豊富な経験と柔軟な対応力が、アイコニックかつ高機能な“見られる作業着”をカタチにする
まず驚いたのは生産がすべてミシンによる丁寧な手作業だったこと。最終的には何万着もの生産がおこなわれる作業着にも関わらず、安易に合理化されてはいないのでした。裏を返せば、だからこそ相澤氏の複雑なデザインをカタチにできるということなのです。
当然、縫子さんたちの手つきも非常に慣れたもので、デザインが変わりパーツ数が格段に増えた新メカニックスーツをスピーディかつ正確に縫い上げているのでした。他の販売チャネルも含め、世界のトヨタの作業着を数多く手掛けるイワタフクソー、さすがです。
裁断機に重ねられた生地。この色を出すのにも試行錯誤があったそう。
1枚の布からこれだけびっちりとパーツを裁断する。
かつて裁断は手作業で、このようなカッターを使っていました。非常に熟練のワザが必要とされる作業だったそうです。
今回のデザインはパーツ点数も通常の倍以上なのだそう。
イワタフクソーの考案した可動部用の蛇腹生地。
裁断機に重ねられた生地。この色を出すのにも試行錯誤があったそう。
1枚の布からこれだけびっちりとパーツを裁断する。
かつて裁断は手作業で、このようなカッターを使っていました。非常に熟練のワザが必要とされる作業だったそうです。
今回のデザインはパーツ点数も通常の倍以上なのだそう。
イワタフクソーの考案した可動部用の蛇腹生地。
最大の課題はデザイン性と量産性の折り合いをどこでつけるか
「相澤氏は非常にこだわりの強い方でしたが、その意図はとてもよく理解できました。だから、もう数えきれないくらい何度も何度もやり取りをおこないました。例えばサイドに入るラインの幅ひとつとってもミリ単位の攻防があったほど。そして、みんなが完全に納得できるよう、紙の上でのやり取りだけでなくちゃんとサンプルを作って落としどころを探りました。なにしろラインの幅が5㎜違うだけで、新しいミシンを導入するかしないかという話になりますから」
さらに新メカニックスーツには、脇の部分に“パワーネット”と呼ばれる蛇腹状のアクションプリーツが施されているのですが、これもメカニックたちの“生の声”を知る経験豊富なイワタフクソーだからこそなし得た新仕様。現在世の中に出回っているツナギにはない革新的なディテールです。
このあたりの機能的なディテールがしっかりとデザインの一部として成立しているところも新メカニックスーツの大きな見どころ。そこにも相澤氏とイワタフクソーという両プロフェッショナルの見事なタッグぶりを見ることができるのです。
一回作ったら終わり、とならないところが作業着の難しさ
「作業着はメカニックの人が毎日長時間着用するもの。だから、ロットによる個体差に皆さんとても敏感です。しかも、今後最低でも10年間は同じデザインのメカニックスーツを着用することになりますから、途中で何度か細かいマイナーチェンジが入ります。そのたびに同じクオリティをキープするのは本当に大変なんですよ」
そのためイワタフクソーでは、生地やパーツのすべてを品質のブレの少ない日本で調達。それをいまの段階から確保するというのです。“機能する服”を作ることは、それほどシビアなものなんですね。
グリーンの色出しに凝縮されたデザイナーのこだわり
さらに今回のメカニックスーツは、一般のメカニック用と上級メカニックであるトップクルー用が別色。しかもベースカラーが異なるだけでなく配色パターンも違う。だから、縫製段階でパーツの間違いがないようにすることが非常に重要かつ大変なのです。しかし、それもメカニックスーツ全体の統一感と、トップクルーの特別感を高い次元で共存させるために計算されたもの。販売店に足を運んだ人々が、“上質感があり信頼できるトヨペット”に来ていることを無意識のうちに認識する、という視覚効果を追求するデザイン意図の表れなのです。そして相澤氏は、そうしたオーダーに対してもイワタフクソーが、その都度サンプルを作った上で対応してくれたことに強い誠意と熱意を感じたといいます。
ひとつひとつの課題を、プロジェクトに関わるすべての人が納得した上でクリアし、熟成させてきたメカニックスーツもいよいよ完成間近。次回はついにその全貌を明らかにします!
ついに完成した新メカニックスーツ! プロジェクトのすべては以下でチェック!
【Vol.1】相澤陽介氏がデザイナーに就任。現場を視察!
【Vol.2】相澤陽介氏と前田陽一郎が語る理想のデザインとは?
【Vol.4】新メカニックスーツがついに完成! その全貌とは?
● 相澤陽介(ホワイトマウンテニアリング デザイナー)
1977年生まれ。多摩美術大学染織科を卒業後、コム・デ・ギャルソンを経て、2006年にホワイトマウンテニアリングを設立する。これまで「モンクレール」、「バートン」、「バブアー」といった世界的なブランドでスペシャルラインのディレクションを担当したほか、「ホワイトマウンテニアリング」と「アディダス オリジナルス」とのカプセルコレクションを発表。2018年春夏シーズンには「ハンティング・ワールド」のクリエイティブディレクターに就任。