2018.08.10
ランチア デルタ HF でのドリフトは最高だった!!
「ドリフトはあまり好きではない」そう語る筆者を、ドリフトで夢中にさせたクルマがある。今回は、その鮮烈な出会いを語ろう。
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
基本、しっかりグリップして走るのが好き。もちろん、アンダーを殺すためにドリフトさせることはあるが、ドリフトアングルはあくまでも浅いのが基本だ。
ただし、タイトターンが連続するような峠の下りなどで、ターンインする時のブレーキング・ドリフトは比較的多用する。
そんな僕が「楽し〜い!」とドリフトに夢中になったクルマがある。「ランチア デルタ HF インテグラーレ 16 V」。バトンを渡されたデルタHFとともに、1987年から1992年まで6年連続してWRCチャンピオンを獲得した怪物のベースモデルである。30年近く前の話だ。

当時の諸元を見ると、3900×1690×1360mmのボディに2480mmのホイールベース。狭い峠道でも気楽に振り回せるサイズだ。203ps/304Nmの2ℓ・4気筒16バルブ・ICターボエンジン、5速MT&フルタイム4WDの組み合わせを1250kgに抑えている。ブレーキはフロントがベンチレーテッドの4輪ディスク。タイヤも205/50VR15 を前後に。当時としては文字通り「最高!」のスペックだった。
僕と「ランチア デルタ HF インテグラーレ 16 V」の初体験は雑誌の試乗だった。鮮やかな赤のボディカラーが、初夏の陽射しに眩しかったことをハッキリ覚えている。
オーナーからは「全開にする許可」も、「タイヤを気にするな」との言葉もいただき、勝手知ったる峠道に向かった。目的地に着くまでは流れに乗り、操作系の感触を身体に覚え込ませることに終始した。パワーステアリング、5速MT、クラッチ、ブレーキ…みな、すぐ馴染んだように記憶している。走り易かったということだ。
全開走行は3往復プラスαで終えた。デルタHFインテグラーレ 16Vはまさに快感マシンそのものだった。
最近の過給エンジンほど低回転域から太いトルクが出ているわけではないが、タイムラグが気になることはなく、ほとんど気を遣うこともなかった。操作系も軽快でメリハリがあり、ペースを上げるにつれて、ドライビングは自然にリズミカルに、そしてアップテンポになっていった。僕の意志が面白いようにクルマに伝わり、間髪入れず正確に反応してくれた。快感だった。
初めは、いつものようにグリップ走行に徹したが、途中からWRC王者の走行シーンが頭をよぎり始めた。そう「ドリフトさせてみたくなった」のだ。
グリップ走行でも限界領域まで追い込むと、当然“滑り始めの領域の感覚”はわかる。デルタ HF インテグラーレ 16Vはその領域の感覚が素晴らしく、文字通り“地に足が着いた”動きを示した。なので、「この動きなら、少しドリフトさせた方が速いかも」と思ったわけだ。
初めて乗るクルマなのに、もう長く乗り続けてきたクルマのように、僕はデルタHFを自在に操ることができた。とにかく、ズーッと走り続けていたかった。実際、編集部に止められるまで、僕は走り続けていた。止まろうとしなかった。
編集部との約束は2往復で停まることになっていたのだが、3往復でも停まらず、4往復目でストップがかかってしまった。それほど夢中になっていたということだ。
トライを終えてすぐタイヤをチェックしたのだが、いい状態だった。4WD + LSDがしっかり機能し、僕もそれを大きなミスなくコントロールしていたことが証明されたことになる。
マルティニ カラーを纏うMARTINI RACINGデルタHFの勇姿は、今も鮮やかに心に残る。が、僕が操った「ロッソ・モンツァ」の鮮やかな赤は、心に焼き付いて離れない。
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。