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2022.02.05

プロフェッショナルが愛用する名品【橋本 淳編】

多くの人から時代を超えて強い支持を受ける世界の名品。なかでも感度に優れたデザイナーという職業の人は、一体どんな名品をチョイスしているのでしょう? 国内外を股に掛け活躍するクリエイターに、とっておきのエピソードを交えつつ愛用の名品を見せていただきました。

CREDIT :

写真/多田 悟(Rooster) 文・構成/長谷川 剛(TRS)

削ぎ落とした機能的デザインに惚れ込んで

LEON本誌にも頻出し多大な人気を得ているブランド、ジュンハシモト。デザイナーを務める橋本 淳さんは、ある意味LEON的ファッションをリードする敏腕クリエイターです。成熟した男子の色気を引き出すウエアを、構築的に作りだすテクニシャンであり、当然ながらすべてに深くこだわる人物です。

取材当日、開口一番に橋本さんが切り出したのは「実はあまり色々と買ったりコレクションをしない男なんです。欲しいものはすぐ作ってしまう人間だから(笑)」のひと言。しかし続けて「なので、この“名品を拝見したい”とのオファーをいただいた時、少し考えてしまいました。そこで個人的な思い入れにフォーカスした、僕だけの“名品”をご紹介したいと思います」

作り込み満載のオーダーブーツ

▲ デザイナーのマウリッツィオ・アルティエリ氏が手掛けるブランド、メモリアによるオーダーメイドブーツ。コードバン・レザーの渋い艶が実に洒脱です。今から5~6年前に手に入れた大事な一足とのこと。
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そう言ってまず見せていただいたのが、艶やかなコードバンのブーツ。ラギッドなワーク風ですが、実に洗練された雰囲気です。

「僕は若いころに、イタリアのカルペディエムというブランドで働いていた時期があります。デザイナーであるマウリッツィオ・アルティエリさんには、レザーのことから靴や服作りのことなどを色々と学びました。彼の職人的思考やモードに通じるデザインセンスは素晴らしく、特にシューズにそのエッセンスが集約されていました。カルペディエム時代の靴ももちろん秀逸ですが、その後に改めてマウリッツィオさんが興したメモリアというブランドにて打ち出したシューズは、さらにそのエッセンスが凝縮されており、まさに名品を感じさせる作り込み。一発で惚れ込んでしまい、僕もオーダーしたのです」
▲ メモリアのこのブーツはシューレースに先端がないリングタイプ。できるだけスマートさを追求し行き着いた結果のディテールだと言います。
アンクル丈のブーツは外羽根式のプレーントウ。非常にオーソドックスなスタイルですが、コードバンの質感も相まった得も言われぬ丸みにより、豊かな表情を放つ仕上りです。

「この一足にはマウリッツィオさんの靴作りにおける美学が詰め込まれており、そのひとつがミニマルな引き算的デザイン。ヒール部のパーツは、通常センターで切り替えるものですが、この一足はワンピース仕様です。踵の有機的な丸みも手伝って、非常にセクシーなルックスです」
▲ 極限とも思われる微細なステッチに注目。また、少しづつズラしたライニングにもデザイナーのこだわりが見て取れます。
「その他ステッチにもこだわりがあり、限界に近い細かいステッチングにより、静謐でドレッシーなルックスも感じさせます。また、履き口などは厚みが出ないようライナーを少し内側にズラしており、非常にスッキリした見え方。引き算の考え方は、シューレースにも及んでおり、なんと先端のないループ状レースを採用しています。その他で言えば、カルペディエム時代の靴はシャンクとしてスチールを使っていましたが、このモデルではしなやかな履き心地を求め、ウッドシャンクを採用。さらにソールを止める釘にはメタルではなくレモンの木釘を用いるなど、こだわり満載のスペックとなっているのです」
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フードにこだわりを込めたラップコート

▲ 5年前にデビューし現在もヒットを記録し続けるジュンハシモトのラップコート。余計なデザインを排したミニマルなルックスに火が付き話題となりました。この新作は繊細なペールグリーンのメルトン仕様。
そういった作り込みや突き詰めることの美学という点で、少なくない影響を受けた橋本さん。自身が手掛けたヒットアイテムにも、それらエッセンスが自然に取り込まれていると語ります。

