アストンマーティンの最新の動きは、スポーツカーのラインナップを一新したことだ。2017年に出した2プラス2のGTである「DB11」が皮切り。
2018年3月にはDB11をベースにしながらスポーティに仕立てた2シーターの「ヴァンテッジ」を送り出した。
これは日常的に乗れる、使い勝手のいいモデルだ。大事な荷物はリアシートに置けるし、ゴルフにだって出かけられる。言うまでもなく走らせる楽しみもある。オールマイティな一台として注目してほしい。
この試乗会が発表直後に、南ドイツのベルヒテスガーデン近辺の山岳路で行われた。高級リゾートホテル「ケンピンスキ」の前に置かれたDBSはDB11より大型化したグリルをはじめ、全体にマッシブな印象が強かった。
現場で会ったデザイン担当のジュリアン・ナン氏は2台を比較しておもしろいことを言った。「DB11はクラーク・ケントで、DBSはバットマンなのです」。
「パワーよりも注目してほしいのは……」。やはり試乗会場で話を聞いたチーフエンジニアのマット・ベッカー氏は語った。
「トルクです。DB11が700Nmなのに対してDBSは900Nm。これだけのトルクを使えるのは、新しい8段オートマチック変速機の恩恵も大きいのです」
実際に走らせるとユニークなアストンマーティンだった。というのは、一般道で時速50キロ程度でもなかなか楽しい。いっぽう高速道路ではもっと楽しい。速度域に関係なく(ポルシェ911のように)ドライブを堪能できるのだ。
いっぽうスロットルペダルを踏み込んだときは、一瞬にしてレーシングカーのようになる。1800rpmで最大トルクを発生しはじめたあと、ターボチャージャーが加速を引き継ぎ、乗員は頭をシートのヘッドレストに押しつけられてしまう。
カーボンコンポジットのブレーキを備えて、じわっと効くフィールはまさにレースカーのようだ。コーナリングでの姿勢安定性は高いが、軽いボディロールを伴う。
ベッカー氏によると、あえてDB11よりはロール角度を抑えるいっぽう、ヴァンテッジより傾くように設定している。
スーパーレッジェーラとはミラノのカロッツェリア・ツーリングが戦前に生み出した、細い鋼管フレームで構成したシャシーにアルミニウムの外板を被せる手法。
当時アルファロメオなどのスポーツカーメーカーがこぞって採用していた。アストンマーティンも1958年発表の「DB4」がスーパーレッジェーラによるボディを持っている。
DBSは、しかし、押出接着のアルミニウムボディに、アルミニウムやカーボンファイバーのコンポジット素材によるボディ。本来のスーパーレッジェーラとは無関係だ。
先に触れたようにDB11に対してよりスポーティで特別なモデルであることを強調するため、アストンマーティンのマネージメントが歴史的な名前を復活させたのである。
シートの形状、色づかい、さらに表面の模様。どれをとってもこのクルマでしか手に入らない、独特の“色気”がある。
アストンマーティンは、フロントエンジンに後輪駆動というメカニカルレイアウトにこだわる。進んだ電子制御デバイスはあまりないが、それはそれでよいではないか。
こだわりこそがスポーツカーの本質だとしたら、このクルマこそ、自動車好きのために作られているといえる。
車両価格は3450万円ていどで、あとはオプションがいろいろ。なんにしても快楽的な楽しみをもつスポーツカーだ。ポルシェともフェラーリとも、またマクラーレンとも違う魅力がある。
最高出力は725馬力、最大トルクは900NmのスーパーGT
ドライブモードによって快適なGTにも、アグレッシブなスポーツカーにも性格が変わる
正円でない形状のステアリングホイールはスポーツ走行のとき扱いやすい
赤が差し色の仕様はメーターナセルまでていねいにステッチがほどこされる
ユニークな幾何学的パターンを持った仕様も選べる
大きなフロントグリルでDB11とだいぶ雰囲気が異なる
ボリュウム感とともに流れるようなシルエットがみごとなバランス
イタリア語で超軽量を意味するスーパーレッジェーラの文字がボンネットに
後席はオトナにはツラいが荷物を置くときなど便利だ
全長は4712ミリ、全幅は1968ミリ、全高は1280ミリ
最高出力は725馬力、最大トルクは900NmのスーパーGT
ドライブモードによって快適なGTにも、アグレッシブなスポーツカーにも性格が変わる
正円でない形状のステアリングホイールはスポーツ走行のとき扱いやすい
赤が差し色の仕様はメーターナセルまでていねいにステッチがほどこされる
ユニークな幾何学的パターンを持った仕様も選べる
大きなフロントグリルでDB11とだいぶ雰囲気が異なる
ボリュウム感とともに流れるようなシルエットがみごとなバランス
イタリア語で超軽量を意味するスーパーレッジェーラの文字がボンネットに
後席はオトナにはツラいが荷物を置くときなど便利だ
全長は4712ミリ、全幅は1968ミリ、全高は1280ミリ
● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト
慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。