2021.03.19
日本の紅は“玉虫色”に輝く? 青山で知的好奇心を満たすひとときを
口紅は女性のメイクに欠かせないアイテムですが、日本で昔から使われてきた「小町紅」のこと、ご存知ですか? 歴史的にも技術的にも科学的にも面白さが詰まった逸品なのです。紅にまつわるエトセトラを、どうぞ。
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写真/外山亮一 文/岸澤美希(LEON.JP)
「見渡すかぎり幟が翻り、濃紺ののれんが揺れている」
というのは、日本の『怪談』などを海外に伝えたラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が、明治時代に来日した際の松江の様子を回想した言葉。『青天を衝け』では、主人公・渋沢栄一の生家での藍玉(藍染の染料)づくりの様子が描かれますが、藍はとても日本人になじみ深い色で、昔は至るところで目にしていたようです。
でも、日本を代表する色は他にもあるんです。それが「紅」、つまり赤色です。
ひと口に赤と言っても、色の種類も染料も様々で、特に美しいとされたのが紅花を使った紅。着物の染料、食品の着色料、画材、そして、女性の口紅として珍重されました。
写真では筆先だけが赤くなっていますが、これは筆に含ませた水に反応しているから。でも、玉虫色に見える理由は、未だに解明できていないのだとか。ミステリアスなところも魅力のひとつです。
紅花の花びらの色素の中で赤色はたったの1%(残りは黄色色素)! しかも、現在でも手摘みをする必要があり、精製までにたくさんの工程を経る必要があるため、貴重ですし価格も相応に高まります。
しかし、時代の流れとともに安価で扱いやすい化学染料の波に押され、明治頃から紅屋は徐々に姿を消し、今でも昔と同じ製法を続けるのは「伊勢半本店」ただ1軒だそう。
近年、女性の間で流行っているティントリップの元祖とも言える代物だ!と、展示を見て驚かされました。しかも、水分量で濃淡の調節ができ、頬やまぶたにも使えるのは、合理的でもあり……。自身でも購入して1週間ほど使っていますが、自分の顔をパレットに毎日色んな事ができて、本当に楽しい! 特に、まぶたに薄く付けると顔全体が美肌に見えて気に入っています。
化粧品は生きていく上では余剰なもの。しかも、今は種類も多く選び放題です。でも、もしこの紅を使う人がいなくなったら、技術も文化も途絶えてしまう。実は紅以外にも、日本は文化の絶滅危惧種大国。グローバル化で便利になる反面、文化が淘汰されつつある今、“何を選ぶか”“どのように暮らすか”の選択が一層重要になってきているように思います(もちろん、選択しない選択もあるわけですが)。
そして、古いと思われている事柄の中にも知恵と発見があるもので。それを知らずに使わないことを選ぶか、とりあえず知ってみようとするか。小さなDOの差ですが、その先に見える世界は大きく違うはず。で、気持ちも生活も満たされれば、それがラグジュアリーでもあるのかな、と。
江戸時代の女性の憧れだった「小町紅」。まずは一見の価値アリ、ですよ。それでは、次回のブログにて!
■ 紅ミュージアム
住所/東京都港区南青山6-6-20 K's南青山ビル1F
TEL/03-5467-3735
開館時間/10:00〜17:00
※新型コロナ対策のため変更する場合があります。
休館日/日・月曜日、創業記念日(7月7日)、年末年始
■ お問い合わせ
伊勢半本店 03-5774-0296