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2021.09.19

スカイラインGTをチューンナップした結果……

スカイラインGTRといえば、日産の伝説を築いた名車のひとつ。そのGTRに焦がれつつもGTを手に入れた筆者。納得いくまでチューンナップした、その果てに待っていたのは?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第168回

スカイラインGTの思い出

僕の愛車歴の始まりは1959年。もう何度か触れているが、19歳の時にルノー・4CVを買ったのが最初だ。

その後、背伸びしてあれこれ乗ったが、今回は、そんな中でもとくに思い出深い1台をご紹介する。3代目スカイラインの2ドアハードトップGTである。

スカイラインは初代から好きだった。1957年にデビューした初代は、アメリカ車のような華やかさをもつ唯一の日本車だった。

1960年には,ジョバンニ・ミケロッティのデザインによるコンバーチブルもラインナップに加え、夢を見させてくれた。

2代目スカイラインはガラリと雰囲気を変えたが、スタイリッシュでインテリジェンスをも感じさせた。だが、4気筒1500ccのエンジンは物足りず、強いインパクトはなかった。

そんなスカイラインの立ち位置が一夜にして変わったのが1964年。5月に開催された第2回日本GPに勝利をおさめるべく、急遽開発された「GT」の登場だった。

4気筒を積むスカイラインのノーズを200mm延長。強引に6気筒2000ccエンジンを積み込んだスカイラインGTだ。

さすがにポルシェ904には勝てなかったものの、その戦いぶりにファンは熱狂。「スカイラインGT神話」が誕生した。異様にノーズの長いシルエットも、「力の象徴」として多くのクルマ好きを惹きつけた。

とくに、日本GP出場車と同じ「3連ウェーバーキャブとフロント・ディスクブレーキ」を装着したGT-B=赤バッジは、輸入スポーツカーをも超えるほど人気は沸騰した。
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僕もほしくてたまらなかった。でも、MG-Bを手に入れたばかりのタイミングだったので、さすがに諦めた。友人が買った赤バッジを羨ましげに横目で見るしかなかった。

そして、1968年には3代目が登場。GT系は開発当初から6気筒エンジン搭載を決めていたため、伸びやかでバランスの良いルックスに仕上がっていた。

加えて、69年には「4バルブ・DOHC6気筒 1989cc」=S20型エンジンを積む「GT-R」が誕生。レースでの破竹の進撃とも相まって「神話」は加速していくことになる。

当時、僕はオートスポーツ誌に、レーシングカーやラリーカーの試乗記も書いていた。なのでワークスGT-R」にも乗ったし、高橋国光さんや北野元さんの横にも乗った。いつも「全開でお願いします!」と言って乗り込み、鈴鹿で富士で至福の時を味わった。

でも、4ドアセダンのGT-Rには、今ひとつ夢中になりきれなかった、、のだが、70年秋に加わったHT(ハードトップ)には痺れた。150万円の価格(当時の大学卒平均初任給は4万円くらい)にも痺れたが、、。

そこで一計を図った。GT-RではなくGT(SOHC・L20型エンジン搭載)に的を代えたのだ。GTなら89.5万円と価格は半分近いし、元々、HTのカッコよさに痺れたところが大きかったのでダメージは少ない。

そして、あちこちに声をかけ、新品同様レベルの中古車が出るのを待った。当時は、親から独立して自分の家を持つ(借りる)ことを真剣に考えていた。そんな時期だったので、経済的余裕はなかった。

それほど待たずにイメージ通りのクルマが手に入った。ボディカラーはくすんだようなオレンジ系。いちばんお気に入りの色だった。

エンジンは2リットル6気筒のSOHCで、パワーは120ps(ハイオク仕様)。パワーも満足できるレベルではなかったが、それよりも滑らかさに欠ける回転感にはガッカリした。

広報車のL20の回転感には納得がいっていただけに、憮然たる思いだった。要は「広報チューン」だったということなのだろう。もちろん、日産広報は否定したが、、。
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でも、僕は躊躇せずそのクルマを買った。どうせあちこち手を入れるつもりだったので、内外装と基本部分さえしっかりしていればそれで良し、だったからだ。

最初の手入れはホイール交換。当時の最先端だったマグネシウムホイールを手に入れた。神戸製鋼製のそれは、鈍い光を放つ「いかにも先端!?」といった雰囲気で、ボディカラーとのマッチングも文句なし。1本7万円、4本で28万円の「超絶な買い物!!」だったが

