当時も目黒の「とんき」や御徒町の「ぽん多本家」など名店は数多あったし、そんなお店は高価だったのかもしれない。でも、とんかつが劇的にご馳走化したのは、わたしの記憶では当時赤坂にあった「フリッツ」がきっかけだった。洗練された洋食で知られる「旬香亭」斎藤元志郎シェフによる揚げ物専門店だった「フリッツ」のとんかつは、母が家で長い菜箸を使ってシャアシャア揚げるそれとはひと味もふた味も違う、言うなればワインが飲みたくなるような味わいだった。
そしていま、とんかつ。選り抜いた豚肉を、中までしっとりとやわらかくロゼに仕上げるスタイルが流行している。わたしの好みはあまり生っぽくないオールドスタイルのとんかつなのだけど、それは置いておいても、とにかくとんかつはグルメ化し、ご馳走化しているように思う。たとえば某人気店のロースかつ定食は3000円超。おいしいし、キャベツはおかわりできるし、ごはんや味噌汁も吟味されているから満足度は高い。
でも、ときに、もう少し気楽なとんかつが食べたい。カジュアルな、目黒の「トラットリア ダル・ビルバンテ・ジョコンド」で出しているランチのコットレッタのような、薄くて、上にルッコラのサラダをのっけるから、始めはカリっとしていた衣も次第にビショつくような、そんなのもいい。そうか、とんかつと言うからグルメっぽいけど、もしかして私が食べたいのはコットレッタ的な、つまり「カツレツ」なのかも⁉
このほど、その佐藤さんが、「もんじゃさとう」の3軒隣りにカツレツの専門店をオープンさせた。その名も「貴族と平民」。そのココロは?
つまり、貴族はスペイン産のイベリコ豚ロース(1枚550円)、平民はドイツ産白豚ロース(1枚220円)と肉質と価格が異なり、そのほかはすべて共通メニューというわかりやすいお店なのだった。
◆ カツレツの店 貴族と平民
住所/東京都渋谷区富ヶ谷1-9-20 リンデン代々木公園 1F
予約・問い合わせ/03-6407-1791
営業時間/11:00~20:30
定休/年内不定休