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2018.08.20

世界中が夢中になるSupreme(シュプリーム)の謎

ラグジュアリーとストリートが互いに影響し合っている昨今のファッションシーン。その現象を象徴する存在のひとつが「シュプリーム」ではないでしょうか。なぜ、誰もがこのブランドの魅力に引き込まれるのか。その理由を考えてみました。

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文/村上 要(WWD JAPAN.com) 編集/長谷川茂雄 

シュプリーム 写真:Backgrid/アフロ
写真:Backgrid/アフロ

いまやラグジュアリーが恋い焦がれる存在へと成長

「シュプリーム」とは、つくづく稀有なブランドだ。
 
「パレス スケートボード」や「ノア」など、「シュプリーム」出身者の多くが、ライバルになり得るストリートブランドを立ち上げているにもかかわらず存在感は揺らがないし、「ルイ・ヴィトン」とのコラボレーション以降はラグジュアリーのファンさえ注目する存在に。

結果、ブランド価値はさらに増した印象だ。その証拠にアメリカファッション協議会(CFDA)は今年、普段ならデザイナーズブランドを称えるメンズウエア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーに「シュプリーム」創業者のジェームス・ジェビアを選定し、彼の功績を称えている。今改めてラグジュアリーを中心にファッション業界は、「シュプリーム」に夢中だ。
中央が「シュプリーム」創業者のジェームス・ジェビア。ストリートとラグジュアリーの垣根を取り払った“時代の先導者”といってもいい。 写真:Shutterstock/アフロ
中央が「シュプリーム」創業者のジェームス・ジェビア。ストリートとラグジュアリーの垣根を取り払った“時代の先導者”といってもいい。 写真:Shutterstock/アフロ
ではなぜ「シュプリーム」は、ラグジュアリーさえ注目するストリートという、前人未到の頂点に上り詰めることができたのだろう? 魅力的なコラボレーションの数々は最たる理由のひとつだろうが、そもそも「シュプリーム」というブランド自体に価値がなければ、コラボのパートナーは見つからないはずだ。

多くのブランドがコラボしたいと恋い焦がれる存在。なぜ「シュプリーム」はそんなブランドであり続けられるのか? 
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2017−18秋冬で発表された「ルイ・ヴィトン」と「シュプリーム」のコラボレーション。ルックブックは、マーク・ゴンザレスやジェイソン・ディルといった伝説のスケーターがモデルとなった。「シュプリーム」公式インスタグラムから。
ラグジュアリーとストリートの垣根が崩壊した今改めて考えると、「シュプリーム」はさまざまな面、特にマーケティングとプロモーションにおいて、極めて先進的だったことがわかる。「シュプリーム」にとっては創業の1994年当時から変わらない“当たり前”を、業界は今さらこぞって真似し、取り入れようとしているくらいだ。

まずおなじみのボックスロゴも、今を思えば現代的な経緯で誕生したものだ。これは創業者のジェームズがアメリカの女性アーティスト、バーバラ・クルーガーのパロディアートをまとめた書籍内のデザインをさらにパロったものとされるが、この手法は今、数多くのラグジュアリー・ブランドが注目する動きだ。
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セレブリティのなかでもあらゆるトレンドの火種となるジャスティン・ビーバー。彼もまた「シュプリーム」の愛好者だ。 写真:The Mega Agency/アフロ
例えば「フェンディ」は2018-19年秋冬のウィメンズ・コレクションで、「フィラ」のロゴをパロったスコットランド出身のアーティスト、ヘイ・ライリーの作品を取り入れ、まるで「フェンディ」が「フィラ」とコラボしたかのようなプルオーバーやニットを発表した。

「グッチ」は数年前からGGロゴを無断で使いグラフィティを描き続けてきたアーティスト、グッチ ゴーストと正式にタッグを組み、今年はニューヨークのハーレムでやはり「グッチ」のフェイクを作り続けてきたダッパー・ダンとも正式にコラボレーションした。

インスタグラムが普及した今は、さまざまなクリエイターがブランドロゴをパロった(オマージュを捧げた?)アートワークに取り組み、その本家本元が彼らに逆アプローチするなど、オマージュとパロディ、本物と偽物、海賊版と模造品などの境界線を行ったり来たりのクリエイションが、人々、特に既成概念にとらわれないアーティストやストリートの高感度層を惹きつけている。

