清少納言はかつてこのように書いています。
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる」
太陽が山の向こうに上り、少しずつ明るくなっていく空に紫がかった雲がすっと一片かかっている、美しい春の夜明けの描写です。この後はご存知のように「夏は夜」「秋は夕暮れ」「冬はつとめて(早朝)」と続いていくわけですが、LEON.JP食いしん坊担当、自称暴食納言としては断然「春はやきとり」をおすすめしたい。
なぜか。串を片手につまめる軽快さが春のウキウキとした気分にマッチするし、なにより白木のカウンターのすがすがしさも春らしい。鶏の淡い旨さは、こっくりと濃い冬の味に飽きた春の舌に新鮮な感動をもたらします。
そしてこの「春はやきとり」。断然デートにおすすめです。焼鳥屋はカウンタースタイルが主ですが、この互いの顔を直視しない“横並び”が過度な緊張を招かず、また互いのひざやひじがそっと触れ合うことでさりげなく距離を詰めることができるから。「それは鮨屋も同じだろう」ですって? はい、それはそうですが、同じ一流のクオリティを求めても、鮨とやきとりでは客単価がおよそ3分の1ほどになるでしょう。つまり、コスパ良。
「春はやきとり。やうやう白くなりゆくささみの、芯は桃色に残りて、サビのちょんと乗るこそをかしけれ」
「夏は鮨」「秋は焼肉」「冬は鍋」と続けたいところですが、それはまたいつかの機会に譲るとしまして、今回ご紹介するは今春2月にオープンしたばかりで、はや予約が取りにくい人気店「鍈輝」です。
鍈と輝、ふた文字が語るそれぞれのDNA
この「鳥鍈」とは、田園調布の駅前にあり、ミスターこと長嶋茂雄さんが通っていることで有名な焼鳥店。いまは弟さんが二代目として店を継いでいるそうですが、小野田さんはこの店を手伝うことから焼鳥でのキャリアをスタートさせたのだとか。
もうネタバレしちゃおう。この「輝」とは、日本でもっとも予約のとれない焼鳥店「鳥しき」の主人、池川義輝さんの名前からとったひと文字。つまり小野寺さんは「鳥しき」で修業をし、「鳥しき」2号店である「鳥かど」で焼き手を務めていた人物でもありました。ゆえに、小野寺さんの焼鳥とは、実家である「鳥鍈」での経験をベースに、「鳥しき」での修業で得た大胆な火入れや稀少部位へのあくなき追及が魅力というわけ。
気になるお値段は串1本が300~400円見当だそうですから、推して知るべし。満足度は高く、お財布への負担は大きくない、コスパのよいディナーになることでしょう。
難点はまだオープン後2か月経たないのに早くも予約が困難だということ。3月はすでに満席で、4月の予約は3月20日ごろから受け付けるそうです。22時過ぎなど、遅めの時間にフラッと行けば入れることもあるそうですから、あきらめずにトライしてみてください。
清少納言は「遠くて近きは極楽。船の道。人の仲」と書きましたが、この「春のやきとり」がアナタと誰かの仲も近づけてくれるに違いありません。これ、暴食納言のおすみつき。
■ 鍈輝(えいき)
住所/東京都渋谷区恵比寿2-10-5 ROZIS1階
予約・問い合わせ/03-5422-8611
営業時間/18:00~24:00
定休/日曜