満足度も超絶レベルだった。

GT-Rをやめ、中古のスカG にして、、節約のために頑張ったのに、ホイールに28万円とは!! 最初から、僕の行動は矛盾に満ちていたと言わざるを得ない。

しかし、矛盾は序章だけに留まらなかった。次々と積み重なってゆく矛盾を止めることはできなかった。

たしかカヤバだったと思うが、しかるべき筋から得た「スカG用に開発した試作品でいいのがあるよ」との情報を元に、スポーツ・ダンパーを手に入れた。

そして、日産のスポーツ車両を扱うしかるべきショップでダンパーを取り付け、併せて車高も少し低くしてもらった。ここまでで、僕のスカGはすごくカッコよくなった。

街でも、明らかに人目を惹いているのがわかったし、駐車場でもよく声をかけられた。ホイールと車高の話が多かった。狙い通りの成果を上げたということだ。

そうなると、エンジンにも手を入れたくなった。、、で、なにをやったかというと、、スムースに回るよう、クランクを始めとするバランスに手を入れた。

これも、上記のしかるべき日産系スポーツショップでやってもらった。すでにやるべきことはわかっていたし、データも持っていたようなのでコトはスムースに運んだ。具体的金額は覚えていないが、納得のゆく金額だったように記憶している。

パワーはあえて求めなかったが、加速の瞬発力を高めるため、ファイナルのギア比を少し低めのものに変えてもらった。

エンジン回転のラフさが消え、低いギアでの瞬発力が少しながら上がったことで、感覚的にはずいぶん速くなったように感じた。

見た目のカッコは断然良くなり、フットワークもかなりよくなり、エンジンもなめらかになり、、、僕のチャレンジはことごとく成果をあげた。

でも、経済的にはかなりの逼迫状況に追い込まれたはず。「はず、、」とは曖昧な物言いだが、この辺りの記憶がどうもはっきりしない。たぶん、クルマ好きの兄に「借りた」のだと思うが、返したかどうか、、これまた記憶ははっきりしない。どうも、都合のいい頭脳構造になっているようだ。

いずれにしても、「GT-Rは高くて手が出ないからGTを買った」意味は、まったく的外れな結果になったことだけは間違いない。
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スカイラインと言えば、多くが真っ先に思い浮かべる人は「桜井真一郎」だろう。スカイラインの生みの親、育ての親であり、スーパースターの座に押し上げた人でもある。

桜井さんにはとてもよくしていただいた。僕も桜井さんが好きで、あれこれ理由をつけては話す機会をつくった。

スカイラインに乗ると「直接インプレッションを聞きたい」との連絡が入ることも少なくなかった。桜井さんは、とくに「ハンドリングについて」、それも「限界領域について」の話をよくなさった。

当時はスポーツ車の重要なセールスポイントだったゼロヨン(0~400m加速)で、僕がGT-Rの公式タイムを上回ったときもすぐ連絡が入った。とても喜んでくださった。

GT-Rの公式タイムは16.1秒で、僕が出したのは15.4秒。その2年ほど前、初代シルビアの公式タイム17.4秒を16.7秒にまで縮めたこともよく覚えてくださっていて、「いやー、ありがとう。実は期待していました!」との嬉しい言葉を頂いた。

そうしたあれこれもあり、桜井真一郎さんと連名の単行本も出版された。「クルマ・ハート・スカG」というタイトルだが、200ページに亘って対談している。とくに「ハート」の部分は二人とも熱くなっていて面白い。

初代スカイラインGTから現在の日産R35型GT-Rまで、僕はいろいろな形で関わってきた。とくに、1989年に誕生し、世界に衝撃を与えたR32型から、現在のR35型初期モデルまでの関わりは深く濃いものだった。

僕のクルマ人生の中、スカイラインGT / GT-R(日産GT-Rへと名を変えた今ももちろん)は大きなスペースを占めている。楽しい思い出、大切な思い出が無数にある。
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本連載のイラストを手がける溝呂木先生の個展が開催中です

溝呂木陽水彩展2021
場所:スポーツカーズ in フィアットカフェ松濤
住所:渋谷区松濤2-3-13
電話:03-6804-9992
会期:2021年9/4(土)〜9/26(日)火曜定休 
時間:10〜18時
入場無料

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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