2018.04.11
世界的カーデザイナー、和田智が語るカーデザインの潮流
ファッションと同様、クルマのデザインもモードとしての側面があり、時代や文化の影響を受けながら変化を繰り返してきた。しかし、時の流れに消費されない絶対的な美を湛えたカーデザインが存在するのも事実。ここでは、かつてアウディ・デザインに籍を置き、「A6」をはじめ、アウディの主力モデルのデザインを次々に手がけ、現在のアウディ・デザインの礎を築いたカー&プロダクトデザイナー、和田智氏に、「美しい自動車のデザイン」とは何かについて語ってもらった。
- CREDIT :
文/小川フミオ 写真/岡村昌宏(ポートレート) 画像協力/AUDI AG
私がアウディで学んだこと
私がアウディで手がけたモデルは、「A6」(2005)、「Q7」(同)、それに「A5」(2007)といった量産車と、「アバンティッシモ」(2001)や「パイクスピーククワトロ」(2003)といったコンセプトカーです。
アウディでよく覚えていることは、当時デザインディレクターだったワルター(Walter Maria de’ Silva)とA6のグリルを手がけたときです。
おなじみとなったシングルフレームグリルを初採用した三世代目アウディA6の、和田氏が手がけたスケッチ
おなじみとなったシングルフレームグリルを初採用した三世代目アウディA6の、和田氏が手がけたスケッチ
初代「Q7」をデザインした際のスケッチ
こちらは初代A5を手がけた際のスケッチ。和田氏がデザインに込めた想いが伝わってくる
こちらは初代A5を手がけた際のスケッチ。和田氏がデザインに込めた想いが伝わってくる
おなじみとなったシングルフレームグリルを初採用した三世代目アウディA6の、和田氏が手がけたスケッチ
おなじみとなったシングルフレームグリルを初採用した三世代目アウディA6の、和田氏が手がけたスケッチ
初代「Q7」をデザインした際のスケッチ
こちらは初代A5を手がけた際のスケッチ。和田氏がデザインに込めた想いが伝わってくる
こちらは初代A5を手がけた際のスケッチ。和田氏がデザインに込めた想いが伝わってくる
なぜこれを例に出したかというと、欧州のメーカーは自社デザインをヘリティッジとして大事にしていると言いたいからです。過去の人の声を聴くところに、クリエイションの根源があると思います。
日本のメーカーもだいぶ長い歴史を刻むようになってきましたし、過去にいいデザインを残しています。自社のヘリティッジを“再訪”することでいいデザインが生まれる可能性があるのではないでしょうか。“温故知新“、そして”原点回帰“。見失ってしまった大切なものを探らなければなりません。
大事なのはダイナミズム
メルセデス・ベンツやBMWはキャビンを後ろにずらすことで古典的なプロポーションに固執しています。「Sクラス」や「7シリーズ」に代表されるセダンは代表例です。
いっぽう1980年代にいわゆる空力デザインが全盛となったとき、合理的にフロントノーズを短くして“キャブフォワード”のデザインを採用するメーカーがいくつも現れました。それを見て“古典を否定すればロマンがデザインから失われる”と嘆くデザイナーたちもいました。
2017年のペブルビーチをみると、インフィニティの「プロトタイプ9コンセプト」とか、メルセデス・マイバッハの「ビジョン6カブリオレ」などが好例です。これらはあえてクラシックな高級車を好む人たちをターゲットと想定してデザインされています。
どちらの方向性も興味深いのですが、クルマは人の暮らしや街並を美しくするという役割も持っていると思うのです。だから、どの方向性であろうと、人間味やロマンを感じさせてくれるデザインが待ち望まれているように感じています。
いいデザインの見分けかた
アルミニウムのスペースフレーム構造は、軽量で、燃費に優れたクルマを作りたいという熱意の表れ。オリジナリティあるスタイリングは、ロジカルでありながら気品高い情緒を持ち合わせていました。だからあと何年たってもA2は古くさく見えないと思います。心のあるデザインはタイムレスなのです。
あなたの暮らしや街の中にあって、違和感なく美しく自然に溶け込んでいる。それがいいデザインなのです。美は日常生活にあるものだから、ものの美しさを判断するものさし(クライテリア)を持つことが、いいデザインに出合えるカギなのです。
“美しいデザインは、暮らしや社会を良くする。”
“売れてるから買う”といった付和雷同型の価値観ではいいデザインに出合えないかもしれません。デザイナーは、“誠心誠意”心をこめたクルマをデザインするべきだし、ユーザーはそれをしっかり受け止めてほしいです。
● 和田 智
カー&プロダクトデザイナー、(株)SWdesign 代表取締役(株)BALMUDA 外部デザインディレクター。日産自動車にて初代セフィーロ、初代「プレセア」などのデザインを担当。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・ アート留学後にドイツ・アウディ AG/アウディ・デザインへ移籍。「A6」「Q7」「A5」「A1」「A7」 などの主力車種を担当。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign」を設立。カーデザインを中心に「新しい時代のミニマルなものや暮らし」を提案している。