2022.03.13
【第3回】「饗 くろ㐂」(秋葉原)
ラーメンが辿り着いた、ひとつの頂点「饗 くろ㐂」
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
- CREDIT :
文・写真/山本益博
岐阜・多治見に「信濃屋」といううどんと支那そばを食べさせる店がある。週のうち木曜・金曜・土曜の3日間のみ営業し、あとは仕込みに専念する麺一筋の専門店。30年ほど前に俳優でTVの人気番組「食いしん坊万歳!」で知られた渡辺文雄さんに教えていただき、何度も通い続けている店である。
さらに、うどんを口にふくむと、つるりというよりふわりとした噛み心地で、つゆと絶妙の相性を見せた。筆舌に尽くしがたいうまさとはこのことか? でも、言葉にできなくては人に美味しさを伝えられない。
悔しい。そこで、ご主人に伺うと『香露』かけうどんだという。「こうろ」が詰まって「ころ」。腑に落ちた瞬間、私の脳裏に浮かんだ言葉は「甘露」なうどんだった。以来、美味しい出汁を味わうたびに「甘露」を探し求めるようになった。
「饗 くろ㐂」の手もみ麺は柔らかさとしなやかさが絶妙
「くろ㐂」へ一緒に行かないかと仲間を誘い、ラーメンの名前を挙げると、誰しもが「しょっぱくないの?」と返してくる。味の濃いイメージのある「醤油そば」のスープはまろやかな醤油味で、塩辛いイメージのある「塩そば」のスープはやわらかな塩味である。どちらもけっして「しょっぱくない」。
「饗 くろ㐂」(もてなし くろき)
住所/東京都千代田区神田和泉町2-15
営業時間/11:00~14:30 火・木・土は17:30~19:30も営業
定休日/日・祝日
TEL/03-3863-7117
HP/饗くろ㐂(motenashi-kuroki.com)
※写真はご主人の黒木直人さん
具は、鶏の胸肉と豚肉のチャーシュー、薬味には、おろし生姜、粒胡椒のほかドライトマトが添えてあり、合いの手、アクセントにとてもよい、たっぷり盛られた青ねぎの香りもスープに効果てきめん。美的な盛り付けのセンスと言い、ラーメンが辿り着いた、ひとつの頂点とも言ってよい。
● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique
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