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2020.10.11

モデナで見たマセラティの最新スーパースポーツMC20はここがスゴイ!

9月9日、イタリアのモデナで行われたマセラティの新型スーパースポーツ「MC20」の発表イベントに、アジアから唯一参加した筆者が、現地での取材をもとにその知られざる魅力を詳細にリポートします。

CREDIT :

写真・文/越湖信一 Shinichi Ekko(PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表) 写真協力/MASERATI S.p.A. 取材協力/マセラティジャパン

薄闇のモデナ・サーキットにはドレスアップした人々が少しミスマッチなマスク直用の下、集結しつつあった。今日は待望のニューモデル、マセラティMC20のローンチ・イベント“MMXX: Time to be audacious”が開催されるのだ。

劇場スタイルの観客席の前には3500GTヴィニヤーレ・スパイダーから現行最新モデルまでが、あたかもドライブシアターのように並び、これから始まるイベントへ向けて興奮が高まっていた。また、サーキットのコースに目を向けるなら、MC12、ボーラ、初代ギブリなど歴代マセラティが夕日の中を疾走している。
スプマンテを味わいながらのアペリティーヴォ・タイムであるが、薄暗いところでマスク着用となると、目の前にいる人物を見分けるのでさえ一苦労でもある。そんな中で、皆を迎えるのはマセラティのCEOであるダヴィデ・グラッソやPRトップのマリア・コンティ嬢だ。MC20のチーフ・エンジニアであるフェデリコ・ランディーニやチェントロ・スティーレ(デザイン・センター)の面々も見える。

機会を逃さず、ここで重要な質問をしておこうと早速、彼らに突進する。筆者は入国時の自主隔離を避ける特例を活用してのイタリア入国であるから、120時間しかイタリアに滞在できないのだ。
あたりが夜の闇に包まれ始めると、ステージにはヘルメットとレーシングスーツを着用したドラマーが登場し、彼らのフィルインからプログラムはスタートした。“MC20ダンサー”達の登場で会場は熱い興奮に包まれた。そして、会場後ろから突然白い物体疾走をはじめる。MC20の登場だ。

もちろんそのドライバーはかつてMC12を操り、大活躍したアンドレア・ベルトリーニだ。5月に予定されていたこのローンチ・イベントであるが、コロナ禍の為、延期となり、ようやく開催が叶ったのだ。厳しい状況におかれていた当地であるが、それに挫けることなくモデナのスタッフ達は精力的に開発を進めていた。おめでとう!マセラティの仲間達。
さて、今回、登場したマセラティMC20であるが、その魅力的なスペックから、発表と同時にオーダーも殺到しているという。そこで、現地で疾走する実車を追いかけ、また開発・製造現場に潜入して開発担当を質問攻めした筆者のリポートから、より深いその魅力を感じとって頂きたい。
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復活! マセラティVSフェラーリ

まさに重要なバックグラウンドがこれだ。往年のモデナにおける2大スポーツカーのライバル体制が復活したのだ。マセラティとフェラーリという巨頭が、20余年の協業を実質的に終え、マセラティはフェラーリへ宣戦布告! そのアイコンたるモデルがMC20なのだ。これまでの協業体制の下では、マーケットで競合するモデルをマセラティはリリースしにくかったのは間違いない。

マセラティは1914年創立の名だたるスポーツカー・メーカーであるが、その歴史には紆余曲折があった。イタリアはモデナの地元資本であるオルシ家の手を離れて以降、シトロエン、デ・トマソ、フィアットとマネージメントが移動した。そして、1997年、イタリア自動車界に激震が走った。当時、同じフィアット傘下にあった、”因縁のライバル”フェラーリの下、グループの一員となったのだ。マセラティはフェラーリ流の開発環境へと大きな舵取りを行い、重要なDNAであるエンジンの開発製造もフェラーリの主導となった。
2005年に生産規模の拡大の狙いからフィアット(FCA)グループ傘下へと再びマセラティは移ったものの、フェラーリとの開発・製造面における協業は継続していた。しかし、フェラーリがFCAグループからスピンアウトし、その両者をコントロールしてたセルジオ・マルキオンネの突然の死去によって大きく環境は変わった。開発・製造、すべてが再びマセラティの手に戻り、マセラティとフェラーリは共同開発体制を終了し、新しい体制が宣言された訳だ。(エンジン供給等の契約はもう少しの間、継続される)

