2018.01.19
砂漠の旅が好き!
実は砂漠の旅好きな筆者。危険と隣りあわせながらも幾度も足を運んだその魅力とは…?
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
昼はタフな時間を過ごしても、夜は熱いシャワーと清潔なベッドが待っている…まあ、軟派な砂漠好きということだ。
陽が昇り始める頃と沈む頃、そして夜の砂漠にはとくに惹かれる。それを見るためだけでも行く価値はある。実際そんな旅を何度もしているが、大好きなアリゾナを例に、もっとも簡単な僕流の砂漠の旅を再現してみる。
テントを借りないのは、ピックアップの荷台に寝るから。天候が悪ければモーテルに泊まるが、よければ砂漠にクルマを駐めて荷台で眠る。文字通り満点の星を見ながら。これが最高で、病みつきになる。
アメリカの友人知人たちと行く時は、砂漠のど真ん中に陣取り、たき火を焚いてバーベキューを楽しんだ。でも、さすがにひとりで野宿する危険を冒す勇気はなかった。そんな時はキャンピングパークに泊まった。
危険というと、盗人や強盗の類のこともあるが、それ以上に不安だったのはコヨーテ。直接身の危険を感じたことはないが、数頭がわれわれのキャンプのかなり近くまできてうろうろしていたことが2度あった。
アメリカ人たちは「大丈夫。こっちが変なことしなければ襲ってなんかこないから」と平然としていたが。僕は怖かった。コヨーテは火を怖がるといった話しもあるが、僕が出会ったコヨーテは、たき火のそばまできてうろついていた。
テントは使わないといったが、神秘的といえるほどに美しい星空を遮るものなど、雄大な砂漠を全身で感じる快感を邪魔するものなど、僕には不要であり邪魔ものでしかない。僕にはピックアップ・トラックの荷台とスリーピングバッグさえあればよかった。
大型のアメリカン・ピックアップには憧れたが、「財布の事情」で手が出なかった。もし、今、同じことをやるならダッジラムを選ぶ。理由は単純。カッコいいからだ。
蛇足になるが、今、南カリフォルニアで数ヶ月とかの長期休暇が過ごせるとなったら、僕はまず、ビーチに近い小さな家とダッジラムを手配する。サンタモニカ、ヴェニスビーチ、ラグナビーチ、レドンドビーチ…想像するだけでワクワクしてくる!
砂漠の夜は冷え込む。寒いというより冷たいといった方が合っているだろう。でも、スリーピングバッグに包まれていると、身体はほかほか温かい。冷たいのは顔だけだ。
暖かい身体、冷たい顔、満点の星、コヨーテの遠吠え…いつのまにかなにも考えなくなっている。無の境地とでもいうのだろう。ふと我に返るのは、少し強めに風の流れが変わる時、数条の流れ星が目を過ぎる時…そんな時だけだ。そしてまた一瞬の後、無の世界に入り込んでゆく。
トラックの荷台で夜を過ごすと、朝焼けを見逃すこともない。閉じた瞼の中がなんとなく紅くなり始めることに気づいて目覚める。なぜかわからないが、陽が地平に頭を出す前に目覚める。自然な優しい目覚めである。
スリーピングバッグに包まれたまま、芋虫のようにして身体を起こす。すると地平が紅く染まり始めている。テントの人たちが目覚めるのはもう少し後。その間は僕だけが壮大な神秘の創作を独り占めする。
「おはよ〜!」の声が聞こえて我に返るのだが、そのとき、夜露で顔がぐっしょり濡れているのに気づく。これも嬉しい!
そして、LAに帰り、数日、友達とハッピーな時を過ごして東京へ、現実へと戻る。
●岡崎宏司/自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。