これは日本に限った話ではない。世界規模で展開するファッションブランドも同様、新しい戦略に沿った変化が求められている。
その変化の時代を牽引するのがLVMHやケリングといった巨大グループのブランドたち。一時期はファストファッションなどに押され気味だったこれらブランドは、デザインの刷新はもちろん、デジタルコミュニケーションを駆使した圧倒的規模で、力強く飛躍期に転じつつある。
一方でそれらから“二匹目のドジョウ”が生まれるかというと、そう簡単に行かないのが現代のファッションビジネスの難しいところだ。時代の大きな流れはありながらも、もはや同じ流れを同じブランドや同じ着こなしで共有するというトレンド消費は存在し難い。
それをマーケットの成熟というかはさておき、ファッションに消費者が求めるものがトレンドだけによらない何か、に移行していることもまた確かだ。
そこで存在感を示し始めているのが前述のようなグループを形成しない独立系ブランドの動向。特にデザイナー主導ではない「ファミリー」の経営によるブランドは、この混乱期に乗じて自分たちの本来のあるべき姿に回帰しつつあり、それは結果、強固なアイデンティティを示すことに成功しつつある。
ミラノで開催された、メンズ・レディスの合同ショーではその変化と決意が強く見られた。
大きな変化としてはまず以下(1)のように、メンズ・レディスのデザイナーをそれぞれ新しい専任のデザイナーに振り分けた。メンズはレディ・トゥ・ウェアのデザイン・ディレクターとしてギョーム・メイアン、ウィメンズはクリエイティブ・ディレクターという肩書きでポール・アンドリューが着任している。
1) 新デザイナーによるトータルコレクション
2) エレガントで上質感ある色使い
3) 高いクオリティに裏打ちされた贅沢な素材使い
4) 控えめなデザインで表現する時代性
5) 効果的なアイコンの使い方
などといったところか。
(2)に関して。プレスリリースには「一番大事にしたのはカラーパレットです。メルローレッド、マスタードイエロー、パラキートグリーン、深いヴァチカンブルーなど様々な発色のよいカラーをヌードやブラッシュカラーとミックスしています」とあり、それらはブランドの発祥の地であるフィレンツェを想起させる。
ストリートやスポーツといったアクティブでテクノロジーを伴ったワードがトレンドとなっているなかで、この落ち着いたイタリアならではの色選択は、他のブランドと呉越同舟ではない、自分たち“らしさ”の標榜とも見てとれる。メンズ・ウィメンズともに同じカラーパレットをベースに置いているがどちらの発色も素晴らしいもので、この辺りはさすがフィレンツェ発祥のブランドとしての面目躍如といったところか。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/最小限のデザインながらも、カラーパレットでエレガンスを、着丈でモード感を演出
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/このルックも控えめながら、ムートンジャケットの高いクオリティが全体を引き締めている。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/マルチカラーを用いた唯一のルック。ただしこのニットの質感の高さといったら。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/コートのインナーにはノースリーブのキルティングコートをレイヤード。アイテムのひとつひとつでなく、コーディネートのアイデアも垣間見られる。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/オーバーサイズのドンキー・コートもまた、クラシックとモダンを併せ持った絶妙なアイテム。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/最小限のデザインながらも、カラーパレットでエレガンスを、着丈でモード感を演出
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/このルックも控えめながら、ムートンジャケットの高いクオリティが全体を引き締めている。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/マルチカラーを用いた唯一のルック。ただしこのニットの質感の高さといったら。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/コートのインナーにはノースリーブのキルティングコートをレイヤード。アイテムのひとつひとつでなく、コーディネートのアイデアも垣間見られる。
サルヴァトーレ フェラガモ2018AWキールックより/オーバーサイズのドンキー・コートもまた、クラシックとモダンを併せ持った絶妙なアイテム。
ちなみに“華美にならないように”というのは決して地味という意味ではなく、むしろエレガントに、というニュアンス。特にフェラガモにとってはイタリアン・シックこそがアイデンティティの一部のはず。この視点から見てもカラーパレット同様に、原点回帰ととれなくもない。
フェラガモは確かにモードのエッセンスを色濃くもったブランドではあるが、同時にファミリーの伝統とモノ作りへのこだわりというクラシックな一面も併せもつ、イタリアらしいブランドでもある。ギヨームもそこは強く意識していて「サルヴァトーレ フェラガモとはどうあるべきか、を常に最優先に考えた」と話している。
そして気になったのがガンチーニの存在感に負けないインパクトを遺したバッグのラインナップ。とくにいくつかのルックで使用されていた下の写真のボストンバッグは上質なサドルカーフの他、オーストリッチでも展開され、様々なルックで使用されていた。聞けばデイリーに使える小ぶりなサイズの展開もあるようで、フェラガモのアイコニックピースとなる可能性も示唆している。
激変するファッションの世界で、多数を横目に自分たちの道を歩くことは判断の難しいところ。けれどもそれができるのは、オウンリスクでジャッジができる一族経営によるブランドならでは。むしろこういう“個性”こそが一族経営によるブランドの魅力であり、本来ファッションがもつべき楽しさだ。
気になるのはこれら商品の価格帯。相当のクオリティの素材を投入したコレクションゆえ、高額商品のオンパレードになってしまうのではないか…。いくつかのアイテムの購入を本気で検討している筆者としては、そこだけはカジュアルにと願っているのだが。