日光は、軽井沢などと同様に外国人によって切り拓かれたリゾート地だ。1872年、英国の外交官として明治維新にも影響を与えたアーネスト・サトウ氏が初めて奥日光を訪れ、たいへん気に入ったという。彼が湖畔に建てた別荘は後に英国大使館別荘となり、2008年に栃木県に寄贈されるまで使われた。
RR広報のローズマリー・ミッチェルさんによれば、奥日光は彼女の故郷に近い英国の湖水地方に似ているという。サトウ氏も奥日光に祖国を感じたのかもしれない。英国の伝統的ブランドであるRRが、奥日光を舞台に試乗会を開くのには十分なゆかりがあったのだ。
新型ゴーストは常時カメラで前方の路面状態を把握し、ダンパー減衰力を最適化するほか(フラッグベアラー・システム)、GPSデータと地図ソフトを活用し、必要に応じてカーブの手前でギアを落とす(サテライト・エイデッド・トランスミッション)。
加えてサスペンションの一部のパーツを上下2個ずつのゴムパーツで挟むことで、油圧ダンパーだけでは抑えきれない微小な振動を抑え込む世界初の装置(アッパー・ウィッシュボーン・ダンパー)が採用された。これらにより垂直の振動だけでなく、水平の動きも抑え込む。乗り心地が良くなればなるほど、気になる細かい振動を封じ込めるためにRRのエンジニアが4年をかけて開発したという。
では、動力性能はどうだろうか。BMWグループのテクノロジーを駆使した6.75リッターV12ターボエンジンが搭載されている、ということ以上の答えはないはずだ。そのエンジンが発するパワーを四輪駆動で余すことなく路面に伝える。四輪操舵機構も備わるため、全長5545mmに達する巨体ながら、日光いろは坂を難なく駆け回ることができた。
彼らによれば、初代ゴーストを購入し、初めて顧客となった新世代のRRユーザーは、これまでの顧客とはやや様相が異なるという。ショーファードリブンにとどまらず、自ら積極的にステアリングを握り、購入時には“走り”(ドライビング・エクスペリエンス)について質問したという。
対してファントムの顧客は、走りについて質問しない。自分で運転しないからだ。またRRの顧客はもれなく経済的に成功しているが、ゴーストのユーザーはその成功を表現する態度にも違いがある。端的に言えば、ひけらかさないのだそうだ。
そうした統計を受け、初代ゴーストで加わった新世代の顧客に対し、RRが新型で出した答えが“これ見よがしではない贅沢と過剰からの脱却”だった。資料には「リダクション」「シンプリシティ」「ミニマリズム」といった言葉が並ぶ。言われてみれば思い当たるふしがある。
あたかも変わらない(高級車ブランドとしての地位を盤石にする)ために変わっているかのようで面白いのだ。それでも、新型ゴーストは贅沢か否かと問われたら、間違いなく贅沢だと答えるほかない。3590万円〜。ただしそれは新しい時代の新しい贅沢だった。
ロールス・ロイス ゴースト
全長×全幅×全高:5545×2000×1570㎜
車重:2540㎏
エンジン:6.75リッターV型12気筒ツインターボ
最高出力:571ps/5000rpm
最大トルク:850Nm/1600rpm
価格:3590万円(税込)~/ロールス・ロイス・モーター・カーズ東京(https://www.cornesmotors.com/rolls-royce)