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2019.10.02

レストラン評価の新基準を作った「世界のベストレストラン50」はどこがすごいのか?

世界中のレストランから、最旬のわずか50軒だけがピックアップされる「世界のベストレストラン50」。毎年発表されるレストランには文字通り世界中からグルメたちが訪れ、新たなフードツーリズムを生んだとさえ言われています。2002年の開始から17年を経て大きく成長したアワードの秘密に迫ります。

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取材・文/木原美芽

いまや、フーディーならずともチェック必須となったグルメ界のアカデミー賞「世界のベストレストラン50」。毎年授賞式の開催地は各国を巡回し、この7月、2020年はオランダ・アントワープで開催されることが正式発表されたばかりです。

しかも噂によれば、同賞の前哨戦とも言うべき「アジアのベストレストラン50」授賞式は、ついに我が日本で開催されるとか! 両アワードの日本チェアマンを務める中村孝則さんに、その辺りも含めてお話を伺いました。
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2019「世界のベストレストラン50」授賞式。

“旬度があぶり出される人気投票”「世界のベストレストラン50」

世界中のレストランから、最旬のわずか50軒だけがピックアップされる「世界のベストレストラン50」(以下「ベスト50」)。まずは基本的な仕組みをおさらいしましょう。

評価対象は地球上すべてのレストラン。世界26の国と地域で、それぞれチェアマン含めた40人の投票者が組織され、合計1040人がランキングを決定します。

投票者はシェフやレストラン関係者、ジャーナリスト、食通が各1/3ずつで構成。選出はエリア毎のチェアマンに委ねられ、日本であれば中村さんがその任を担っています。

審査基準はたた1点、「ジャンル、国問わず、あなたにとってのベストレストランとは?」。各投票者はその基準にそって、10軒のレストランを選び、票を投じます。投票者がレストランに対し、自分の役割を公表することは絶対にありません。

「レストランの評価ポイントは、実はたくさんあります。味はもちろんのこと、店のコンセプト、ホスピタリティ、内装、シェフの個性、デザイン要素、アート性……。『ベスト50』の投票者はそれらに対して、各々の視点からジャッジします。イノベーティブな要素にあふれた店、ジャンルを超えた新しいムーブメントを、積極的に評価する点は、共通する姿勢。ですから、そこから浮かび上がるのは、まさに“旬”の姿なのです」(中村さん。以下同)
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中村孝則(なかむら・たかのり)

1964年神奈川県葉山町生まれ。コラムニスト。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。2007年にフランスで最も由緒ある、シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士勲位)の称号を受勲。2013年より「世界のベストレストラン50」ならびに「アジアのベストレストラン50」日本評議委員長に任命される。

英国に本部を構える「ベスト50」は2002年創設。中村さんは2013年からチェアマンを務め、丸7年もの間、日本を含めた世界中のレストラン・シーンを注視してきました。

「社会の多様性が叫ばれる昨今ですが、レストランにおいても、それは同じ。ミシュランをはじめ、世界にはいくつものレストラン評価スタイルがあります。『ベスト50』のそれをひと言で表現するなら、“旬度があぶり出される人気投票”ですね」

例えば皆さまよくご存知、表参道『傳』は、2017年45位、2018年17位、そして2019年11位と着実にランクアップ。これは、『傳』がいかに旬度が高く、またそれを維持し続けているかを示す象徴的なできごとだといえます。
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2018年「世界のベストレストラン50」の授賞式に出席した際の「傳」長谷川在佑シェフ。
「『ベスト50』の投票には、実は厳密なルールがあります。投票者は、投票日〆切前の1年半の間に実際に足を運んだ店の中から選ぶこと。10票のうち、最低4軒は自国以外に投票すること。投票者の1/3は、毎年入れ替わること。自身が投票者であることはレストランにも身内にすらも公表厳禁で、誓約書提出はマスト。しかもノーギャラ! 完全ボランティアなんです」

