2017.10.04
スポーツウエアブランドは“現代のモード”か?
ファッションのカジュアル化が進む中で、年々注目を集めるのがパーカやスニーカーなどのスポーツウエア。信頼性のある技術力に加えて、高いデザイン性を手に入れたそれらのブランドこそ、モード=最先端なのかも知れない。
- CREDIT :
写真/鈴木泰之(Studio Log) 取材・文/川田剛史
後にヘビーデューティーと呼ばれるようになるこのスタイルは、やがてファッションが成熟するにつれ、”当たり前”のこと、つまりファッションであることの意識は薄くなっていたように思われる。
ところがここ数年であらためてスポーツ&アウトドアウエアをファッションとして楽しむ傾向が再熱しつつある。
著名デザイナーとスポーツブランドの共同開発が台頭
スタイリストから見たいまのスポーツウエア
ストリートの洗礼を受けたデザイナーがファッションの最前線に
「著名メゾンのコレクションを任されるような第一線で活躍するデザイナーのなかに、日本のストリートカルチャーを発信する人たちから影響を受けたと公言する人が現われています」
ストリートカルチャーにとってはスニーカーをはじめとするスポーツアイテムは欠かせない存在。確かに、最新のテクニカルな素材を用い、より自分たちの感性に沿ったスポーツウエアを作りたいと思うのは、ストリートカルチャーの影響を受けたデザイナーなら自然なことだろう。そんな新しい感性と技術の融合から生まれるスポーツウエアが、デザイン面でもスタイルアップしてくるのは自然な流れだ。
「また、いまや大人の装いがショートパンツやジャージ姿でもOKとされるような社会環境になったことも大きいのではないでしょうか。かつての富裕層は仕立ての良いスーツを着こなすのをよしとしてきましたよね。でもストリートファッションを経験した、新世代の富裕層は、一見装いを気にしていない雰囲気を演出しながら、最新のスポーツウエアにリシャールミルのような高級時計を合わせ、フェラーリのような高級車に乗るわけです」
デザイン性の高さは現代のプロダクトに必須
現在のスポーツウエアとファッションの近しい関係について聞くと、次のような答えが。
「世の中全体のデザインの水準が向上したことによるものではないでしょうか。いろいろな分野でデザインがキーになっているのです。それによってスポーツウエアでもデザイナーが起用されているのでしょう。さらに言えば、コラボレーションによって生まれたデザインは、うまくインライン(通常の製品)にも吸収できています」とのこと。
スポーツウエアは“モード”になった?
「モードとスポーツは影響を受けあっていますが、イコールにはならないと思います。そもそもの成り立ちを言えば、モードは時代を捉えながらも大多数とは違うものを求める天邪鬼的な解釈をするもの。対してスポーツウエアは本来アスリートのためのものですから。モードのなかでも頂点のオートクチュールとなれば、1年365日のうちたった2時間だけのパーティーで着られればいい手仕事を駆使したウェアもあるわけです。対してスポーツウエアがいくら素晴らしくとも、そうしたシーンは想定されていませんよね。だからイコールとは言いづらい」
注目はナイキラボACG
坂田はコレクションについて「良質で想像もつかないようなものを提案している」と高く評価する。
紳士服の歴史から見たスポーツウエア
「150年前はシルクハットをかぶって、あれを着てこれを付けてと厳格なドレスコードがありました。当時でいえば3ピースのスーツですらカジュアルウエアだったくらいですから。そんな3ピースからベストがなくなり、現代のビジネススーツの基本である2ピースへの変化の流れすらもカジュアル化のひとつなんですよね。そう考えると、スポーツウエアが普段着のなかに入り込んでくるのは当然といえば当然。今日僕が着ているポロシャツだって、テニスウエアだったわけですからね」」
白いパタゴニアのウエアの意味
「雪山で事故が発生した時、白いウエアは周囲と見分けがつかなくなります。命にかかわることを考えれば、山で着るウエアには分かりやすい色が使われるのが当然で、白はタブー視されていました。つまり、街で着てほしいという考えが浸透したからこそ、パタゴニアが白いウエアを提案したと言えます。これはファッションへの歩み寄りだったのか、挑戦だったのか、わかりませんが、とにかく新しいと感じました。ほかにもアークテリクス(※3)からクリームベージュのウエアが発売されたのも同じことだと思います」。
