4座クーペモデルはフェラーリにおいて王道
僕ね、近現代のフェラーリでもっとも注目しているのが「612 スカリエッティ」なんですよ。
「FF(Ferrari Four)」の前身として2004年から2011年まで生産されたFRの4シーターモデルですね。それはまたずいぶんシブイ趣味だなあ。
かつてイタリアに出張で訪れたさいに、あるファッションブランドのCEOがスカリエッティを足として日常使いしていたんですよ。で、一緒にディナーに行くときにリアシートに乗せてもらったんだけれど、12気筒のエンジンサウンドと、リアシートの快適性に衝撃を受けて、それ以来、気になっていて。

フェラーリ製12気筒の甲高いサウンドは鳥肌が立つくらいに官能的ですからね。
フォルムはロングノーズ・ショートデッキで、代々続くFRフェラーリのトーン&マナーを踏襲したものだけれど、後席スペースの確保の仕方もとにかく秀逸でね。だから、その流れを汲む「GTC4 ルッソ」は、すごく興味があったんだよね。
ところで、前田さんも僕も年齢的にはスーパーカー世代で、フェラーリの原体験といえば、「512ベルリネッタボクサー」や「テスタロッサ」などのミッドシップモデルだと思うけど……。

確かにね。でも、自分にとっての612スカリエッティはまったく別のフェラーリというか…ほら、創業者のエンツォ・フェラーリさんが、じつは当時から4座モデルを大切にしていたというエピソードもあるじゃない?
エンツォは、そもそもF1をはじめとするレース活動の資金を得るために、ロードカーをつくってきたわけです。で、そのロードカーについては、必ずしもレーシングカーに近いモデルだけではなく、セレブリティたちが旅をしたり、ホテルや劇場に出かけたりするのにふさわしい、ラグジュアリーな4座クーペもつくり続けてきました。だから、じつは4座モデルはフェラーリにおいて王道でもありますからね。
そういう伝え聞いた話を、612 スカリエッティに乗ったときに思い出したのも、惹かれた理由のひとつかもしれないね。
毎日の足として使いたおすようなライフスタイルがイメージできる
ところで、GTC4 ルッソも今回の「GTC4 ルッソT」も、 612スカリエッティのようなロングノーズ・ショートデッキの流麗なクーペではなく、シューティングブレーク風のスタイリングが特徴のひとつですよね。スカリエッティのファンとして、それは素直に受け入れられた?
じつはあのデザインを見て、最初はフェラーリからステーションワゴンが出たんだ、って思ったくらいで。でも、70年代にボルボ「アマゾン」から派生した「1800SE」もそうだけれど、僕はクーペのお尻をちょっと上げてシューティングブレークのように仕上げたモデルには、ひとつのクルマの美しさがあると感じていて。だから、フェラーリがそういうデザインを手がけても、違和感はとくになかったんだよね。山口くんはどうだったんですか?

僕は、かつて自動車専門誌にいたこともあって、とにかくパフォーマンス至上主義だったんです。だからフェラーリといえばF355や430といったV8ミッドシップモデルでしたね。456や612スカリエッティなどの4座クーペにも試乗した経験はあるけれど、年齢が若かったせいもあって、正直食指が動かなかった。ただ、GTC4 ルッソの前身であるFFが登場したときに、従来の4座フェラーリとはちょっと異なる文脈で、すごくいいなと思ったんです。
あのスタイリングが?
それも含めてだけれど、FFを見ているとオンとオフを問わずに毎日の足として使いたおすようなライフスタイルがイメージできて、それがすてきだなと。

あー、それ分かるなー。
FFは4座でゴルフバッグが載せられる程度のラゲッジスペースもあって、しかもフェラーリ初の4WDモデルじゃないですか。これを、ホテルや劇場だけではなく、山にも雪道にも海にも連れ出す。それがフェラーリ乗りの新たなスタイルとして、格好いいなって思ったんですよ。そういうライフスタイルに適合するフェラーリっていままでなかったから、そこに惹かれた。
紛れもない4シーター・スーパースポーツ
今回のGTC4 ルッソTもその延長線上にあるの?
V12エンジンと4WDシステムを踏襲したCTC4 ルッソについてはFFの延長線上にあります。しかもスタイリングからパフォーマンスにいたるまで、全方位的に磨き上げられている。乗り心地や静粛性も向上しているし、ハンドリングやエンジンのフィーリングも明らかに進化している。
なるほど。
一方のGTC4 ルッソTは、珠玉の6.3リッターV12ユニットが、「カリフォルニアT」譲りの3.8リッターV8ツインターボ・エンジンに換装され、4WDシステムも省かれた。要は、GTC4 ルッソの単なる廉価版だと思っていました。
GTC4 ルッソが3470万円で、ルッソTが2970万円。実際に500万円も安い!

