2020.06.17
80歳を超えた世紀のカーデザイナー、ジウジアーロが描いた未来のオープンカー
この8月に82歳を迎える天才カー・デザイナー、GGことジョルジェット・ジウジアーロ。その最新作「バンディーニ・ドーラ」はまがうことなき彼一流のクリーンなプロポーションを備えた格別な一台なのです。
- CREDIT :
文・写真/越湖信一(PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表) Special Thanks/GFG Style、Italdesign Giugiaro S.p.A. 、Bandini Automobili
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日本との繋がりも深く、いすゞ117クーペ、ピアッツァや、日産マーチ(初代)、トヨタアリスト(初代)など多くのモデルを手掛けており、セイコーの腕時計やニコンF3など多種のプロダクトデザインにも関わっている。
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最新作バンディーニ・ドーラとはどんなクルマなのか
「快適性を犠牲にすることなくハイパフォーマンスを楽しむというのがこのドーラの重要なコンセプトです。ボディサイドのアーチはフロントホイール上部から、あたかもAピラー、ルーフであるかのように見せながら、リアスポイラーまで続きます」
たしかに、このアーチの存在が、バルケッタボディに独特かつモダンなテイストを与えている。長く細いヘッドライトと融合したアーチはエアロダイナミクスが考慮された微妙な断面を持つという。サイドからこのドーラを眺めるなら、このユニークなアーチがGGお得意のワンモーション・シェイプを見いだすことができる。まさにイタルデザイン創立第一作目であるビッザリーニ・マンタのような……。
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この運転席、助手席が分離したコックピットスタイルもGG独特のスポーツカー観のひとつだ。1988年発表のアズテック(限定生産モデル)や近年のテックルール・レンなどにおいてもそれは見られるし、初期の傑作シヴォレー・コルベア・テスチュードのスケッチにその起源を見ることができる。
イタルデザインからGFG Styleへ
GFGとはGiorgetto & Fabrizio Giugiaroの頭文字を取ったものだ。“Giugiaro” という商標はVWとの契約により、エンブレム等ボディに付けることはできないが、自動車関連事業へGGが参入することに関しては制約がなかったというから、それは理想的な展開であったと言えよう。
バンディーニ・アウトモビリとの出会い
そしてこれら3台のショーカーはすべてが機能し、実際に走行できる仕上がりであったことにも注目したい。とにかく、GGはすべてにおいて“フィージビリティ(実現可能性)”に拘った。みんなをアッと言わせるようなスケッチを描いただけでは何の意味もない。実際に走り、人間が乗れるものでなければならない、というのが彼の哲学だ。
GFG Style は2016年の創業以来、4年間で7台のコンセプトモデルを発表しており、現在も水面下でたくさんの企画が動いているという。このドーラは2年間に渡りEVスポーツカーのアイデアを持っていたバンディーニ・アウトモビリとのやりとりから生まれたもので、さらに開発を進め、30台ほどの限定モデルとして市販化が予定されているという。
「バンディーニ・アウトモビリは創始者イラーリオのレースに対する情熱がその原動力です。彼の称号を受け継いだ私には幼少期よりレースに関する情熱が注入されていました。だから、何とかイラーリオの名前を蘇らせようと2008年から電動スポーツカーのアイデアをあたため始め、会社を復活させたのです」
ちなみにミッレミリア博物館に展示されていたバンディーニ750スポーツ・インターナショナル・バルケッタは、1957年に開催された最後の初代ミッレミリアに出場した個体であり、ジュネーブショーにおいても展示が予定されていたものだ。
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“世紀のデザイナー”は決して独善的な仕事はしない。顧客のニーズを如何に的確なカタチに仕上げるかという視点はGG御大が80歳を超えようとも、他の誰よりもシャープだ。GGはこれからも私達の目を楽しませてくれる作品を描き続けてくれることであろう。
●越湖 信一(えっこ しんいち)
PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表。イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。