2018.07.11
「ヘルノ」が次世代イタリアブランドのベンチマークである理由
今年創業70周年を迎えた「ヘルノ」が改めて注目されている。ファッション業界が大転換期を迎えているなか、メイド・イン・イタリーに拘るヘルノが、なぜ時代に適合でき、さらに躍進できているのかを考える。
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取材・文/前田陽一郎(LEON.JP)
「ヘルノ」の「ラミナー(Laminar)」シリーズは、防水耐久性、防風性、透湿性のうえに軽量であるという最先端ファブリックを用いた高機能ラインとして高い人気を誇っている。この「ラミナー」製品のインライニングに縫い付けられたタグには、上記のような表記が確認できる。
サルトはイタリア語で職人を意味し、エンジニアは英語で技術を意味する。興味深いのはここでヘルノは“SARTORIAL”に “ENGINEERING”という言葉を続けた点だ。辞書を開くと “ENGINEERING”とはそれが科学技術も含めた生産技術を指す言葉であることがわかる。つまりSARTORIAL ENGINEERINGとは、イタリアの職人技に則った最新技術を意味している。
ここに「ヘルノ」ならではのモノ作りへの姿勢が伺える。
1) ハイテクファブリックのいち早い導入
2) 職人技術とハイテク生産技術の統合
3) エシカルでサスティナブルな企業姿勢の表明
4) オケージョン・ファッションとピュア・ファッションの認識
こうして挙げていくと、どれも今では当たり前とされるようなキーワードが並ぶように見えるが、これらの施策を絶妙なタイミングで展開できていることに「ヘルノ」の強さがある。
1949年メンズのファーストコレクション
1949年メンズのファーストコレクション
1960年秋冬のウィメンズコレクション
1963年春夏のウィメンズコレクション
1964年春夏のメンズコレクション
1965年秋冬のウィメンズコレクション
1965年秋冬のコレクション
1965年春夏のウィメンズコレクション
1967年秋冬のメンズコレクション
1967年春夏のウィメンズコレクション
1968年秋冬のウィメンズコレクション
1970年秋冬のメンズコレクション
1970年秋冬のメンズコレクション
1970年秋冬のウィメンズコレクション
1970年春夏のメンズコレクション
1970年春夏のメンズコレクション
1976年秋冬のウィメンズコレクション
1980年秋冬のメンズコレクション
1980年秋冬のメンズコレクション
1980年秋冬のウィメンズコレクション
1980年秋冬のウィメンズコレクション
1981年秋冬コレクション
1982年秋冬コレクション
1983年春夏のメンズコレクション
1983年春夏のウィメンズコレクション
1988年春夏のメンズコレクション
1989年秋冬コレクション
1995−96年秋冬コレクション
1949年メンズのファーストコレクション
1949年メンズのファーストコレクション
1960年秋冬のウィメンズコレクション
1963年春夏のウィメンズコレクション
1964年春夏のメンズコレクション
1965年秋冬のウィメンズコレクション
1965年秋冬のコレクション
1965年春夏のウィメンズコレクション
1967年秋冬のメンズコレクション
1967年春夏のウィメンズコレクション
1968年秋冬のウィメンズコレクション
1970年秋冬のメンズコレクション
1970年秋冬のメンズコレクション
1970年秋冬のウィメンズコレクション
1970年春夏のメンズコレクション
1970年春夏のメンズコレクション
1976年秋冬のウィメンズコレクション
1980年秋冬のメンズコレクション
1980年秋冬のメンズコレクション
1980年秋冬のウィメンズコレクション
1980年秋冬のウィメンズコレクション
1981年秋冬コレクション
1982年秋冬コレクション
1983年春夏のメンズコレクション
1983年春夏のウィメンズコレクション
1988年春夏のメンズコレクション
1989年秋冬コレクション
1995−96年秋冬コレクション
5年ほど前のピッティ・イマージネ・ウォモ。クラシコ・イタリアを代表する老舗ブランドがブースを連ねるメイン・パビリオン内の「ヘルノ」ブースでは時折‘バンッ’という鈍い音が響いていた。なんとそれはバットで試作品を殴るというパフォーマンスだった。クラシックなイタリアンスタイルのスーツで身を包んだブランド関係者やバイヤーが行き交う中でのこのパフォーマンスはあまりにも異質に映ったものだ。
これは「ヘルノ」が開発したオートバイ・ライダーのためのエアバッグ内蔵ジャケットの試作品のデモンストレーションだったのだが、そのインパクトはもちろんながら、そもそも上質なコートブランドとして知られる(2007年にスタートする超軽量パッカブルダウンウエアはすでに世界でも人気商品となっていたが)「ヘルノ」が、テクノロジーを前面に押し出した製品作りに舵を切ったことそのものに驚きがあった。
ファッションのトレンドがストリート&スポーツへと急速に展開し、その流れがもはや必然とまで考えられるようになりつつある今ならともかく、まだ一部で囁かれ始めていたばかりの“ノームコア”への流れは一時のトレンドと見る節もあったし、この頃のピッティの老舗スーツブランドのトレンドが“クラシック回帰”だったことを見ても、当時の「ヘルノ」がいかに特殊だったかは想像いただけると思う。
