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2024.05.19

「世界のホンダ」の基礎を作った初代「アコード」は、間違いなく日本が産んだ名車の1台だ

この3月にフルモデルチェンジして11代目となったホンダ「アコード」。初代が生まれたのは1976年でした。一見して、ごく普通の小型乗用車だったものの、筆者はその3ドア HBに惹きつけられ、触れれば触れるほど、懐の深い魅力の虜になっていったのでした。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第233回

初代ホンダ アコードに痺れた!

イラスト 溝呂木 陽 メルセデス ホンダ 初代「アコード」
痺れたとはいっても、初代アコードが、ドキドキワクワクするようなデザインやパフォーマンスの持ち主だったわけではない。一見して、ごく普通の小型乗用車だった。

でも、1976年生まれの大衆向け小型3ドア HBに、僕は惹きつけられた。触れれば触れるほど、懐の深い魅力の虜になっていった。

3ドア HBと4ドア セダンがあったが、僕が惹かれたのは前者。

4105×1620×1340mmのサイズをもつ2ドア HBボディは、素直で伸びやかだし、全体のバランスがよくスタイリッシュ。加えてそこはかとない品位も感じられた。
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そうしたルックスは、例えば、上級のプレミアムカーの隣に駐まっていても、控えめながら明快な存在感を示した。

もし、塗装を筆頭に、もう少し上質な外装の仕上げと、デザイン性の優れたホイール等を与えられていたら、きっと少なからぬ人たちから憧れの視線を集めたに違いない。

ホンダ4輪車参戦への導火線になったN360とシビックを基本に、「ベーシックな価値」をより幅広く深く追い求めた答えとして、アコードは十分に目標を達成していた。

クーペスタイルの3ドア HBというと、キャビンの狭さをイメージする人もいるかもしれないが、そこもしっかりクリアしていた。

4人の大人が無理なく過ごせるスペースを確保していたし、低いベルトライン、細いピラー、広いガラス面積がもたらす感覚的な広々感にも高得点がつけられた。
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インテリアのデザイン / 仕上げも上々。多くの人たちを頷かせ、満足感を抱かせたに違いない。

ダッシュボード周り、メーターパネル、ステアリングホイール等々にしても、クリーンな印象に仕上がっていた。

といったことで、初代アコード3ドア HBは、新しい時代に添った魅力的なルックスと快適性、そしてインテリジェンスなディテールが見事に調和し、達成されていたのだ。

その結果、日本でもアメリカでも多くから拍手で迎えられ、ホンダの4輪車事業を確固たるものにする大きな礎になった。

アコード 3ドア HBはFFで、1.6ℓ4気筒のCVCCエンジンを積む。一切の後処理装置が不要という、当時では、世界を驚かせた画期的なクリーンエンジンだった。

最初にCVCCエンジンが積まれたのは1973年12月で、クルマはシビック。
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初期のCVCCエンジンはパワーやレスポンス面でやや物足りず、モッソリした感覚があった。しかし、アコードに積まれた頃には、かなり改良は進んでいた。

アコード 1.6ℓ CVCCの最高出力は82ps /5300rpm。、、だが、7000rpm辺りまでスムースに回ったし、パワーも大きくは落ちなかった、、。

高回転域までスムースに回るエンジンとスムースなタッチの4速MTは、アコードを気持ちよく走らせた。意識せずとも、リズムに乗った、滑らかで正確な運転に導いてくれた。

結果、スポーティな運転をも楽しませてくれたし、走り方によって、スポーツカーに乗っているような気分にさえさせてくれた。

ちなみに、CVCCエンジンの開発にあたった主要メンバーリストには、久米是志(3代目社長)、入交昭一郎(初代北米ホンダ社長)、川本信彦(4代目社長)、櫻井淑敏(ホンダF1チーム総監督)といった、錚々たるメンバーが名を連ねる。
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僕もあれこれお世話になった方々ばかり。貴重な想い出、楽しい想い出がいっぱいある。

ステアリング、クラッチ、アクセル、エンジン、シフト等々、、、の調和もよかった。この辺りの躾は、開発者たちが、クルマの運転というものを、頭だけではなく、身体で五感でしっかり理解していた証拠だろう。

