2020.04.02
フェラーリのエンジンサウンドはなぜ美しいのか?
言うまでもなく、クルマは多面的な存在である。ゆえに、「美しさ」という評価基準も、造形だけに当てはまるものではない。パワートレーンの電化の波が世界的に勢いを増す昨今だが、ここでは改めてエンジンが奏でるサウンドについて、注目してみたい。
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文/大谷達也
クルマの“エンジンサウンド”はどこからやってくるのか?
ただし、実際のエンジンは300Hzだけで“鳴っている”わけではありません。たいていの物体は一つの周波数だけでなく、その2倍、4倍、8倍、16倍の周波数や、1.5倍、3倍、6倍、12倍の周波数でも振動しているからです。これらは倍音成分と呼ばれ、音に表情を付け加えるうえで重要な役割を果たします。
いっぽうで、基本となる300Hzとは関係のない周波数もエンジンは発します。その理由の一つとして挙げられるのが、共振と呼ばれる現象。パーツにはそれぞれ固有の共振周波数があって、エンジンの爆発で刺激を受けると、いくつものパーツが自分の共振周波数で勝手に振動し始めます。つまり、バラバラの周波数でいろいろな音が鳴っているわけです。とくにやっかいなのが、エンジン本体にあたるブロックと呼ばれる部品。これはものが大きいだけに、ひとたび共振し始めるとエンジンサウンドに見逃せない影響を与えるそうです。
美しい“エンジンサウンド”とはどのようなものなのか?
もちろん、人によって好みの違いは多少ありますが、何を美しいと感じるかはだいたい決まっているそうです。なかでもいちばん大切なのが、エンジンの爆発回数によって決まる周波数の音がきちんと“立って”いるかどうか。裏を返せば、この周波数とは関係のない共振はできる限り抑え込みたいことになります。
いっぽう、爆発によって生み出される倍音成分は、前述したとおり音に表情をつけたり、厚みを付け加えてくれるので、打ち消す必要は必ずしもありません。むしろ、これはエンジンサウンドの“味付け”に役立つものとして積極的に活用される傾向にあります。
フェラーリの“エンジンサウンド”が美しい理由とは?!
フェラーリのエンジンサウンドが美しいことは、多くの人が同意してくれるはずです。よく注意して聞くと分かりますが、フェラーリのエンジンサウンドは爆発音とその倍音成分だけが際立ってよく響いているため、非常に澄んだ音色に聞こえます。
もう一つ、フェラーリで魅力的なのは、エンジンサウンドの音程が高い、つまり高い周波数で鳴っていることにあります。これは、フェラーリが8気筒や12気筒といったマルチシリンダー・エンジンを採用していることと深い関係があります。なぜなら、同じ回転数で回っていても、8気筒は6気筒の3割増し、12気筒であれば6気筒の2倍に相当する周波数を発するので、それだけ音程は高くなります。
ちなみに周波数で2倍ということは、音程でいえば1オクターブ上に相当します。しかもマラネロ製エンジンはいずれも高回転型。フェラーリのエンジンサウンドが甲高い理由が、これでお分かりいただけたでしょう。
先日、フェラーリのニューモデル「ポルトフィーノ」の国際試乗会に参加しましたが、そこでもエンジニアたちは、いかに手間ひまかけてエンジンサウンドをチューニングしているかについて力説していました。聞けば、エンジンをコンピューター上でシミュレーションしている時点、エンジンをベンチ上でテストしている時点、エンジンを試作車に搭載して走行テストを行っている時点の3段階でエンジンサウンドをチェックし、美しい音色にするのに必要な措置を講じているそうです。
電子的に美しい“エンジンサウンド”をつくるレクサス
レクサスの「RC F」や「GS F」などには、アクティブサウンドコントロール(ASC)と呼ばれるシステムが搭載されています。これはもととなるエンジンサウンドに一種の合成音を組み合わせることで、ドライバーの感性に訴えかける音色を作り出そうとするものです。
この場合でも、もともとのエンジンサウンドが魅力的でなければならないので、フェラーリのようなサウンドチューニングは欠かせません。そのうえでエンジン回転数などをもとに最適な“調整音”を作り出し、ベースとなるエンジンサウンドに付け加えていくそうです。
興味深いのは、合成される調整音はあくまでもエンジンサウンドの倍音成分を主体とすること。また、サウンドを“合成”するといっても、シンセサイザーのように完全に人工的な音源から作り出すのではなく、自然界にある“天然の音”を加工して調整音を作り出しているという話も、ASCを開発する技術者から聞きました。
調整音は料理でいうところの調味料に近いわけですから、そこに人口調味料ではなく天然調味料を使ったほうが料理のうま味が引き出せるというのは、考えてみれば当然の話かもしれませんね。