【ピッティ速報】カジュアル化の流れが加速しております
6月14日〜17日にかけて開催された、第102回目のピッティ・イマージネ・ウオモのテーマは「PITTI ISLAND(ピッティ アイランド)」。入口横の建物の壁と会場中央に、間近に迫った夏休みへの憧れを表現したビジュアルが設置され、会場はまるでリゾートのような雰囲気に包まれていました。
そのムードを後押ししたのが気温。ピッティの猛暑はもはや風物詩ですが、今年は会期中の4日間とも最高気温は35℃超で、20時頃まで30℃以上が続くという酷暑。おりからのカジュアル化の流れもあり、上着を着ているピッティ・メンは10人に1人程度で、みなさんリゾート着に近い格好でジェラートを食べながら会場をのんびり散策していました。
ピッティに通うようになって10年が経ちますが、ここまでカジュアルなピッティは初めてで、コロナ禍で人々のムードが激変したのを強く感じました。孔雀的なキメキメの人たちは少数派で、スニーカーやTシャツでテーラードをカジュアルに着こなす人が完全に主流になりましたね。
参加したのは約700ブランドで、コロナ前と比較すると半分の規模。昨年6月の300ブランドと比較すると大幅に回復し、最初の2日半の時点で来場者数は1万1000人を記録。外国人の比率は約4割で、70カ国から3500人のバイヤーが訪れました。
アジアからの来場は相変わらず少なく、日本人は76人、韓国人は61人のみ。最盛期は日本だけで1000人前後が訪れていたので、アジアだけで見ると回復とは程遠い状況です。
ブルネロクチネリ
期間中にはフィレンツェ市内にニューショップもオープン。こちらもルネッサンスの雰囲気が色濃く残る街に溶け込んでいて、とても素敵でした。
ラルディーニ
ヘルノ
ダウンベストとニットのハイブリッドや、上質なウールと機能的なメンブレンの組み合わせなど、素材のハイブリッド提案も目立ちました。
インコテックス
日本にはおそらく入らないと思いますが、オーバーオールなんていう驚愕の攻めのアイテムもありましたよ。
ブリリア
ややベージュがかった白のシャツジャケットとショートパンツの超魅力的なセットアップは、買えるLEONのバイヤーも絶賛していたので、おそらく取り扱うことになるでしょう。
グレンフェル
大きなトレンドの流れは、主要ブランドの多くが出展を見合わせたこともあり、明確にコレと言い切るのは難しいです。素材ではリネンやコットンなどの天然素材と、テック系の機能素材の両方を提案するブランドが目立ちました。
色はブラウンやベージュ、マスタードやイエロー、蛍光イエロー&グリーン、ピンクやターコイズなどのパステル系のカラーが中心で、とくにクラシックなブランドが差し色として蛍光イエロー&グリーンを使うケースが多かったですね。
WP
見覚えのある懐かしいアイテムも多く、イタリアはパニナリ、日本は渋カジとほぼ同時期にアメカジに夢中になっていたのが分かる楽しくためになる展示でした。ちなみにWPが企画するバラクータは、以前展開していた「FOUR CLIMES」というレーベルを2023年春夏から復活させます。
デザイナーはエンジニアド ガーメンツの鈴木大器さん(写真)。いかにも大器さんらしい細部に凝ったクリエーションで、要チェックですよ。通常のレーベルでも、ガンフラップ付のオーバーサイズのターコイズのブルゾンが素敵でした。
ゴアテックス
アン・ドゥムルメステール
「What is Black & White color for you?」という質問に、彼女はこう答えてくれました。
「Light & Shadow」。
白が光で黒が影。展示された30年間のコレクションのほとんどは黒でしたが、黒という色から感じがちな冷たさがないことを不思議に思いましたが、彼女の黒は“人を引き立てるための影”ということなんだと思います。
ウェールズ・ボナー
コペンハーゲン夜の遊び着発のソウルランドは、日本の若い世代に刺さりそうなモダンなコレクションを披露。戦火の最中にあるウクライナのデザイナーを展示したコーナーも印象的でした。早くウクライナの日常が戻ってくることを願っています。
冒頭でも書きましたが、今回の日本人の来場者数は2日半の時点で67名。最盛期には1000人以上が来場し、コロナ前は600名近くが来場していたことを考えると、いささか寂しい状況です。
大きな会社は出張の許可が下りないのは理解できますが、それでも世界はすでに日常に戻っていて、その切り替えがあまりにも遅すぎる印象を受けます。
ピッティと日本は、長年にわたって相思相愛の関係を育んできました。日本人バイヤーは数多のファクトリーブランドを世界的な存在に育て上げ、また同時にピッティで感じたインスピレーションをお店のムードに反映させることで、一緒に成長してきました。メディアもまた然りです。
今ピッティは危機的な状況です。海外ブランドの出展が依然として従来の基準に戻ってきておらず、イタリアの代表的なブランドの多くは、ミラノに大規模な自社ショールームを作り、ピッティ離れが顕著になってきています。
デジタルでもオーダーできるし、これなら来なくてもいいじゃんって思う気持ちも分かります。でも事件は現場で起きているのです。大きなトレンドや新しいイケてるブランドと出会えなくても、行けば何かしらの気づきは必ずあるし、今こそ日本人がピッティを支える時期なのではないかと思うのです。
来年1月にピッティとフィレンツェの街でお会いしましょう!
● 増田海治郎
1972年埼玉県出身。神奈川大学卒業後、雑誌編集者、繊維業界紙などを経て、2013年にフリーランスのファッションジャーナリストとして独立。メンズとウィメンズの両方に精通しており、モード、クラシコ・イタリア、ストリート、アメカジ、古着までをもカバーする。