには有難い装備だし、安全面でもプラスになる。
でも、クルーズコントロールは使わず、アクセル操作、シフト操作、レーンチェンジでのステアリング操作等々の楽しみを優先する、、そんな人が多くなるのではないか。
デザイン面の進化でいちばんうれしかったのは、新しい「8.8インチのセンターディスプレイ」。機能の進化はもちろんだが、横長で「フレームレスデザイン」のディスプレイによって、「コクピットの見栄え」は大きく引き上げられている。
ただし、メーター類のデザインに旧さを残しているのは残念。とはいっても、モダンなデジタルメーターを望んでいるわけではない。
アナログタイプのデザインでも、数字や刻みの繊細化、あるいはパネルの黒白のメリハリをしっかり追い求めることなどで、魅力を大きく押し上げることはできるはずだ。
今回は、新しいロードスターと共に「MX-30 Rotary-EV」にも乗った。その理由は、「ロードスターとの2台持ちの相棒」にもっとも相応しい1台ではないかと思ったから。
僕がいちばん好きなボディカラーは「ジルコンサンド メタリック」。黒との2トーンコンビネーションがとても粋だ。
ちなみに、もし僕がこの2台持ちをするなら、ロードスターのボディカラーはブラックを選ぶ。すごく大人の粋をアピールできるコンビネーションになると思う。
前後席共にスペースと座り心地はいい。大人4人のロングドライブも快適にこなすはず。
シングルのロータリーエンジンは発電用で、実際の走行は125kWh / 260Nmのモーターが担っている。バッテリー容量は17.8kWh。
EVでの走行距離は107km( WLTCモード)とされているが、実用電費をざっくり6掛け程度とすると、65kmほどになる。
この距離で日常の大半をEVとして走れる人は少なくないのではないか。そして、家の駐車スペースに普通充電器があれば、帰宅時にコンセントを差し込むだけでいい。簡単だ。
ロータリーエンジンによる発電を加えれば、計算上の走行可能距離は700kmを超える。週末のロングドライブにも何の問題もない。
HEVとしてのカタログ上の燃費は15.4km/l。上々とはいえないものの、レギュラーガソリン仕様ということを併せ考えれば、まぁまぁかな、とも思える。
走りは「速い!」とか「すごい!」といったものではない。、、が、モーターでの走りは、当然、静かで、滑らかで、レスポンスがよくて、気持ちがいい。
静粛性面でいちばん耳障りなのはロードノイズを含めた足元からの音。ここの改善が、このクルマの価値と魅力をより高めるための重要なポイントと僕は考えている。
今回ピックアップしたマツダの2車には、不思議な魅力と存在感がある。輸入車派の人たちが輸入車から感じ取る特別な薫り、、それがもたらす満足感といった類のものを、僕はこの2車から感じている。
現時点で、ロータリーエンジンは、合理的、あるいは効率的な解とはいえない。でも、「独特の存在感」というか「独特のブランド感」というか、、そうしたプラスαがある。
まぁ、MX-30なら2ℓハイブリッド モデルを選ぶのが無難な道ではある。、、が、、いずれにしても、ロードスターとMX-30のコンビネーションに僕はかなり惹かれている。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。