サスペンションはストラット式4輪独立懸架だったが、乗り心地は良く、ハンドリングのバランスもよかった。

スポーティであると同時に素直でもあり、どんな運転にも違和感なく追従してきた。

当時のFFにはまだ、癖のある運転しにくいクルマも少なからずあったが、アコード3ドア HBは実にいいバランスの持ち主だった。

4輪が路面をしっかり掴み、フロントの応答、リアの追従も素直。気持ちのいい運転が楽しめた。
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当時のFF車は、追い込むと強いアンダー、追い込んだ状態からアクセルを戻すと強いタックイン現象が出るクルマが多かった。

とくにスポーツ走行領域に入ると、そんな傾向は一層強くなる。なので、ドライバーには、強いアンダーステアやタックインをうまく抑え込みながらアベレージを高める、、そんな運転テクニックが求められた。

とくにハイパワーのスポーツ系モデルにはその傾向が強く、少なからぬドライバーを困惑させたに違いない。

そんな類のFF車の代表としては、初代ミニクーパーSが挙げられる。ミニクーパーSを上手くコントロールし、速く走らせるには、かなりのテクニックが求められた。

でも、それはチャレンジしがいのあることであり、とても楽しいことでもあった。
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素直でコントロールしやすいクルマは、多くから拍手で迎えられ、賞賛もされる。でも、ジャジャ馬に手を焼きながらも、それをコントロールすることに喜びを感じる人もいる。

僕は素直なクルマもジャジャ馬も、どちらも好き。だから、前者には「これはいいです!!」と素直に勧める。

一方、後者には「あれこれ厳しい注文をつけた上で」、、それが、ミニクーパーSのような楽しいキャラであれば、「ちょっと厄介ですけど楽しいですよ!!!このクルマ」といった勧め方をする。

アコード3ドア HBは、どこから見ても「優等生キャラ」。でも、退屈などしないし、とても魅力的だ。

すでに触れた「全体にバランスの取れた、スタイリッシュなルックス」がひとつの理由だが、加えて、優れた乗り味、走り味がもたらす魅力にも惹かれる。
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アコード 3ドアHBの乗り味は、当時の小型車の水準を確実に超えていた。とはいっても、ソフトで優しい、、といった類の乗り心地ではない。

しっかりした、そして軽快なタッチで路面の不整をクリア。前後のバランスもよく、不快な揺れが尾を引くといったようなこともほとんどなかったと記憶している。

ステアリングはスムースで、フロントの応答も、リアの追従もいい。

それに、ちょっとしたミスならクルマがうまく飲み込んで消化し、何事もなかったように丸め込んでもくれる。

追い込んでもアンダーは滑らかに、アクセルを緩めてもタックインは滑らかに、、、ブレーキングドリフトも思いのままに決まる。

クルマの姿勢も姿勢の変化も安定している。なので、慌てさせられたり、ドキッとさせられたりしてドライビングを乱す、、、といったこともない。
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コーナーの絶対速度はとくに速くはないものの、とにかくバランスが良く、急激な変化もないので運転しやすく、結果としてアベレージも高くなる。

とくに、タイトなコーナーの続く下りのワインディングロード辺りでは、下手なスポーツ車を置き去りにするようなアベレージで走り抜けられた。

たぶん、外から見ていてもあまり速くは見えないだろう。だが、全体バランスの良さが引き出すアベレージスピードは高かった。

アコード 3ドア HBは、1976年のモーターファン COTY(現在のCOTYの前身)でイヤーカーの座を獲得した。当然の結果だった。

当時、僕はCOTY最年少審査委員だったが、工科系大学教授を中心に、日本の自動車工学界を牽引なさっていた方々の間に、「走り屋小僧が1人紛れ込んだ」という感じだった。
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でも、僕が「身体で、五感で感じたインプレッション」に、先生方はよく耳を傾けてくださった。緊張しながらも、感じたこと、考えたことを率直に報告させていただいた。

「世界のホンダ」の基礎を作ったクルマでもある初代アコードは、間違いなく日本が産んだ名車の1台だと僕は思っている。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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