「今から5年ほど前に作り出したラップコートは、僕が手掛けたウエアのなかでも非常に特別なもの。最初のモデルをリリースした時、多くの人から『ネタ元とかあるの?』と尋ねられました。そういう意味でのドンズバとなるベースアイテムはなく、説明に苦慮したことを覚えています(笑)。もちろん、取っ掛かりとなるアイデアとして定番のワークコートがあって、それを軸にレディスの要素をアレンジしたり、フードを新たに加えるなど4度ほどのブラッシュアップを経て、ひとつの形になったものなのです」
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▲ 背中からフードへと滑らかに続くパターンがユニーク。このデザインには複数のトライ&エラーがあったと橋本さん。
特にこだわったのがフードの部分。フロントジップを開けて着用する際にもフードがペタッとならず美しいボリュームが出るよう試行錯誤を重ねたと言います。

「そのひとつとして取り入れたのがフードの一体構造。首裏部分に切り替えを加えることなく、背中からフードに伸びるパターンを採用しました。それに伴いフード回りの形状も少しずつ改良することで、理想のボリューム感にたどり着きました」
▲ デザイン要素を減らしつつも、独特の存在感を放つラップコート。デコラティブなフードは、マフラーにも似た巻き物的な効果も備えます。
このラップコートはパターンのみならず素材にもこだわっています。某フレンチの大御所メゾンも使うメルトン素材は、縮絨なのにカシミアブレンド。独特のカッチリ感としなやかさが、このシンプルなコートにリッチな存在感を添えているように思います。現在まで非常に多くの支持を受けているラップコートですが、特に感銘深いのが、プレミアリーグで活躍する選手が愛用していること。

『(現地でも)非常にウケがイイんです!』などのポジティブなメールが届くと、我ながらひょっとしてこれ名品? などと思ってしまいます(笑)」
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構造美の集積に惹かれたライカM9

▲ ブラジリアン柔術にゴルフときて、橋本さんにおける第三の趣味となったのがカメラ。ライカのカメラはその本体のデザイン性に加え、撮影した写真の美しさにも惚れ込んでいるとのこと。
日々デザインを考える立場として、インスパイアされるプロダクトも多いという橋本さん。なかでもライカの在り方は別格だと指摘します。

「機能を求め突き詰めたデザインが美観になる、と言う点では先ほどのブーツもコートも一緒です。ライカのカメラはドイツ製ならではの質実剛健かつソリッドなデザインがとにかく素晴らしい。以前にもライカのカメラを所有していましたが、そちらは少しばかりへヴィで使い勝手の面で難アリ。ですので数年前に新型のM9を手に入れました。あえて主張しないボタン形状や、逆にボディの段差やエッジを明確に付けてみたり、レンズフードまでメタル製かつ独自性あるスマートな形状など、コンパクトにしてどこから見てもライカであるパッケージがポイントです。そういったデザインはひとつの理想ではないかと僕は考えます」
▲ ヨーロッパ出張を含め旅には必ずライカを持っていく橋本さん。「印象的な風景やメモ代わりとしてアイテムの写真なども撮影します」
お気に入りのライカで橋本さんが撮るものは風景や造形物。そしてライカで写し取った画像は、他にはない特別な味わいがあると語ります。

「カメラ本体の美しさもさることながら、ライカはやっぱりレンズが別格。このズミクロンレンズは単焦点タイプですが、1850万もの画素数があり、ズーム風にも撮れるもの。そして何よりズミクロンならではの味わいが素晴らしいですね。ナチュラルにして温かみある表現力は他のレンズにはない特質。ある意味、これだけでも十分名品と言える存在だと思います」

活躍目覚ましいデザイナーである橋本さんは、昨今は服飾系ばかりでなく、ホテルや航空業界とのコラボレーションでも話題となっています。そんな多才な人物が考える「名品」の条件とは一体なんでしょう?

「難しい質問ですが、個人的には出会った時の衝撃や感銘が何度でも味わえるアイテムだと思っています。つまり、数回や数年で飽きてしまうことがない。いつ手にとっても美しく個性的でしっかり使えるアイテムこそ名品だと思います。デザイナーは突き詰めることで、その領域を常に目指しています」

● 橋本 淳 (デザイナー)

イタリアで培った美意識を軸に、日本人の“粋”の精神に基づく細やかなテクニックを駆使し、美しく機能的な服作りを実践。2008年にジュンハシモトを設立し、2011年には表参道の旗艦店、2017年には銀座シックスにもショップをオープンさせる。他業種とのコラボレーションにも積極的。

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