2017.09.17
イギリス、イタリア、アメリカ…国によってスーツが違う、は本当か?
人の個性と同じく、実はビジネススーツも国ごとに仕立てやシルエットに大きな違いがあるのです。無論、それには意味があり、それぞれに利点があります。自分の好みやシーンに応じてスーツを選ぶのがスマートなのですよ。
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写真/林 敏一俊(FOREST) 監修・衣装協力/池田哲也 文/川田剛史
クラス感よりセクシーさをアピールするイタリアのスーツ

肩は構築的に見えますが、パッドや芯地は控えめで、とても柔らかな着心地を実現。きれいな女性をものにするためには、やはり見た目で勝負といったイタリア人気質が感じられます。また、素材がしなやかで繊細なものが多いのは、英国に比べ、気候が温暖ということにもよるものでしょう。
池田さんによれば、1980年代のキートンやアットリーニはポケットにフラップもなくノーベントだったとか。それが、現在では、英国的な紳士服の伝統にのっとったディテールを取り入れているものが主流です。これというのも当時に比べ、装いのカジュアル化が進み、紳士服の伝統が失われることへの危機感の表れなのかもしれません。
イタリアスーツの特徴

1. 柔らかな着心地
2.メリハリの利いたシルエット
3. 繊細な素材を使用
クラス感を伝える威厳ある仕立てが肝要なイギリスのスーツ

肩はパッドがしっかり入り、袖付けによる袖山の盛り上がりなど、リーダーとして威厳を存分に発揮するシルエットが英国流の特徴。胸元を前方に盛り上げるイタリアと違い、上着は横方向への張り出し、ボトムスも太さを強調しています。これも、がっしりとした頼もしい人物像(リーダー)を演出する工夫と言えましょう。
もともと礼服や制服などのエッセンスを出自としているのがスーツですから、とりわけイギリスにおいては、貴族階級の威厳を伝えるための工夫なのでしょう。ですが、時代が変わり、現代では威圧感を和らげるような、イタリア風の丸みのある仕立てを取り入れるテーラーも増えています。
イギリススーツの特徴

1. しっかりパッドの入った肩
2. ドロップがユルくストンと落ちる面的なシルエット
3. ボトムも威厳を感じさせる太め
個性を打ち消すボックスシルエットのアメリカのスーツ

かつての英国では支配層の威厳を装いで表現していたわけですが、そもそもは階級社会ではなかった初期のアメリカではその必要がありませんでした。
ですので、こうした主張の控えめなスーツが誕生したのでしょう。実際にこれなら様々な国からやってくる人に合いますし、寒冷の季節にはベストをインに着るなど、広大な国のいたるところで、使うことができたようです。
1990年代半ばごろから、アメリカ的なスーツは徐々に少なくなり、現代では英国とイタリアの要素を併せ持ったようなスーツが増えているのが実情です。
アメリカスーツの特徴

1. ナチュラルショルダー
2. しぼりのないウエスト
3. 全体にボックスシルエット
しかし、ビジネスシーンではスーツが人の印象を左右するのは現在も紛れもない事実です。会議や商談にTシャツで参加できる業界も増えてはいますが、その一方でやはりチームをまとめたり、会社をまとめる立場の方にはスーツが役立ってくれるのです。
過去の叡智から現在のようなカタチに洗練され進化したスーツですから、今後も消え行くことはありません。むしろ、デキるビジネスマンの皆様でしたら、スーツの力にあやかってバリバリお仕事をしていただくのがよいかと。こんな事例を思いながら、自分に似合う最善の一着を見つけてみるのもよいのではないでしょうか。
● 池田哲也 / 服飾評論家
正統派の紳士服から、カジュアルな古着まで、多岐にわたる服飾の知識を持つ人物。かつては三越ローマ支局に勤務し、イタリアのファッション業界、サルトリア関係者などに強力なネットワークを有する。現在は服飾評論に加え、東京・森下でイタリア料理店「ベッラ ナポリ」を経営し、ピザ職人としての顔も持つ。