NYのファッション関係者も今、パタゴニアを愛用している
アークテリクスが話題になり始めたころ、当時の価格はアウトドアブランドとしては飛びぬけて高額だった。しかし、2001年にビームスではアークテリクスとの小売り業界初となる別注を成功させている。革新的な取り組みを好む企業として知られるアークテリクスだが、なかでもアーバンウェアとして開発されたアークテリクス ヴェイランスは土井地も高く評価する。実際にファッション感度の高い人ほど好評で、海外の著名百貨店でもファッションアイテムとして取り扱われているそうだ。
ブランドの意識が柔軟になった
「山に行く人だけじゃなく、より広いターゲットを各社が探るようになってきました。ザ・ノース・フェイスやグラミチといったブランドの考え方が変わったことで、私たちへの対応も柔軟になり、共同開発のチャンスが増えつつあることも要因ですね」。
土井地が一例に上げたのは1982年にカリフォルニアでロッククライマーにより創設されたグラミチ。もとはロッククライミングの際の開脚など、ダイナミックな動きに対応したディテールがブランドの特徴だ。現在ビームスではこのブランドのクライミングパンツをジャケットとうまくコーディネイトできる細身のテーパードモデルに別注し展開、着回しに重宝する汎用性の高さはファッション好きや関係者にも好評だそうだ。
「アウトドアが野暮ったい服から、いまはスタイリッシュでモテる服に様変わりしました。シンプルなので上品に見えるし、クオリティも高い。過度にファッションを意識している風に感じさせることもありません」
確かに、上質で快適、LEONが推奨するようなラグスポ(ラグジュアリースポーツ)にミックスするにはうってつけと言えそうだ。今後はもっと着やすく、もっとお洒落なスポーツウエアへの期待が高まることだろう。こうした時代の気分をブランドやファッションデザイナーたちが見過ごしてはいないのは、現状を見れば明らかだ。
コレクションブランド、人気ショップ、スポーツ・アウトドア企業が一つになって魅力ある製品を開発する。この分野はいま最もホットで、ファッションの最先端といえるカテゴリーに成長しつつあることは間違いない。これまでダンディズムを追求してきた大人の男性諸氏も、ぜひ最先端のスポーツウエアを手に入れて、流行の最前線に立ってみてはいかがだろうか?(文中敬称略)
● 坂井辰翁さん / スタイリスト
1976年岐阜県生まれ。2004年よりフリーランススタイリストとして独立。LEONをはじめ、メンズファッション誌、広告、アーティスト等のスタイリストとして活躍中。ファッション以外にも、クルマ、インテリアなどライフスタイル全般のスタイリングを得意とする。
● 坂田真彦さん / アーカイブ&スタイル代表
1970年和歌山県生まれ。高校卒業と同時に上京し、バンタンデザイン研究所に入学。卒業後、いくつかのコレクションブランドを渡り歩く。2004年にはデザインスタジオ「アーカイブ&スタイル」を設立し、06年から13年までは青山でヴィンテージショップのオーナーでもあった。現在は、複数の人気ブランドのディレクションを手掛ける。国内外問わず、オリジナルの生地開発からプロダクトデザイン、空間ディレクションまで幅広く活躍中。
● 土井地 博さん / ビームス コミュニケーションディレクター
大阪のショップスタッフを経て、メンズPR担当として上京。PR業務を行いつつビームスが実施する各コラボレーション事業やイベントの窓口として担当。洋服だけではなく周年事業やFUJI ROCK FESTIVALをはじめとした音楽イベント、アートイベント等を手掛ける中心人物として長年業務を行う。現在はビームス グループ全体の宣伝・販促を統括するディレクターでもあり、社内外における「ビームスの何でも屋さん」というネーミングを持つ仕掛人。土井地 博 / Hiroshi Doiji(hiroshi_doiji)•Instagram photos and videos