【検証】サンローランのライダースは、なぜ名作と呼ばれるのか？

皆さんは“ライダース”と聞いて、どんなイメージを頭に思い浮かべるでしょうか？ おそらく普通はその名前通り、ハーレーダビッドソンにまたがった屈強なライダーではなかろうかと。その発想、決して間違いじゃありません、サンローランが手掛ける前までは。

1990年代後半に当時のデザイナーが生み出したライダースは、世界随一のモードブランド名義なだけあって前述のソレとは一線を画す表情で一世を風靡しました。

ライディング中に万が一転倒してしまっても体へのダメージを最小限に留めるための厚くて硬いカーフレザーは、薄くてしなやかなラムスキンに変更。特徴的なジップワークや短いボックス丈はそのままに、シルエットを極力タイトにアップデート。コレクションショーでは、タンクトップ×デニムのイージーライダースタイルではなく、黒いナロータイをしたブロードの白シャツ×黒スラックスにこれを羽織ったモデルがランウェイを闊歩。

要は、これまでテーラードジャケットやタキシードだったところに置き換えられるほどエレガントで艶っぽいことをひと目で示して見せたのです。

そこから20年経ちデザイナーが代わっても、サンローランのライダースは当時と変わらぬスタイリッシュなアイコン性を誇り続けています。レオン本誌でジャケット代わりにライダースを羽織る多感なスタイリングを提唱する際、これぞ大代表と紹介し続けてきたことこそ確固たる証拠といえましょう。

そんな名品の中、2016年にクリエイティブ・ディレクターとなったアンソニー・ヴァカレロ氏が生み出したスウェードのステンカラーブルゾンも含め、今買える3着の狙い目をここにピックアップ。来たる春のおめかしディナーには、あえてジャケットではなくこんなライダースで決めてみるのも脱ブナンな大人の一手といえるのではないでしょうか。

2013年春夏にローンチされ今や定番となった、ラムスキン製のモーターサイクルジャケット。毎シーズン素材を変更したりプリントやスタッズを施してコレクションにリンクしたピースが生み出されていますが、ベースとなるのがこのモデル。コンパクトながらエポレットをはじめとした無骨なディテールは健在。日本だけでも2000着は売れているであろう、大人顔レザーライダースの最高傑作です。

上のダブルに一歩遅れて同年の秋冬にリリースされた、こちらも定番として双璧をなすバンドカラーのレーサージャケット。ムッシュ イヴ・サンローランとも親交のあったローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズが愛用したことから通称“キースレザー”と呼ばれています。コンパクトなシルエットながら最高級のラムスキンで作られているため、体に馴染む着心地も見所です。

裾の両サイドには、シルエットが広がるマチ付きのジップを搭載。バイクに乗るときに突っ張らないための意匠ですが、日常生活でも何かと重宝します。

ニューヨークのマンハッタンを背景に、“都会のマカダム・カウボーイ”をテーマにショーを行った2019年春夏の新作。アンソニー・ヴァカレロ氏がインスパイアされたのは、1969年に公開されたアメリカ映画『真夜中のカウボーイ』。ヨークをはじめとした随所にウェスタンスタイルが感じられる、極めて今季的な一着に仕上がっています。