私がまだ20代のころ、ロンドンの日本料理店でウエイトレスとして働いたものの、3日で音を上げた経験は、自らの黒歴史として長く封印してきました。私以外誰も日本人スタッフのいないお店だったため、唯一の日本人としてお客さんにはたくさんのチップをいただいたのですが、注文を覚えられない、ワインを上手く開けられない、そもそも英語がわからない……など数々のミスに自分が耐えられなくなり(当たり前ですよね。日本でも飲食業界で働いたことなかったのに)、ギブアップ。4日めの朝に「おばあちゃんが死んだので日本に帰ります」と電話し、辞めさせてもらったのですが、そのとき電話を受けた同僚ウエイトレスの「Oh, Dear……(あらまぁ)」という声が今も耳に残っています。嘘をついて辞めたりして、すみませんでした。
あ~、懺悔できてすっきり! と、なぜそんなことを思い出したかといえば、先日「麻布さおとめ」に伺い、世界に認められた五月女広之(さおとめひろゆき)さんによる和食を堪能したからなのでした。
海外の和食店といえば高いばかりで美味しくない、やたらとサーモンやマヨネーズを使う、中華料理と混同している、などのイメージがありました(少なくとも私が働いていたロンドンの店はそうでした)が、五月女さんの世界はさにあらず。正統派で、まっすぐ、美しい和食でした。聞けば五月女さんは定期的に帰国し、「分とく山」や「菊の井」、「青柳」などの名店で修業。自らの腕をブラッシュアップする努力を怠らなかったそうなのです。
香港は世界の富豪が集まる美食の街としても知られていますが、その香港で認められた五月女さんの世界とはいかに? ある春の日のコースを全皿ご紹介します。
「日本酒、おかわりお願いします!」
振り返ればとても品よく、正統派の懐石料理をいただいたような印象。ホンモノだからこそ香港の食通にもウケたのでしょう。私の「今日イチ」はやっぱりあのフカヒレ。忘れられないなぁ……。
麻布さおとめ
住所/東京都港区西麻布3-1-9
予約・お問合せ/☎03-5843-0537
おまかせコース2万6600円~。
*完全予約制につき、営業時間や定休日はお問合せください。