もちろん中村さん自身もボランティアなのだそう。投票者ともども相当な食に対する探究心と、内なる使命感、プライドがなければ、続けられない仕組みです。

「このアワードは、レストランがあるエリアを限定しない代わりに、投票者が『その場に移動して食べる』のが特徴。「世界ベスト50」であれば、最低でも年間で五大陸は巡っていらっしゃる方々にお願いしています。比較的若い方が多いのも、特徴のひとつでしょうね」

この数年、「ベスト50」への注目度、影響力は高まる一方。それだけに、公平性、信頼の確保には最大限の努力と注意を払っていると中村さんは言います。そのため質の高い投票者候補探しは、最重要任務のひとつ。アクティブで食に対する見識の高いフーディーがいないかと、常にアンテナを張り巡らせているのだとか。

「今、投票者として頑張っていただいている30代の男性は、海外の予約困難店でおひとりで食事されているところをお声がけしたんです。雑談してみると趣味は世界中での食べ歩きと、まさに打ってつけの方。即、スカウト! 一本釣り、要するにナンパですね(笑)」

一見ただただ華やかに見えますが、アワードのコンセプトと最上のランキング結果遵守のためには、地道な積み重ねがあるようです。

「アジア・ベスト50」授賞式は2020年、ついに日本で開催!?

毎年、「世界のベストレストラン50」に先駆け、春先に発表される「アジアのベストレストラン50」。2020年はついにその授賞式が、日本で開催予定だとの噂です。

「新聞報道によれば、2020年『アジアのベストレストラン50』開催地は、佐賀県武雄市になるとか。世界・アジア両方のアワードに長年関わってきた自分としても、日本開催は悲願でしたから、本当ならとてもうれしいですね」

しかし開催地が東京でも京都でも大阪でもなく、佐賀というのは、やや意外な感じも……。

「九州はまず、距離的にアジアへの窓口だと言えますよね。そして佐賀には海と山があり、食材、料理、酒を含めた深い食文化を持っています。また唐津、有田という、歴史ある器の産地もあります」
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有田焼創業400年事業の一環として、2016年5月に佐賀県有田町で開催された「世界料理学会in ARITA」。この催しでは、「器と料理のマリアージュ」をテーマに、世界で活躍する数多くのトップシェフを招へいし、器の“使い手”である料理人と、“創り手”である有田焼の職人が交流を深めました。また、トップシェフが作る、ここでしか味わえない一品料理を提供する「ARITA-バル」も開催するなど、2日間で延べ5500人もの来場者が集まり盛り上がりました。
佐賀は有田焼創業400年記念イベントなどに県をあげて取り組むなど、食イベントにも積極的。それらの効果もあって、最近ではフランス料理を中心としたファイン・ダイニングで、有田焼を使う店が非常に増えました。

「そうなんです。だから実は、佐賀はガストロノミーと非常に親和性が高いのです」

日本の「食」を目指して旅する外国人観光客を、より虜にするには

「ベスト50」の自国開催には、大きなメリットがあると、中村さんは力説します。

「セレモニーには世界各地のシェフやジャーナリストを含め、例年700人以上が参加します。彼ら発信者たちに、日本のカントリーサイドの魅力を体感してもらえる大変いい機会。ぜひ実現して欲しいですね」

政府が設定した、2020年・訪日外国人旅行者目標数は4000万人。既に2018年で前年比8.7%増の3119万1900人と、海外からの渡航者は増加の一途です。

しかもさらに旅行者の多くが、訪日の目的に「食」をあげています。観光庁「訪日外国人消費動向」2018年次報告書によれば、7割もの旅行者が、『日本食を食べること』が旅の目的と答えているのです。「アジア・ベスト50」授賞式が本当に日本で開催されれば、より一層、世界における日本の食への注目度はアップすることでしょう。

