2018.11.19

琴線に触れる一枚のモノクロ写真

そんな一枚と出会えたら、写真展も面白いだろうな。そんな軽い気持ちで訪れた「アメリカの近代写真の至宝 ギルバート・コレクション展」。写真展をめぐる趣味はない私ですが、はじめて面白いと思える写真展でした。

CREDIT :

文/市村広平(LEON)

<<三等船室>>1907年 写真:アルフレッド・スティーグリッツ 所蔵:京都国立近代美術館
<<三等船室>>1907年 写真:アルフレッド・スティーグリッツ 所蔵:京都国立近代美術館
この一枚は、「近代写真の父」と称されるアルフレッド・スティーグリッツが1907年に撮影した写真。写真中央の橋が、三等船室の人々と一等船室の人々を分断しています。彼が表現したかったのは、人混みでも風景でもなく当時の階級制度でした。このような、カメラの特性を活かしたストレートな描写は、当時絵画的表現にとどまっていたピクトリアル写真と決別した、ストレート・フォトグラフィーと呼ばれる表現。この一枚は、ストレート・フォトグラフィーへと向かうアメリカ近代写真の出発点と言われている一枚です。
白いフェンス,ニューヨーク州ポートケント 1916年 写真:ポール・ストランド 所蔵:京都国立近代美術館 ©︎Aperture Foundation, Inc., Paul Strand Archive
白いフェンス,ニューヨーク州ポートケント 1916年 写真:ポール・ストランド 所蔵:京都国立近代美術館 ©︎Aperture Foundation, Inc., Paul Strand Archive
この何気ない白いフェンスの写真は、アルフレッド・スティーグリッツに影響を受け、ストレート・フォトグラフィーを目指したポール・ストランドの写真。普段何気なく見ているものが被写体になりえることを気づかせる作品として評価を得ました。日常の中にあるものが写真家の作品として発表されるようになる、先駆けのような一枚です。
PAGE 2
展示作品はすべてオリジナル・プリントなので、黒の色彩表現が非常に繊細で深い。同じモノクロ写真でも、黒の濃淡や階調によってまったく異なる印象です。なかでもこの作品は黒の濃淡が豊かで、モノクロ写真の奥深さを教えてくれる作品。
運河, オランダ, 1971年 写真:ブレッド・ウェストン 所蔵:京都国立近代美術館
私の心に残る2枚の写真をお見せしましたが、ほかにも感性を刺激するストレート・フォトグラフィーのオリジナル・プリントが約70点展示もされています。
null
また、この写真展は写真家のポートレートも同時展示されていて、あまり世に出ない写真家の素顔を見られる珍しいコレクションでもあります。
・何を撮影したかではなく、その被写体を通してカメラマンはなにを見ようとしていたのか
・モノクロとひと言で言っても、黒の表現によって多彩なモノクロ写真がある
・人間ひとりひとりに個性があるように、フォトグラファーにもそれぞれ個性があって、写真は彼らが生きてきた人生を反映したものである

これらに想いを馳せながら観ると、ギルバート・コレクションはさらに面白いかもしれません。

ムービーばかりが取りざたされる世の中ですが、一枚しかないからこそ想いを馳せることができるのもまた、写真にしかない魅力だなぁ、と改めて。

11月24日(土)には、日本大学芸術学部の高橋教授によるギャラリートークがあるので、そのタイミングで行くと理解が深まりさらに楽しめますよ。

ギルバート・コレクション

京都国立近代美術館に所蔵されている写真コレクション「ギルバート・コレクション」は、米国シカゴ在住のギルバート夫妻が、約20年間にわたり収集した世界屈指の写真コレクション。1930年代〜50年代の近代写真の巨匠たちによる充実の作品群は、通史的に写真史を辿れる貴重なコレクションです。
 

アメリカの近代写真の至宝 ギルバート・コレクション展

開催期間:11月9日(金)〜11月28日(水)
開館時間:10:00〜19:00(入場は閉館10分前まで)
料金:無料
会場:フジフイルム スクエア
住所:東京都港区赤坂9-7-3

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        琴線に触れる一枚のモノクロ写真 | 編集記 | LEON レオン オフィシャルWebサイト