2019.07.05
世界で日本人だけが香水にお金をかけないってホント!?
いくつか持っていても、有効な使い方を案外知らないのが香水です。世界的にみると、日本は香水後進国。我が国では“無臭”ばかりが取り挙げられますが、世界的には自分の香りを持っているのが当たり前。これからニオイが気になる季節、正しい香水のイロハをフレグランス界の大物に聞いてまいりました。
- CREDIT :
文/T.kawata
欧州では香水を使いこなせて当たり前
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ヨーロッパでは香りと体臭をうまくミックスして自分らしさアピールするのに、香水は欠かせません。香りづけは周囲からもポジティブにとらえられるのです。名刺交換の際にいい香りが漂えば、相手に好印象を与えますし、女性はニオイに敏感ですから、デートでもいい感じの局面に進展するやもしれません。ポジティブに香りを活かして、自分を印象をアピールしない手はないのです。
とはいえ、自分に似合う香水をどう選んで、どう使えばいいかわからない……そんな方のために、香水界の超大物フレデリック・マルさんにお話を伺いました。フレデリックさんは香りのマルチプロデューサーとでも言うべき、香りの世界を追求する唯一無二の存在として知られているお方。これさえ読めば、仕事もプライベートも、香りで新境地が開けるかもしれませんよ。
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自分に似合う香水の探し方
日本の男性は欧米の方に比べて香水をつけるのが上手ではありません。また、香りの知識も経験も少ないようです。どうしたら自分にフィットする香りを見つけられるのでしょう?
フレデリック・マルさん(以下フレデリックさん)
「私は香りを装いと同じと考えています。身につけていて心地よさが感じられなくてはいけません。お腹を凹ませて1日過ごさなくてはいけない洋服は姿勢が悪くなりますよね。一方、的確にカットされたジャケットは、見事にフィットする手袋のようなもの。あなたにとってよい香りは、それと同じです。私のアドバイスとしては、まず香りをつけていただき、それが心地よいかで判断しましょう」。
「また、オフィスとバカンスでは環境が違いますよね。例えば札幌とサントロペ(フランス南部のリゾート)が違うように。シーンに合わせて、暖かい気持ちになれる香りなのか、冷たい気分を味わえる香りなのかを考慮することも重要です」。
「そして、必ず自分で試してみてください。実際に肌につけて、その香りが好きかどうかを確認して、自分がどう思うかが大切です。もちろん、その香りが悦びでなくてはいけません。好きではない香りをつけて過ごすなんて拷問ですから(笑)」。
LEON.JP フランスには香水の文化が根付いています。なかでも香水をつけるのが上手いのはどんな方ですか?
フレデリックさん 「私たちが手掛けるパルファム(香水)は最高のものだと思っています。でも、肌につけたときにフィットしない方もいらっしゃいます。重要なのは、心地よさです。その人に似合わない色があるように、似合わない香りもあるのです。例えば同じニットでも、着る人によって印象はガラリと変わります。それに似ているでしょうか」。
「重要なのは良いマッチングです。人の個性は洋服のサイズのようにSからXLだけではありません。サイズが合うかどうかではなく、個性とマッチするかどうかが問題です。ルックスは個性から生み出されます。香水は必ず個性にマッチするものでなくてはいけません」。
「例えば、退屈な人はベストセラーの香水を買うでしょう。でも、官能的なものが好きな人は、セクシーな魅力を引き出してくれる暖かみのある香りを身につけているでしょうね」。
異性を刺激する香水の使い方
フレデリックさん 「香りは自分を完成させるもので、あなたの外見になにかしらのエッセンスを加えてくれるものです。同時に官能性があって、周囲を魅了する要素もあります。しかし、明確なルールはありません。私は香水を肌につけるのが好きですし、それで誰かを魅了して、ベッドに入ったときにも、その香りは持続しているでしょう。その香りによって過ごす時間が、さらに美しくなるわけです。香りは美しい装飾のようなものです」。
「香水の使い方ですが、服に少しだけ香水をつけても、香りはしっかり拡がります。でも、その場合は肌につけるのとは違い、セクシーな雰囲気が少し失われるかもしれません。凄く効果的に香らせたいなら、髪につけるといいと思います。これは特に女性が取り入れるのに有効です。頭は熱をもっているため、香りが拡がりやすいのです。また、頭皮には油分があるので、持続性も高い。さらに毛先が揺れるたびに、香りがより一層拡がる効果があります。でも、やり過ぎると、髪がパサパサしてしまいますのでご注意を(笑)」。
フレデリック・マル式、”最高のパルファム”の作り方
フレデリックさん 「私にとって偉大なアーティストと仕事をするということは、良い馬に乗るということです。自由に走らせることが重要。彼らの才能をきちんと享受しながら、彼らを信用することが大切です」。
LEON.JP 「エディション ドゥ パルファム(香りの出版社)」をコンセプトにした『フレデリック マル』は、非常にリッチでエレガントな製品です。香りを通じて“ラグジュアリー”という言葉を、フレデリックさんはどう定義しますか?
