2022.02.27
【第2回】「共楽」(銀座)
銀座で60年続く奇跡のラーメン店「共楽」
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
- CREDIT :
文・写真/山本益博
だが、今はどの店も姿を消してしまっている。ラーメン屋ではあるが、「共楽」が銀座で60年も営業を続けているのは、小さな奇跡と呼んでいい。
私のガイドブック「東京味のグランプリ」1984版と85年版では、「共楽」を次のように紹介した。
共楽:銀座のド真ん中にあるラーメン専門店。
めんは中太、スープはしょうゆの味で煮干しのアクセントが強いが、飲みすすむうちに気にならなくなる。具はチャーシューと、よく煮込んだシナチクで、とてもおいしい。客は好みに応じて「油っこく」「めんかため」などと注文している。
「東京味のグランプリ1985」1つ星 中華そば370円
共楽:銀座のまんなかにあり、いつも混みあっている。
めんはちょっと太めで、ツルっとしていておいしい。スープもだしがきいて、コクがあり、とてもおいしい。チャーシューもおいしい。これで化学調味料を控えたら、素晴らしいラーメンになると思う。
2022年1月の品書きには「中華そば」800円、「竹の子そば」950円、「ワンタンメン」1000円、「チャーシューメン」1100円とある。
「共楽」は建て替えで一時休業ののち、等価交換で新しくなった店で、2019年5月営業再開。店頭にも店内にも小さな白いのれんが掛かっているが、これは屋台の名残りで、実際「共楽」は屋台から出発したという。
「共楽」
住所/東京都中央区銀座 2-10-12
営業時間/月~金曜11:00~18:00、土曜~16:00
定休日/日・祝日
TEL/03-3541-7686
※写真は2代目と3代目
現在は2代目とその子息3代目の二人がカウンター内で交代交代に中華そばを作っている。そして、その味は、以前の味をはるかに凌ぐ味わいである。まずは、うまみ調味料の味がしない。丁寧なスープの取り方によって、深みが感じられる。麺も自家製麺になった。伝統を大切にしながら、それを「守る」のではなく、新たな伝統を「創る」意思が感じられる中華そばである。これは、立派な小さな革命と呼んでいい。
一口に言って「郷愁」をそそる醤油味のラーメンだが、壁に貼られた「背脂あり〼」を加えていただくと、口頭で伝えて運ばれてきた「中華そば」はスープがなめらかでマイルドな味に変わり、アップデイトされた「ラーメン」に変貌する。
「郷愁の味」については、いつか西荻窪の「はつね」をご紹介する時に自説を披露したい。
● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique