ロールスロイスのポリシーを体現したSUV
カリナンは市販のロールスロイス車としては初めて前輪を駆動するモデルということだけでも、注目に値する。前後50対50のトルク配分を持つフルタイム4WDシステムに組み合わされるのは、6.75リッターの12気筒エンジンだ。
420kW(571ps)の最高出力と850Nmの最大トルクという数値はだてではない。2.6トンという重量級ボディにも充分すぎるほどの力を発揮するのだ。ロールスロイスのポリシーは「Effortless, Everywhere」という。不足を感じることなく、どこでも走れる、というのがロールスロイス車のあるべき姿なのだそうだ。
リゾートといってもヤシの葉が風にたなびくようなところではなく、西部劇の世界である。峻険なロッキー山脈を遠景に、砂埃がまうような土地で、エルクやシカやバイソンなど野生動物がひんぱんに出没する。この土地で「シェーン」をはじめ、最近ではクエンティン・タランティーノの「ザ・ヘイトフルエイト」まで多くの西部劇映画も撮影されている。
カウボーイやカウガールが馬に乗っているこの土地に、米国の富裕層はプライベートジェット機でやってくる。夏は冷涼な気候が好まれ、冬はコロラドのアスペン/スノーマスのようなスノーリゾートとして人気が高いようだ。
実際にロールスロイスが用意したホテルは丘の上にたつアマンリゾート「アマンガニ」だった。低層の建物で部屋のテラスに出ると山並みが見え、じつに気持ちがいい。
1650rpmという低い回転域で最大トルクが発生する設定のため、きびしい急勾配の山道でも力不足を感じることはなかった。エフォートレスにエブリホエアを走れるようにという考えは、こうして実を結んでいるのかと感慨ぶかかった。
同時に、カリナンには後輪操舵システムも搭載されている。これもエフォートレス、エブリホエアの考えによるものだろう。とくにきつい曲率のカーブではたいへん重宝した。ふつうだったら何回も切り返しが必要なカーブでも後輪操舵により車体の回転半径が小さくなるので、難なくこなしてしまうのだ。
オンロードではもちろん、ほんの少しアクセルペダルに載せた足に力と入れるだけで、ものすごいトルクでクルマが前に出てゆく。同時に感心させられたのは、乗り心地だ。
ロールスロイスでは「マジックカーペット(魔法のじゅうたん)ライド」という乗り心地を、SUVであるカリナンでも守ることを開発の指針にしました」と話しているぐらいだ。
ドライバーと車両との意思疎通が、ステアリングホイールを通じても出来ているため、小さなカーブが連続するワインディングロードでも気持ちよく走れる。ブレーキの効きもよく、一般的な意味でのスポーティ性とはちがうが、運転じたいを楽しめる設定といえる。
おもしろいのは、いっぽうで、後席の作りこみの高さだ。シートの仕様は二つあり、ひとつはラウンジシートと呼ばれるカウチのようなスタイル。行儀が多少悪くなるのを承知でリラックスしていられる空間になる。
もうひとつはセパレート型だ。左右独立型で、中央に大きなセンターコンソールが設けられている。シャンパンクーラーなどもここに設けられるようだ。
同時にフロントシートのバックレストには多機能モニターを設けることも出来る。映像をはじめ各種のインフォテイメント用で、自分のスマートデバイスを接続して、走るオフィスとして使うことも出来る。
ドアは観音開きで、後席へのアクセス性は抜群によい。リアクォーターウィンドウが大きいのは、後席乗員を隠そうとするセダンと異なったコンセプトだ。オフローダーは視界の確保が重要なので、やるなら徹底的に、とデザインした結果だろう。
トランクリッドは上下に分かれて開くスタイルで、使い勝手はかなりよさそうだ。「ドローンレーシング、フライフィッシング、写真撮影、ロッククライミング、カイトボーディング、ボルケーノボーディングなどあらゆる楽しみに使える」。ロールスロイスの弁である。
20代を中心にデザインチームを作って、カリナンのデザインに当たらせたのだそうだ。車両は3600万円からで、なかなか手の届く価格ではないが、それでも「若い世代の認知を上げたい」と開発者は話している。
とはいえ、新開発のシャシーにはさまざまな可能性が詰まっている。未来のことを考えるのも楽しいカリナンである。そういえばカリナンとは20世紀初頭に南アフリカのカリナン鉱山で見つかった3106カラットのダイヤの原石の名称でもある。ロールスロイス・カリナンもこれからさらに磨きあげて、将来ますます輝かせようというなら、それは楽しみではないか。
ジャクスンホールは4WD車ばかりだがひときわ目立つ
全長5341ミリ、全幅2000ミリ、全高1835ミリと威風堂々たる存在感
知っているひとが観るとすぐにロールスロイスと分かるリアビュー
セダンに近いデザインのダッシュボードで、この仕様は左右対称の木目を持つウッドパネルが貼られている
このラウンジシート仕様はホワイトにブルーのパイピング
後席乗員はインフォテイメント用のモニターを活用できる
シャンパーニュがよく似合う
ジャクスンホールは4WD車ばかりだがひときわ目立つ
全長5341ミリ、全幅2000ミリ、全高1835ミリと威風堂々たる存在感
知っているひとが観るとすぐにロールスロイスと分かるリアビュー
セダンに近いデザインのダッシュボードで、この仕様は左右対称の木目を持つウッドパネルが貼られている
このラウンジシート仕様はホワイトにブルーのパイピング
後席乗員はインフォテイメント用のモニターを活用できる
シャンパーニュがよく似合う
● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト
慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。