「シュプリーム」のロゴは、そんなムーブメントの到来を20年以上も前から予言しているかのようだ。
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「シュプリーム」と「ルイ・ヴィトン」のコラボは、感度の高いクリエイターやアーティストに歓迎された。こちらは、マドンナのプライベートショット。 写真:Backgrid/アフロ
また、こうして生まれた「ロゴ」ステッカーを街中にペタペタと貼り付け、その存在を知らしめる手法も、元祖中の元祖だ。「シュプリーム」ははるか昔、当時一番イケていた「カルバン・クライン ジーンズ」の巨大なモノクロポスターの上に、真っ赤なステッカーを貼り付けたという。

メディアではなく、街で、ゲリラのようなプロモーションを仕掛ける。これがバズを生んだ。これは今、「ロエベ」や「ベルルッティ」「サンローラン」「アクネ ストゥディオズ」など、あらゆるブランドが取り入れるゲリラ的プロモーションにも通じている。

ある日突然、イケてる街の一角に不思議なポスターが何枚も現れ、その現象がインスタ経由でバズっていくーー。多くのブランドが今、「ワイルド・ポスティング」と呼んでいるそんな手法の先駆者も、「シュプリーム」だ。

そして、数量限定の商品を発売直前に告知し、バズらせ、当日は長い行列を生み出すことでブランドへの憧れを高める“ドロップ”という販売方法もまた、「シュプリーム」から有名になったものだ。
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「シュプリーム」のお店の前に行列ができるのは、もはや恒例(?)。それは日本だけでなく、海外でも同様だ。ロンドンの旗艦店の前にも、2011年のオープン時に長蛇の列ができた。 写真:Alamy/アフロ
“ドロップ”は今年に入ってから、業界では「立ち上がり」と呼ばれる春と秋の伝統的な一斉発売、ショーを見てすぐに買う「シー・ナウ・バイ・ナウ(See Now Buy Now)」を補完する第3の手法として注目されるようになった。今年は「モンクレール」から「トッズ」まで、“ドロップ”に挑戦している。

あくまでストリート目線だった「シュプリーム」の戦略に、ストリート化が進むラグジュアリーが影響を受け、学び、取り入れようとしている。これは「シュプリーム」が長年築き上げてきたブレることのない戦略が、ストリートでは今も昔も効果的であり続けていることを意味している。

だからこそラグジュアリーは「シュプリーム」を学び、「シュプリーム」は今なおスケーターやアーティストに支持され、絶えず若い世代が次世代のファンに成長している。
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8月13日発行のアメリカの日刊紙「ニューヨーク・ポスト」では、表紙と裏表紙に「シュプリーム」の広告が掲載され、たちまち売り切れ店が続出。こちらも瞬時にSNSで拡散されバズを生んだ。「ニューヨーク・ポスト」公式サイトから。
2018年8月13日発行のアメリカの日刊紙「ニューヨーク・ポスト」では、表紙と裏表紙に「シュプリーム」の広告が掲載され、たちまち売り切れ店が続出。こちらも瞬時にSNSで拡散されバズを生んだ。「ニューヨーク・ポスト」公式サイトから。
「WWDジャパン」の編集部には「シュプリーム」のニュースばかりを追い続け、絶えずアップし続ける記者がいる。編集長としては、「またか……」とも思わなくもないが(苦笑)、彼の記事はやはり多くの人に読まれ、ソーシャル経由で拡散され、反響が反響を呼んでいる。

昔はアーティストやスケートキッズの口コミ、そして今は、加えてSNS。広告出稿や大規模なイベントで金を撒き散らすのではなく、勝手に広まり、ミレニアルズにリーチしている「シュプリーム」は、最強だ。

参考にしたい、可能ならコラボレーションして恩恵に預かりたいと願うラグジュアリー・ブランドが増えるのは、当然のことだろう。

● 村上 要(むらかみ・かなめ)

WWD JAPAN.com編集長。1977年静岡県生まれ。東北大学卒業後、静岡新聞社に入社。退職後、ニューヨークの州立ファッション工科大学(FIT)に進学し、ファッションを学ぶ。現地での編集職を経て、INFASパブリケーションズに入社。17年4月から現職。

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