一方で、中村さんはこんな警鐘を鳴らします。

「これだけ多くの海外からのゲストを迎える時代、日本のレストランは従来型のスタイルからの脱却が求められています。内輪だけのルールに則ったおもてなしでは、違う文化を持った方々に心から楽しんでいただくことはできません」

だからこそ、今まさに発信力とコミュニケーションスキルが重要だと中村さんは言います。

「『ベスト50』の評価対象エリアは地球全体。ですからオリジナリティのあるしっかりとした料理をつくり、心からゲストを思うサービスをしていれば、日本のどこで店を開いても、投票者たちに見出されるチャンスがあります。ただし、ただ待っているだけでは、ダメなのです。

店を知ってもらい、来ていただくための情報発信は基本中の基本。今はSNSが浸透し、その点は以前より、かなり容易になったはずです。

それに加え料理人自身が、料理やそれに対する考え方、背景を伝える、自分ならではの言葉を持っているかどうかも、重要なポイント。自分の料理や店のコンセプトを熟考し、わかりやすい説明ができるよう、練り上げて欲しい。外国人のゲストに対しては英語でプレゼンできるのがベストですが、これは次なる課題でしょう」
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2019「アジアのベストレストラン50」授賞式で。左端は「傳」の長谷川シェフ。右端は「ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール ゴウ」の福山剛シェフ。
日本中がノーマークの中、「アジア・ベスト50」に彗星のごとく登場した福岡『ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール ゴウ』などは、素晴らしい料理に加え、これらを着実に積み重ねた結果、得た評価なのです。

「まったく別々の価値観をもった人びとに、『この店が私のベストだ』と選んでもらうことは容易なことではありません。うれしいことに、多くの若手シェフたちから『ベスト50に入るためにはどうしたらいいですか?』と相談を受けます。評価されたいという向上心をもつことは、本当に大切なこと。私も、先ほど申し上げたことを含め、できる限りのアドバイスを心がけています」

若手料理人たちにとっては、今ある場所でベストを尽くすというモチベーションになるのが、この「ベスト50」という存在だといえそうです。

 “世界の今”を丸ごと味わえるのが「ベスト50」レストランの醍醐味

「アジア・ベスト50」では、毎年2軒ほど日本から新顔が登場。2019年は『茶禅華』(23位)と『Sugalabo』(47位)がランクインしました。「ベスト50」には、常に新しい風が吹いています。

また最近では、台北『logy』の田原諒悟さんなど、アジア各国に活躍の場を移し、メキメキと頭角を現している日本人シェフも散見されますから、今後はますます、面白いランキングになりそう……!

「世界、アジアともに、『ベスト50』に入るレストランの共通項は、“ダイニング・エクスペリエンス”。料理、空間、人、雰囲気を丸ごと楽しめるかどうかです。

加えて社会とつながり、開かれているかどうかも、とても重要。近年、『ベスト50』では多様性、ジェンダー・クオリティにも特に気を配っています。例えば『ベスト50』には女性シェフ賞がある他、『世界・ベスト50』では既に投票者のほぼ半数が女性なんですよ」
もはや、レストランはおいしい料理を出すだけの場所ではありません。そしてまた、国境という線引の中で閉じていることすら、ありません。レストランを遊び尽くすためのひとつの指針として、「世界&アジアベストレストン50」のランキングは、今後も要チェックです。
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 世界中の美食家に愛されるファインダイニングウォーター「 サンペレグリノ」とは?

「世界のベストレストラン50」の国際スポンサーである「サンペレグリノ」。ブランド創立120周年を迎えた2019年は、これを記念して、特別に「ベスト120」までが拡大発表されました。

「『レストランの楽しみ方』にはたくさんの要素があって、実はお水もそのきっかけのひとつ。味はもちろん、空間演出ともリンクします。ガストロノミー・ウォーターである『サンペレグリノ』は、ダイニング・エクスペリエンスを彩る重要な役回り。『ベスト50』というアワードの世界観とも、ぴったり合致します」(中村孝則さん)。

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