フレデリックさん 「香水は液体です。偉大なマイスターが手がけているので、ラグジュアリーとは作る“ひとの手”だと思います。オートクチュールができるのは、手のおかげです。クリエイターのエスプリがそれをデザインしている。一流の調香師はそんな手とエスプリの両方を兼ね備えています」。
「凄く高価な天然成分と最新のテクノロジーを使ってパルファムを製作することができる……その液体の一滴一滴がラグジュアリーです。ラグジュアリーとは自由であること。一切の妥協をせずに自由に香水を作れることがラグジュアリーなんです。才能があり、時間があり、そしてお金をかけることができる。偉大なラグジュアリーはエスプリの作業なのです」。
”究極の香り”は、どこまで研ぎ澄ませれば完成品になる?
フレデリックさん 「この質問は好きですね。アーティストにも同じ質問ができると思うんです。絵画を描くときに、いつ止めたらいいのか? 彼らの作品は完璧になることはない。でも、もし彼らの作品が完璧ならば、退屈かもしれない。完璧な人間とは、毎日会いたいと思わないかもしれません。香水も人間と同じで、残しておきたい欠点もある……ちょっと醜いとか、ちょっと下品とか。それを残すことで人間味が残るような気がするんです」。
「今ここに作りかけの香水のサンプルがありますが、ちょっとドライな面があるので、私は好きじゃない。その部分を修正すると、完成品に近づくかもしれません。ですが、ひとつの問題を解決したら、また別の問題が派生する。修正するたびに、その都度嗅いでみて、毎日つけたくなるか、中毒性があるか、きちんと拡散するか、肌の上で持続性があるか、精密性があるか、そして私たちの目標に合っているかを確認します。それが整うと発表のタイミングです。調香師と『ここで完成だね』と、いつも同じタイミングで意見が一致するんです」。
フレデリック・マルさんのアドバイスを元にすれば、あなたもベストな香りに出会えるはず。香りが武器になる季節、最適な香水を見つければ、きっといいことがあるかもしれませんぞ。
● 『フレデリック マル』創業者
フレデリック・マルさん(Frederic Malle)
現代におけるラグジュアリー パルファムの先駆者。1962年、パリ生まれ。パルファン・クリスチャン・ディオール創設者で、「ミスディオール」を作ったセルジュ・エフトレー=ルイシュさんの孫にあたるお方。ルール・ベルトラン・デュポン社勤務時代に、多くの有名調香師と出会い、香りについて造形を深める。その後、フリーのコンサルタントとして高級ブランド数社の香水を手掛け、業界でその名を知られることに。しかし、マスマーケット化する香水市場に疑問を抱いた彼は、真の香水ファンのために、偉大な調香師を集めるクリエーションをプロデュース。それが自身の名を冠し、2000年に誕生したブランド『フレデリック マル』です。ブランドコンセプトは“香りの出版社”。結集した12人の天才調香師が、原料、時間、テクノロジー、予算に制限を設けず、芸術的な感性でフレデリックさんとともに香水を開発しています。
世界を虜にする“究極の香り”がコチラ
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左● 「ビガラード コンサントレ(柑橘の誘惑)」 100ml 3万円/フレデリック マル(フレデリック マル お客様相談室 )