ただ今回、イタリアはトスカーナ地方で開催され国際試乗会で実際に乗ってみたら、いい意味で予想を大きく裏切られた。これは、紛れもなくスーパースポーツカーだなと。
それは僕も同感だな。
もちろんGTC4 ルッソもワインディングロードでは全幅2メートル、全長5メートルに迫ろうというボディサイズのクルマとは思えないほど気持ちよく走れるけれど、スポーツカーというより最高のGTカーというイメージが強いし、それがGTC4 ルッソの魅力だとも思うんです。一方、ルッソTは、むしろ「カリフォルニア T」の「HS(ハンドリングスペチアーレ)」との近似性を感じるほどに操縦性がシャープで、すばらしいハンドリングカーに仕上げられている。両車はデザイン的にはほぼ同一だけど、走りのキャラクターについては似て非なるクルマなんだなと。
スペックを比較すると、たとえば重量配分についてはGTC4ルッソとGTC4 ルッソTって、実は1パーセントしか変わらないんだよね。ルッソのフロント47:リア53に対して、ルッソTは46:54だから。車重は1790kgに対して1740kg。50kgのダイエット分はすべてフロントセクションで達成されているんだってね。

たとえば、GTC4ルッソのハンドリングは安定感があってオン・ザ・レール感覚が強いけど、ルッソTはステアリング操作に対する応答性が高いし、コーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込むとFRらしくリアが張り出すような感覚がある。よりアクセル操作で姿勢をコントロールしやすいんですね。
フェラーリが用意していたムービーにも、リアホイールを空転させながら走り去るシーンがあったからね。
現代のフェラーリのひとつの答え
乗り味もGTC4 ルッソはしっとりとなめらかだけれど、ルッソTはハードなセッティングで、コーナリング時のロール量も明らかに少ない。E-Diff(電子デファレンシャル)」や4輪操舵システムなどの電子制御デバイスも含めて、よりスポーティな方向に仕上げられていて、ワインディングロードでは驚くほどにボディが小さく感じられる。

僕はクルマの専門家ではないながらも、同じように感じた。で、試乗会のあと何人かのモータージャーナリストに、GTC4 ルッソTの印象を聞いたんだけど、「あれこそ現代のフェラーリのひとつの答えだと思う」と言う人もいて。いわゆるジャーナリスト的な視点でも、このクルマは正解なんだと思った。
そうですね。あのフル4シーターのパッケージと、FRスポーツの走りの気持ちよさをとてつもなく高い次元で両立させているのはすごいと思う。
エンジンスペックを見ると、GTC4 ルッソの6.2リッターV12は最高出力が690psで、最大トルクが697Nm。一方のルッソTの3.8リッターV8ツインターボは、610psと760Nm。実はトルクはルッソTのほうが63Nmも太いんだね。山口くんは昨年のGTC4 ルッソの試乗会にも参加しているわけだけど、その辺りの印象はどうですか?

やはりGTC4 ルッソは12気筒エンジンの存在感が大きくて、スターターボタンを押してエンジンに火を入れた瞬間からその息吹が官能的なサウンドとしてひしひしと感じられる。
それこそV12フェラーリの魅力だよね。
V8ターボのサウンドは少々低音が強調されていて、V12のような官能性はない。だけれど、低回転域からアクセル操作に対するトルクのつきがすばらしくて、スポーツカーのエンジンとしては申し分ない。注目すべきは最大トルクの発生回転数で、ルッソのV12ユニットが5750rpmであるのに対し、ルッソTのV8ターボは3000-5250rpmです。回転計のレッドゾーンも、前者が8250rpmからなのに対し、後者は7500rpmから。その差がそのまま、パワーユニットのキャラクターの違いとして現れている印象ですね。
あえてV8ターボを選ぶという粋
今回の試乗会でフェラーリの担当者が「GTC4 ルッソTはライフスタイルモビリティだ」という言い方をしていたじゃない。つまり、これを普段乗りすることの格好よさを理解してほしいと一生懸命訴えていた。僕はそれがすごく理解できて、GTC4 ルッソTは何かが突出しているわけじゃなくて、あくまでトータルなパッケージの妙が魅力なのだと思う。たとえばGTC4 ルッソTにスノーボードとかスキーなんて積んでいたら、そういうオーナーにはものすごい余裕を感じるじゃない。ちょっとボディに泥が付いたまま乗っていたりね。
それは、まさにFFが登場したときに僕も感じました。たとえばスキーや雪山の別荘にフェラーリで通うようなライフスタイルには、4WDのGTC4 ルッソのほうがルッソTよりなじみやすい。

ただ、あえてV12というフェラーリを象徴するエンジンを積んでいないGTC4 ルッソTで、「ちょっと山行ってきました」とか、「海に行ってきました」というような匂いが漂う乗り方をする人がいたら、たとえばスペチアーレと呼ばれるフェラーリと並んでも、「僕はライフスタイルフェラーリが好きです」って表明しているようで、清々しいような気がする。
それは僕も同感です。GTC4ルッソTは、いわゆるオーセンティックなフェラーリのヒエラルキーに収まらない感じがして、そういう意味でもルッソTに乗るという行為は粋だと思うんですよね。いま、仮にフェラーリのなかで1台買えるとしたら、僕はルッソとルッソTで迷う。
僕は迷いなくルッソTを選ぶ。とにかく、妄想が膨らむクルマなんですよ。たとえば、自分のガレージにこのクルマと、クラシックなミッドシップフェラーリ、それから初代のレンジ・ローバーのような旧いSUVを並べられたら、すごくぜいたくだなとか。少なくともルッソTは奥さんの買い物カーとしても何の違和感もなく使えてしまうから。プレス資料には、リアシートに赤ちゃんを乗せている写真が掲載されているね。

