自分が愛情を持って使えることが「名品」の条件
王道からちょっと逸れたものが好き
「腕時計は20本ほど所有していて、毎日付け替えます。例えば、時計好きが多いイタリアのクライアントと会う日は、わざとひとクセあるものを付けて行くと、会話が弾んで場が盛り上がるんです。オーデマ ピゲのロイヤルオークは人気の高いネイビーや白はパスして、あえてグレーの文字盤を選択。ヴァシュロン・コンスタンタンのほうもオーヴァーシーズではなくヒストリーク・アメリカン1921というモデルを選びました。これは僕がクルマ好きなこともあって、運転の際にハンドルを握ったときに文字盤の12の位置が真上にくるように計算されたデザインが素晴らしいなと思って。イタリア人の知人がしているのを見て真似しました(笑)」
世界三大時計と呼ばれる、パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンは、一度は体験しておきたいと10年ほど前から一本ずつ購入。ちなみに取材当日、腕にしていたのはパテック フィリップのゴンドーロでした。時計に関しては、“いいものはいい”というスタンスですが、王道からちょっと逸れたものが好きなよう。これらの高級時計も、スノボの時に付けるG-SHOCKやテニスの時に付けるスウォッチと同じように、日常使いの一本として愛用しています。
「エルメスなのに、アメリカのワークブーツみたいでいいですよね(笑)。このほかにクレープソールのタイプもあり迷いましたが、こちらのゴツいソールを選びました。ラストが細くてパンツの裾とつながって見えるところが好きで、最近はよくスラックスに合わせて履いています。カジュアルだけれど、エレガントさもあるのでスーツにも合わせられるところも気に入っています」
昨年は、2019年からクリエイティブディレクターを務めるJ1北海道コンサドーレ札幌の運営会社の取締役に就任。グッズやユニホームを製作し、売り上げに貢献したことが評価されての抜擢でしたが、それ以降、株主の方々にお会いする機会が増え、最近はスタジアムを訪れる時もジャケットやスーツ姿が多くなったといいます。
自分の感性にフィットしたものには夢中に
「編み込むフェットゥーチェ(革ひも)の幅を広くしただけなのに、ものすごくフレッシュな印象を受けたんです。僕も経験したからわかりますが、リブランディングはなんとなくの感覚ではできない仕事。メゾンの歴史や伝統を丁寧にひも解いて、そこから論理を立てて周りを説得しながら新しいものを作らないといけないのを、当時、若干32歳の彼がやったのは純粋にすごいことだと思います」
「実は、愛用していたホワイトマウンテニアリングのキャップを失くしてしまい、その代用品として出張先の空港で買ったのが最初。エルメスだけれど買いやすい価格だったのと、日本ではあまり見ない形だったので興味本位で手に取ったのが切っ掛けです。帽子は顔と近いので安っぽいのはイヤ。浅めに被れるのが自分的にはすごくしっくりきて、8年ぐらい前から新作を見つけるたびに購入しています。このキャップとスウェットパンツ姿は、アトリエで仕事するときの僕の定番スタイルになっています」
「目の色素が薄いせいか、少しの光でも眩しく感じてしまうので、サングラスはクルマを運転する時の必需品。そのため、いつも似合うものを探しているのですが、イタリア製の多くは、デザインが気に入っても鼻の高さが合わないので諦めていました。でも、これは掛けてみたらバランスが良かったので、その場ですぐに購入。気に入ってその後、2本買い足しました」
相澤さんの口から、サングラスでエルメネジルド ゼニアの名前が出るとは思っていませんでしたが、そういった先入観を持たないのも相澤さんの特徴。2020年にカルフォルニア発のストリートブランド、フィア オブ ゴッドとコラボレーションしてからは、カジュアル度が増してさらに注目しているそうです。
生活スタイルに合った実用性が不可欠
「僕がコラボレーションする時は、まずは相手の形をベースにして、自分の生活スタイルに合わせてアレンジするのが基本。今回は、バリスティックナイロンに代表される、ヘビーな印象のブリーフィングのバッグを軽くしたいという狙いがあって、素材にミリタリーをイメージさせる軽量かつ耐久性のある瓢箪型のキルティングを使いました。トート、ショルダー、リュックの3仕様で、縦でも横でも持てるのは飛行機に乗るとき本当に便利。コンサドーレの仕事で札幌に行く時はもっぱらこれです」
保護パッド付きのPCポケットなど5つのポケットを装備し、機能性も十分。最近、軽井沢に第2のアトリエを設け、山と都会の2拠点を行き来しながら仕事をするようになったのも、こうしたアイデアを生んだ理由なのかもしれません。
「ゼニアを定期的にチェックするようになったのは、デザイナーの友人と知り合ってから。レザーやテキスタイルに関しては、イタリアのブランドは価格と品質のバランスがすごく良いんですよ。ザ・ロウのトートは、二子玉川のストラスブルゴにフラッと入った時に衝動買いしました。ウィメンズだけれど、直感的に良いなと思って。どちらのバッグも黒なのは、僕自身、黒い服を着ることが多いため
「実際、そのほうが長く使うし、僕自身もそういうものを作っていきたいと考えているからでしょうね。2020年春夏から“リポーズウェア”という名前でリラックスウェアのコレクションを始めたのですが、同じ形をシーズンごとに素材を替えて展開しています。ランウェイショーは全体的な構成を決めてから考えるので、演出的には必要だけれど、僕の生活スタイルとは無関係の服も出てきます。そのため、製作時に苦しいと感じることもありますが、リポーズのような定番は自分が着るから作っていてとても楽しいんです」
● 相澤陽介 (デザイナー)
1977年生まれ。多摩美術大学染織科を卒業後、2006年に「ホワイトマウンテニアリング」を始動。これまでに「モンクレール W」「バートン サーティーン」「アディダスオリジナルズ バイ ホワイトマウンテニアリング」など、さまざまなブランドのデザインを手がける。19年からは、北海道コンサドーレ札幌のディレクターにも就任。また、20年春夏より「ラルディーニ バイ ヨウスケ アイザワ」もスタート。その他、多摩美術大学の客員教授も務める。