2018.03.24
ジャガーEペイスの試乗会に見る、新しいブランドコミュニケーション
スペックに強いモータージャーナリストや専門誌編集者だけを集めてただひたすら走るのみ――。そんなスタイルの新車試乗会が少なくなってきたようだ。各自動車ブランドは、クルマを所有するライフスタイルの向こう側を伝えはじめた。
- CREDIT :
取材・文/小川フミオ・前田陽一郎(LEON.JP)
自動車メーカーが国際試乗会を開催する場合、冬のヨーロッパならサルデーニャやポルトガルなどの避暑地や、ドバイ、南アフリカのケープタウンなどが選ばれることが多い。そこにあってジャガーのように試乗という目的以上に、その土地のもつイメージに始まり、歴史や風土、そこを訪れる人々までを包括して、車両のイメージを作り上げようという傾向は確かに最近の傾向と言える。
例えば日本でも発表されたばかりEペイスは、その直前に世界各国からジャーナリストを招いての試乗会を開催している。場所はフランスのコルシカ島だった。
「フランスとイタリアと、それに独自の文化が混ざり合ったのがコルシカ。今日の創造性が明日の伝統をつくる場所ともいえます。ジャガーも“伝統とは時代に合わせて変化し、未来に向かって進化させるもの”と思っています」コルシカ島を選んだ理由をジャガー社の責任者は、そう述べている。
現在、モンテネグロは主にその海岸線に沿って、あちこちで巨大なハーバーが建設されつつある。その目的は対岸のイタリアをはじめ、アドリア海に停泊するヨーロッパの富裕層らのヨットやクルーザーを係留するためだ。当然ラグジュアリーなホテルも続々と建てられている。有名なのはノバク・ジョコビッチが結婚式を挙げたあのアマンが運営するアマン スベティステファンだろう。
モンテネグロの平均年収が60万円程度のところ、一泊最低700€からというスベティステファンに宿泊できるのは、当然国外の富裕層だ。しかも絢爛豪華なそれではない、歴史や風土に興味をもつ開拓精神溢れる若い新富裕層がイメージされる。
つまり、Fペイスのイメージターゲットは、モンテネグロを訪れる彼らそのものなのだ。
今回も試乗後にはホテルで「エスパ」のトリートメントまで用意され、ランチは試乗がてらに丘の上や森のレストランをわざわざ訪れるという凝ったスタイルだった。はたしてコルシカ島はジャガーEペイスの性能アピールにもぴったりの土地だった。山中の屈曲路を気持ち良く曲がるハンドリングの良さを体感することができたし、アトラクション的要素も踏まえた上だろうがダートロードや川渡りなどのコース設定も用意されていた。
道路でのクルマの印象に加え、山岳地帯や海岸といった独特の風景や現地のワインなど、包括的に島とEペイスを体験することで、クルマをどんな層にアピールしていきたいか、より強く考えが伝わってきたことは確かだ。
少なくともジャガーの試乗会からはそれらメッセージが読み取れる仕掛けが今後も続きそうだ。