ファミリーで楽しめるフェラーリって、本当に画期的だと思う。従来のフェラーリはやはりドライバー1人、もしくはせいぜいパートナーと2人のイメージだから。
GTC4 ルッソでツーリングに出かけるファミリーなんて、経済的にも精神的にもむちゃくちゃリッチに見えるよね。
たとえば、ヨーロッパならばクルマで国境も越えられますからね。
そうそう、イタリアからちょっとニースまでファミリーで旅行行こうとか。まさにそんなライフスタイルがぴったりのクルマだね。
クーペのルーフをリアまで伸ばし、Cピラーをストンと落としたようなシューティングブレーク風のスタイリングが特徴
迫力のあるフロントビュー。
0-100km/h加速は3.5秒の俊足を誇る。
フェラーリ伝統の丸形テールランプを受け継ぐ。
全長は4,922ミリと5メートルに迫るサイズ。
20インチの鍛造ホイールからカーボンセラミックブレーキが覗く。
3.8リッターV8ターボ・エンジンは610psの最高出力を誇る。
スポーティとラグジュアリーが同居したインテリア。
リアシートも大人がゆったりと寛げるたっぷりとしたサイズ。
GTC4ルッソとのデザイン上の違いはほとんどない。
ほかのどのフェラーリよりも海辺が似合う。
前後重量配分はFRながらフロント46:リア54とリアヘビー。
足回りのセッティングはGTC4 ルッソより明らかにハード。
エキゾーストサウンドはGTC4 ルッソより野太い。
フロント車軸からAピラーの付け根までの距離が長いのがフェラーリ製FRの特徴。
全幅は1980ミリと2メートル近い。
ワインディングロードでの身のこなしはスーパースポーツそのもの。
ボディが小さくなったかのようなシャープなハンドリングが魅力。
車名の由来となる往年の名車「330 GTC」を彷彿させるルーバー。
空力性能も徹底的に磨き上げられている。
スポーティとラグジュアリーが同居したインテリア。
スポーティとラグジュアリーが同居したインテリア。
タコメーターのレッドゾーンは7500rpmから。
助手席側にもパッセンジャーディスプレイと呼ばれる横長のモニターが設置される。
ステアリングホイールに設定されたドライビングモードセレクター。
「AUTO」ボタンを押すとトランスミッションがオートマチックモードに。
歴代のフェラーリ製クーペの例に漏れずインテリアの質感は非常に高い。
インストルメントパネルに施されたステッチがクラフツマンシップを感じさせる。
ゴルフバッグも積めるラゲッジルーム。
クーペのルーフをリアまで伸ばし、Cピラーをストンと落としたようなシューティングブレーク風のスタイリングが特徴
迫力のあるフロントビュー。
0-100km/h加速は3.5秒の俊足を誇る。
フェラーリ伝統の丸形テールランプを受け継ぐ。
全長は4,922ミリと5メートルに迫るサイズ。
20インチの鍛造ホイールからカーボンセラミックブレーキが覗く。
3.8リッターV8ターボ・エンジンは610psの最高出力を誇る。
スポーティとラグジュアリーが同居したインテリア。
リアシートも大人がゆったりと寛げるたっぷりとしたサイズ。
GTC4ルッソとのデザイン上の違いはほとんどない。
ほかのどのフェラーリよりも海辺が似合う。
前後重量配分はFRながらフロント46:リア54とリアヘビー。
足回りのセッティングはGTC4 ルッソより明らかにハード。
エキゾーストサウンドはGTC4 ルッソより野太い。
フロント車軸からAピラーの付け根までの距離が長いのがフェラーリ製FRの特徴。
全幅は1980ミリと2メートル近い。
ワインディングロードでの身のこなしはスーパースポーツそのもの。
ボディが小さくなったかのようなシャープなハンドリングが魅力。
車名の由来となる往年の名車「330 GTC」を彷彿させるルーバー。
空力性能も徹底的に磨き上げられている。
スポーティとラグジュアリーが同居したインテリア。
スポーティとラグジュアリーが同居したインテリア。
タコメーターのレッドゾーンは7500rpmから。
助手席側にもパッセンジャーディスプレイと呼ばれる横長のモニターが設置される。
ステアリングホイールに設定されたドライビングモードセレクター。
「AUTO」ボタンを押すとトランスミッションがオートマチックモードに。
歴代のフェラーリ製クーペの例に漏れずインテリアの質感は非常に高い。
インストルメントパネルに施されたステッチがクラフツマンシップを感じさせる。
ゴルフバッグも積めるラゲッジルーム。