超レアなヴィンテージTシャツ、僕が大切にしている一枚

常に独自の視点で独自の音楽を生み出していくDJとして世界中で活躍する田中知之（FPM)さん。音楽のみならずファッション、時計、クルマ、グルメとオールジャンルでの博覧強記を駆使した田中流「男の定番」をご紹介する連載です。

CREDIT :: 文／田中知之（FPM）　写真／鈴木泰之（Studio Log）

世界を舞台に活躍するDJ田中知之（FPM)さんが自らの美意識に叶った「男の定番」をご紹介する連載。今回のテーマは……。

■ Theme●「イギー・ポップのヴィンテージTシャツ」

最近はアーティストやデザインによっては、ヴィンテージ市場で2桁万円を超えることも珍しくないヴィンテージのロックTシャツ。そのプリントから当時のアーティストの佇まいだけでなく、時代や文化的背景などの情報が手に入ることがあるのも魅力。僕が以前福岡の古着屋で購入したこのイギー・ポップの珍しいTシャツも、プリントからの情報量が非常に豊富だ。

Front Side

アメリカ生まれのイギーが1‌9‌7‌2年7月15日に「Kings Cross Cinema」という映画館（ライブハウスとして営業する時は「KING SOUND」）を会場に行った、英国での初めてのライブ時に販売された個体のようだ。ウィキペディアによると、ツアーの前年の1971年7月に麻薬依存症が原因で自身のバンド=ザ・ストゥージズを解散したばかりのイギーは、米カンサスシティでかのデヴィッド・ボウイに出会い、彼のマネジメント会社に所属することになり、このライブの招聘につながったようだ。

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Back Side

Tシャツ前面の写真でイギーがはいているシルバーのパンツは、ライブの翌年の1973年にイギー＆ザ・ストゥージズ名義でリリースされたアルバム『ロー・パワー』のジャケットでも見受けられる。このアルバムのプロデューサーにデヴィッド・ボウイの名前がイギーと並んでクレジットされているが、レコーディング前にイギーはボウイのプロデュースを拒否したようで、ボウイも初めての世界ツアー中で忙しかったため、レコーディングはイギーたちだけで終了。

ただ、その稚拙なミックスを良しとしなかった事務所は、再ミックスをボウイに依頼。ツアーの合間に1日だけ時間を作ったボウイが、再トラックダウンを手がけたのだが、酷い録音を結局どうすることもできず、ボーカルとギターをデカくミックスして仕上げるのが精一杯だった。だが、この苦肉の策から生まれたダーティーでラウドなサウンドが、後のパンクロックを生み出したのは今では有名な話。

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実際に元セックス・ピストルズのジョニー・ロットンは『ロー・パワー』をベストアルバムに挙げているし、アルバムを聴けば世界初のパンクロックであることは一聴瞭然。僕はピストルズの産みの親=故マルコム・マクラーレンも、ジョニー・ロットンも、このイギーのライブを観ていたんじゃないかと想像する。とすると、このTシャツはパンクロックの源流がイギリスに伝わった記念すべき夜に発売された大変貴重な一枚だということになる。