とはいえ代表であり、改革者でもあるクラウディオ・マレンツィが、ハイテク信奉者でも利益追求型のビジネスピープルでもないことは彼の活動でも明らかだ。
これらはすべて海外、とりわけアメリカのラグジュアリーマーケットで一流のブランドとしての地位を確立するには必然でもあるが、何よりクラウディオ・マレンツィが考える“ニューラグジュアリー”への回答と「メイド・イン・イタリー」の新たな付加価値のための施策と見てとれる。
オケージョン・ファッションとはその名のとおりに場所や目的、時間や天候に応じた生活の一部としてのファッションを指す。創業地であるマジョーレ湖周辺は高温多湿の地域で、そのために高品質なレインコートが必要だったことが「ヘルノ」の礎であるように、「ヘルノ」はそもそも生活のための高品質な洋服を提供するライフスタイル・ウエア・ブランドである。そういう意味では世界的なヒットを記録したライトウェイトダウンも、ダブルフェイスのカシミアコートも、「ラミナー」のそれぞれのラインナップもすべてデザインは最小限に抑えられ、どのような洋服、どのような場所でも馴染みやすい配慮がなされている。
とはいえファッションとはオケージョンによらず、純粋にデザインそのものを楽しみたいという側面も併せもつもの。コンテンポラリーアートに情熱を注ぐクラウディオ・マレンツィ代表が自社の製品に、オケージョンへの対応だけでなく、夢や美を反映させようとするのは当然のことだろう。こうして誕生したウィメンスの「Signature」コレクションやカルロ・ヴォルビ、MILANO140といった若手デザイナーとのコラボレーションラインであるメンズの「HERNO UNTITLED」ラインに見られるのは、いつ・誰が・どこで・何のために着るという設定から解き放たれた純粋にファッションデザインの可能性への施策だ。
レオポルダ駅で開催された「ヘルノ」誕生70周年イベント 『L.I.B.R.A.R.Y.』。 「Let Imagination Break Rules And Reveal Yourself(イマジネーションをもって常識を破り、本当の自分を曝け出せ)」の略。全長 100 メートル、高さ 8 メートルという規模
1950 年代末より、カシミヤコートの製造も手がけるようになり、その後、高い評価を得ることとなるダブルフェイスのコートが生まれた
ジュゼッペ・、マレンツィからクラウディオ・マレンツィへ乗り継がれたアルファロメオ・ジュリエッタスパイダー。
当時のオフィスで使われた家具や、古い写真などが展示された。瓶の中に入ったカラフルなものはすべてマッチ。ジュゼッペ氏は世界中を回りながら、立ち寄ったお店のマッチを持ち帰り、収集していたそう
「HERNO」の名前は創業地の側を流れるエルノ(ERNO)川からとられている。”水”はヘルノにとって非常に重要なファクターだそう。
インスタレーション後半ではまるで研究室のような縫製工場が。
フィレンツェのポリモーダと大阪文化服装学院の生徒たちの作品も展示。左の機械は襟のパーツを圧着するために開発されたもの。
「ウォーター・エコーズ(Water Echoes)」と名付けられた、Herno ブランドを象徴する要素「水」を想起させるインスタレーション。スタジオ・アズーロがデザインしたもの。写真と音が、場所と時間の概念に呼応し、アーティスティックな世界を作り出す。
レオポルダ駅で開催された「ヘルノ」誕生70周年イベント 『L.I.B.R.A.R.Y.』。 「Let Imagination Break Rules And Reveal Yourself(イマジネーションをもって常識を破り、本当の自分を曝け出せ)」の略。全長 100 メートル、高さ 8 メートルという規模
1950 年代末より、カシミヤコートの製造も手がけるようになり、その後、高い評価を得ることとなるダブルフェイスのコートが生まれた
ジュゼッペ・、マレンツィからクラウディオ・マレンツィへ乗り継がれたアルファロメオ・ジュリエッタスパイダー。
当時のオフィスで使われた家具や、古い写真などが展示された。瓶の中に入ったカラフルなものはすべてマッチ。ジュゼッペ氏は世界中を回りながら、立ち寄ったお店のマッチを持ち帰り、収集していたそう
「HERNO」の名前は創業地の側を流れるエルノ(ERNO)川からとられている。”水”はヘルノにとって非常に重要なファクターだそう。
インスタレーション後半ではまるで研究室のような縫製工場が。
フィレンツェのポリモーダと大阪文化服装学院の生徒たちの作品も展示。左の機械は襟のパーツを圧着するために開発されたもの。
「ウォーター・エコーズ(Water Echoes)」と名付けられた、Herno ブランドを象徴する要素「水」を想起させるインスタレーション。スタジオ・アズーロがデザインしたもの。写真と音が、場所と時間の概念に呼応し、アーティスティックな世界を作り出す。
と、このインスタレーションの最後にクラウディ・マレンツィは書いている。
ファッション業界の大転換期、「ヘルノ」のニューラグジュアリーはひとつのベンチマークとなるはずだ。