22年ぶりに自社開発されたオリジナルエンジンの製造が、マセラティ・モデナ工場にて始まったことは、マセラティスタにとってうれしい事件だ。また、CFRPシャーシのエキスパート、ダラーラ社との共同開発による新シャーシ(製造はラ・フェラーリやアルファロメオ4Cのシャーシを手掛けたアドラー社が担当)も導入され、リノベーションが行われた伝統のモデナ工場において一台ずつハンドメイドでMC20は組み上げられる。マセラティは本気でブランドの再構築に取り組んでいることが解る。
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“エンジン屋”マセラティの復活

▲MC20のエンジンは100%マセラティ開発
新設計の90度V6ツインターボエンジンはドライサンプを採用し、ドライブトレイン全体の低重心化に拘った。市販車への採用には類を見ないツイン・コンバスチョン・システムの採用や、ツイン・イグニッション・システムの採用によって、フェラーリ時代のMC12(V12 6L)のパフォーマンスを凌いでいる。
▲チーフ・エンジニアのフェデリコ・ランディーニ氏
当地を疾走するプロトタイプのエグゾースト・ノートの素晴らしさに、筆者は思わずそれを追いかけたくなった。そう、それはまさに野太いマセラティ・サウンドであった。「新燃焼システムはパフォーマンスだけでなく、素晴らしいサウンドも生み出します。MC20はミッドマウントゆえ、1メートルもない短いエグゾーストです。しかしマセラティには代々、官能的なサウンドを生み出す為のノウハウがありますからね」と笑うのは、チーフ・エンジニアのランディーニ。
▲CFRPシャーシ
エンジン、その制御システム、そしてシャーシなどすべてが新規というようなモデルの誕生は現在の自動車業界において極めて希だ。さらに付け加えるなら、トランスミッションもそう。マセラティとして初めての採用となるトレマック製TR9080。ニュー・コルベットにも採用されている完全電子制御の最新スペックモデルだ

突出した空力性能

「空力特性は、ダラーラの風洞実験室での2000時間以上に及ぶテスト、1000回以上のCFDシミュレーションによって設計されました。CX値は0.38以下となります」とリリースにて謳われているように、MC20の空力性能は突出している。
▲ダラーラ社によるウインドトンネルテスト
幾つかの補助空力デバイスを追加するだけで、参戦が予想されているFIAGT選手権GT3カテゴリーにて、大きなアドバンテージを得ることができるレベルであるという。特にフロントとリアのダウンフォースのバランスに拘っており、これはクルージング・スピードにおける快適なドライブ・フィーリングと安全性確保を目的としている。

前述のランディーニは「MC20はジェントルマン・ドライバーの為のクルマです」と自信を持って語る。つまり、快適にレース・トラックまでロング・ドライブを行い、そのまま、存分にサーキットを楽しんで欲しい、それも安全に、ということだ。
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クリーンなスタイリング

スタイリング開発はチェントロ・スティーレ・マセラティ(デザイン・センター)の手による。スタイリングの特徴は、引き締まったコンパクトなイメージに尽きる。派手な空力パーツをアイキャッチとし、ひたすらアグレッシブさを強調する現代のハイパフォーマンスカーへのアンチテーゼとも言えるであろう。美しいプロポーションを魅せる為、リヤのスポイラーもディフューザーも、皆ボディラインに溶け込ませてある。
余計な凹凸やキャラクターラインのないボディは、そのボディ表面の質感が重要だ。MC20においてはチーフ・デザイナー、ジョヴァンニ・リボッタがそれを“彫刻的”と表現するように、スムーズで、かつ自然な面構成が見事に作り上げられている。原寸大のクレイモデル製作はベルトーネでかつてランボルギーニ・カウンタックなどを仕上げたベテラン・モデラーの匠が活かされていると聞かされ、腑に落ちた。
フロントのデザインにはMC12のモチーフが強く活かされている。絶妙なアングルを持つコンパクトなフロントフードと存在感あるオーバルのフロントグリルとのバランスは絶妙だ。縦型の、これもオーバーデザインでないLEDヘッドライトがエレガントな雰囲気を醸し出す。
▲チーフ・デザイナーのジョヴァンニ・リボッタ氏
「特にフロント廻りは新世代マセラティデザインのマニフェストでもあります。新しいトレンドをこのMC20で作り出すという自負を持っています。MC12やバードケージ(Tipo61)といったスタイリングをリスペクトしていますが、A6GC/53ベルリネッタ・ピニンファリーナの力強くかつエレガントな風味を受け継いでいることもお解りでしょう」とリボッタ。これはぜひ、実車をじっくりと眺めて判断していただきたい。
▲手前はMC20のDNAとなったA6GCS53ベルリネッタ・ピニンファリーナ

エレガントでミニマルなインテリア

インテリアの造形はシンプルであるが、クオリティの高いマテリアルがセレクトされ、オルシ家時代のギブリ(初代)などからのインスパイアを感じる。新しいマルティメディア・システム用を含めた2つの10インチスクリーンやソナス・ファベールの12スピーカーシステムなどがさりげなく埋め込まれており、質感は上々だ。

マセラティスタとすれば、歴代のモデルに採用されているアナログ・ウォッチはどこに?とつい気にしてしまう。結論から言うとそれは存在しないのだが、センターコンソールの最上部にあるドライビングモード・セレクターがその存在感を受け継いでいる。マセラティ・ブルーの深みのあるベゼルが映えるが、ここに時計があってもいい。
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こだわりのバタフライドア

マセラティとして初めての採用となるバタフライドアはMC20の大きなアイコンでもある。「細く幾何学的に組み合わされた鋼管フレームとクリーンなボディの組み合わせがぐっとくるバードケージTipo61の魅力を、現代に再現した」とリボッタ。
▲バタフライドアはMC20の大きなアイコン
美しいサーフェイスを持つCFRPバスタブシャーシやフロントAピラー下部に見えるサスペンション系パーツとのコントラストは、たしかに熱い走りを連想させる。さらに、ライバル達と比較するなら、このバタフライドアと低いサイドシルのおかげでMC20の乗降性は極めて良好だ。GTとしての用途を考えた時、マセラティらしい本質的な解釈を感じる

充分なラゲッジスペース

ラゲッジスペースもGTとしては重要なポイントだ。MC20ではエンジンの後ろとなるリヤのパートがメインとなるが、フロント、そして室内のシート後方にもラゲッジスペースを持つ。室内に収納スペース(15L程度であるという)があるのは、実用性という意味で大きなアドバンテージを持つ。現代のスポーツカーでは、室内にはスマホくらいしか置く場所がないものもざらにあるが、街中ではかなり不便であったりする。

ラゲッジスペースの総容量は総容量はさほど大きいわけではないが、使い勝手の良い形状ではあるようだ。ライバル達はリヤではなくフロントに比較的大きなスペースを設けているが、対してMC20のフロントラゲッジスペースは小ぶりだ。その理由は後述しよう。

近未来を見据えたMC20

▲EV仕様のプロトタイプ
MC20は今回デビューしたクーペバージョンだけでなく、オープンモデル、そしてデビューを2022年と予測されている電動モデルの存在がアナウンスされている。当初、計画されていたハイブリッドモデルは開発リストから落ち、フルEV版の追加が想定されている。私達にはピュアな内燃機関の興奮か、フューチャリスティックな電動モデルの興奮か、そのどちらを味わうかという選択肢が与えられる訳だ。

既にテストが繰り返されている800Vシステムを採用したAWBフル電動バージョンの搭載を前提に、MC20はシャーシ、ボディからサスペンション等が設計されている。フロントには電動アクスル搭載の為のブラケット類が既に用意されており、シート後ろにはバッテリー搭載の為のスペースが確保されている。ラゲッジスペースが、MC20の効率的なレイアウトの割に小ぶりであるのは、これが原因でもある。逆に言えば、内燃機関スポーツカーとして、ラゲッジスペースは並の容量であるが、BEV(バッテリー電気自動車)同士で比較するなら、電動MC20はかなりのアドバンテージがあるはずだ。
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(比較的)手に入れやすい……

▲アッセンブリーラインはすでにリノベーション終了
拘りのコンポーネンツを採用し、すべてが新設計なMC20。しかしモデナ工場におけるアルファロメオ4Cの製造経験を活かし、日産7台レベルの量産が現時点でも可能と想定されている。そして、より増産の可能性もあると言うことだ。エンジンからアッセンブル、ペイントまでほとんどを内製化しているのも、重要なポイントだ。年内の量産開始と共に、かなり迅速なデリバリーが行われることが期待される。また、同等のスペックを備えたライバル車たちと比較するなら(安いというのは語弊があるが)、2650万円というプライスもかなり良心的ではある。

結論

▲本社ショールーム前に飾られたMC20
イノベーティブであり、ハイパフォーマンスを実現しながらもGTとしての使い勝手にも十分なこだわりを持った一台。そしてなによりもイタリアン・エレガンスの象徴たるマセラティとしてのあるべき姿を追求している珠玉の一台が、MC20である。これから更に希少な存在となるピュアなガソリン・エンジン仕様はスポーツカー史上に残るモデルとなることは間違いない。

また、これから全貌が明らかになるフル電動モデルも、完成度の高さが噂されているから、こちらも十分にそそられる。そういう点では、なんとも悩ましい選択を私達に強いるMC20である。

● 越湖 信一(えっこ しんいち)

PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表。イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンタテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。

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